ニュートン流体と非ニュートン流体

ニュートン流体と非ニュートン流体(Newtonian fluid and non-Newtonian fluid)

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1.ニュートン流体と非ニュートン流体

ニュートン流体とは、ニュートンの粘性法則にしたがう流体でせん断応力がずり速度(せん断変形速度)に比例する性状の流体をいいます。ニュートン流体は、水や、空気、アルコール、炭化水素などの低分子流体が該当します。

一方、ニュートンの粘性法則に従わない流体は、非ニュートン流体と呼ばれます。非ニュートン流体には、高分子流体(高分子融液や高分子溶液など)や、懸濁液、乳濁液、液晶、血液など多岐にわたる流体があります。これらの流体は複雑なレオロジー的挙動を示します。これらの流体は、内部構造を構成している要素である分子や粒子などの形状が、球状、棒状、ひも状などがあり、それらの配置や形状、配向などが流動する際に複雑に変化します。

 

2.流動抵抗の特性による分類

一般に流体の流動抵抗特性は,せん断応力とせん断速度との関係で表されます。本コンテンツでは、以下のように分類されることがあります。

 

2.1 純粘性流体(purely viscous fluid)

純粘性流体では、せん断応力\(\tau\) が時間に依存せず、流体内の速度勾配、すなわちせん断速度\(du/dy\) のみの関数で表せます。したがって、せん断応力とせん断速度との関係は、

\(du/dy=f_{1}(\tau)\) (式01)

になります。

また、せん断応力とせん断速度との比\(\tau/(du/dy)\) は、粘度\(\eta\) と呼ばれるものです。純粘性流体では粘度はせん断速度\(du/dy\) のみの関数になります。

ニュートン流体は\(du/dy \propto \tau\) の関係になる線形純粘性流体で、純粘性流体の特別な場合になります。純粘性流体は流動曲線の形によりさらに区分分けされます(図1)。このような流動になるのは物質構造が影響します。

viscosity fluid

図1 純粘性流体の流動曲線

(1)流れによる配向
粒子の形状が棒状あるいは板状の場合、流れの場では配向(流れの方向に揃うこと)が起こります。その結果、流れの抵抗は減少します。このように不球形粒子からなる分散系の流体は、せん断速度の増加とともに粘度が低下します。

(2)構造粘性
流体中に含有する粒子が大量に分散している濃厚分散系では粒子間の相互作用により、さまざまな強度で二次結合が起こり高次構造が形成されます。流動することにより高次構造が破壊されるのでせん断速度の増加とともに粘度は低下します。

(3)破壊・変形
粒子間に構造形成されていない場合でも、流れが強く流動応力が高くなると粒子自身が破壊または変形します。

せん断応力がせん断速度に比例するニュートン流体を除くと、純粘性流体は大きく次の3種類に分類されます。

A. 塑性流体(plastic fluid)

塑性流体には、粘度泥漿やアスファルト、身近なところでは歯磨きのペーストなどがあります。歯磨きのペーストは、チューブをしぼらないと出てきません。このように塑性流体はせん断応力\(\tau\) がある値\(\tau_{y}\) を超えたときに初めて流動する流体です。工学的には一種の理想流体であるビンガム流体(Bingham fluid)として取り扱われることが多いです。

ビンガム流体のレオロジー方程式は、

\(du/dy= (\tau – \tau_{y})/\mu_{p}\)   (式02)

と表されます。ここで\(\mu_{p}\) は塑性粘度(plastic viscosity)といいます。

ビンガム流体の挙動は、分子構造が次のように変化すると考えられます
材料が静止しているときは、構成分子間に三次元的な構造ができており、降伏値\(\tau_{y}\) 以下の応力ではその構造が保持されるが、それ以上の応力が負荷されると三次元組織が破壊されて、ニュートン流体と同様な挙動をすると考えられています。

 

B. 擬塑性流体(pseudo-plastic fluid)

擬塑性流体には、ガラス融液や繊維素エステル、デンプンのり、高分子物質の融液などがあります。擬塑性流体の流動曲線は、塑性流体のような降伏値は無く原点を通ります。せん断応力とせん断速度との比、すなわち見かけ粘度がせん断速度の増加とともに小さくなり最終的には一定値に近づくのが特徴です。

ちなみに、見かけ粘度がせん断速度の増加につれて減少することをシアシニング(shear thinning)といいます。

 

C. ダイラタント流体(dilatant fluid)

ダイラタント流体には、高濃度の固体分散系、例えば適当な配合の砂と水の混合物、雲母に水を加えたものなどがあります。最も身近な例としては水溶き片栗粉があります。ダイラタント流体の流動曲線は、擬塑性流体と同様降伏値は無く原点を通ります。ただし、見かけ粘度の変化は逆で、見かけ粘度はせん断速度の増加につれて増加します。

ダイラタント流体の挙動は、分子構造が流動により変化することによると考えられます。高濃度の分散系が静止している状態では分子間の空隙が最小になっており、その空隙に液体が充満しています。ゆっくりとしたせん断速度を与えると、充満している液体は粒子間の潤滑剤の役割をして比較的小さい抵抗で流動が起こります。せん断速度が大きくなるにつれて、高密度の充填状態にある粒子間のかみ合いが破壊されて、材料がわずかに膨張し空隙が増加する必要が生じるために抵抗が大きくなります。このような機構によりダイラタント流体はせん断速度が増加するに従い急激に見かけ粘度が増加します。

このような現象をダイラタンシー(dilatancy)またはシアシックニング(shear thickening)といいます。

ちなみに、シアシックニングのわかりやすい実例について、以下のユーチューブをご覧ください。

Shear thickening in concentrated suspensions (https://youtu.be/Ja-6JtEZ7lk

 

2.2 時間依存流体(time-dependent fluid)

時間依存流体は、せん断速度がせん断応力\(\tau\) とせん断応力が作用した時間\(t\) に依存します。したがって、せん断応力とせん断速度との関係は、

\(du/dy= f_{2}(\tau,t)\)  (式03)

になります。

このタイプの流体は、次のように次に示す2種類の異なった挙動を示します。

A. シクソトロピー流体(thixotropic fluid)

シクソトロピー流体の挙動は、等温下で流体を一定のせん断速度で流動させると、粘度またはせん断応力が時間の経過とともに減少します。シクソトロピー流体は静置しておくと再び固まります。シクソトロピー流体には濃厚な粘土溶液や石膏溶液などが属します。

一般の機械屋が最もなじみのあるシクソトロピー流体は塗料です。塗料はかき混ぜることにより粘度が下がって刷毛やローラで塗りやすい状態になります。塗料を塗装前に撹拌するのは、色むらを無くする役割だけではなく塗料のシクソ性を十分に引出す作業です。塗料は粘度が下がった状態で塗装された直後に粘度が上がって垂れなくなり、そのままの状態で乾燥し塗膜になります。

塗料に要求される、”塗りやすく、垂れにくい” という性質は、シクソトロピー性をうまく利用しています。

 

B. レオペクシー流体(rheopectic fluid)

レオペクシー流体とは、シクソトロピー流体とは逆に一定のせん断速度を加えると時間の経過とともに粘度またはせん断応力が増加する流体をいいます。レオペクシー流体についてはもう一つの定義があります。それは力を加えたことで粘度が下がったシクソトロピー流体を示す流体に緩やかな振動を与えるとそのまま放置しておくよりも粘度が上昇する性質がある流体です。

どちらの定義でも力を付加すると粘度が上がる性質は共通ですが、第一の定義ではシクソトロピーとは逆になる現象であるのに対して、第二の定義ではシクソトロピーの中に含まれる現象になります。レオペクシー流体はシクソトロピー流体と比較してあまり例が無いですが、ベントナイトゾルがあげられます。

 

2.3 粘弾性流体(viscoelastic fluid)

時間依存流体は、せん断力が作用してずり流動している場合に、せん断力を取り去ると若干弾性的に跳ね戻る現象が認められます。すなわち、ずり流動を起こすために付加された仕事が、弾性体のように完全に保存されず、純粘性流体のように完全に散逸しない、弾性的性格と粘性的性格の両方の性格を持っています。したがって、せん断速度はせん断応力\(\tau\) τとひずみ\(S\) Sとの関数になります。

\(du/dy= f_{3}(\tau,S)\) (式04)

になります。

大部分の高分子溶液や高分子融液が粘弾性流体に属します。粘弾性流体は粘性と弾性の両方の性質を持ち、純粘性流体とは全く異なった現象が認められます。

粘弾性流体が示す特殊な挙動として以下のようなものがあります(図2)。

elasviscosity fluid

図2 粘弾性流体の挙動

 

(1)跳ね戻り現象:粘弾性流体がせん断力を受けて流路内を流動しているときに、せん断力を与えなくすると流体が流動方向とは逆方向に戻る現象

(2)ワイゼンベルグ効果(Weissenberg effect):流体を容器に入れて、その中心で棒を回転させるとニュートン流体では遠心力によって流体表面の液面は容器壁面で高く中央部では低くなるのに対して、粘弾性流体の場合は棒に巻き付いて上に登って、液体表面は容器壁面で低くなり中央の棒に近づくにつれて高くなります。これは弾性のある流体に回転運動を与えると、流れと直角方向(法線方向)に圧力が高くなるため発生します。そのため法線応力効果(normal stress effect)ともいいます。

(3)バラス効果(Barus effect):粘弾性流体に圧力を加えて細いノズルから気相に流出させると、流出した流体の直径がノズルの直径より大きくなる現象です。

(4)サイフォン現象:ニュートン流体の場合はサイフォンの入口より液面が低下するとそれ以上液の流出はありませんが、粘弾性流体の場合は液面が入口より低下しても流出が続きます。この性質は高分子流体の曵糸性に関係があります。

(5)トムズ効果(Toms effect):粘弾性挙動を示す希薄高分子溶液を乱流状態で管内に流した時の管摩擦損失は、同じ流速で溶媒を流した時の管摩擦損失より著しく減少します。

 

3. まとめ

以上をまとめると表3のようになります(これ以外のまとめ方もあります。)。

Newton fluid and Non-Newton fluid

表3 流体の分類

 

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参考文献
容器内流れ学   辻 正一  日刊工業新聞社
管路・ダクトの流体抵抗   日本機械学会
粘弾性流体の流れ  富田幸雄  不明

 

引用図表
図1 純粘性流体の流動曲線  容器内流れ学
図2 粘弾性流体の挙動   容器内流れ学+粘弾性流体の流れ
表3 流体の分類      ORGINAL

 

ORG: 2020/3/2

 

追記(2020/3/2)

富田先生の粘弾性流体の流れの中には粘弾性流体の特徴として回転板によるスワールの二次流れについてあげられています。これについて、解説されている内容は理解できるのですが、現状まだ管理人が正しく解説ができないので割愛しました、リライト時に追加できるように努力します。