IE(インダストリアルエンジニアリング)手法を用いた製造ラインの改善

IE(インダストリアルエンジニアリング)手法を用いた製造ラインの改善
        (Improving production lines using IE (industrial engineering) methods)

 

 

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0. はじめに

インダストリアルエンジニアリング(IE)は、製造ラインの効率性、生産性、品質を向上させるために不可欠な手法です。製造プロセスの最適化を目指す際、IE手法は、ムダ、ムラ、ムリを排除し、コスト削減、品質向上、安全性の確保など、企業の競争力を高めるための基盤を提供します。本稿では、IE手法を用いた製造ラインの改善方法について、具体的な進め方を解説します。

 

1. 改善の進め方

製造ラインの改善のためには、帰納的アプローチと演繹的アプローチの二つの方法があります。帰納的アプローチでは、現場の現状を深く理解し、問題点を特定してから改善策を検討します。これに対し、演繹的アプローチでは、理想的な生産システムを構想し、その理想に近づけるよう現状を変革していく方法です。両アプローチは補完関係にあり、効果的な改善活動のためには、両方の視点からのアプローチが重要です。


図1 製造ラインの改善の進め方  ORIGINAL

 

2. 帰納的アプローチのステップ

帰納的アプローチを行う際の手順を以下に示します。

図2 帰納的アプローチのステップ  ORIGINAL

 

Step1:問題点の特定

改善活動の最初のステップは、製造ラインにおける問題点を正確に把握することから始まります。この段階では、生産の各工程を観察し、PQCDSME(Productivity, Quality, cost, Delivery, Safety, Morale, Environment)の切り口を適用して、問題点を洗い出します。問題点の特定には、現場作業者からヒアリングすることも、極めて重要です。彼らは日々の業務を通じて、問題発生の兆候や改善のヒントを持っていることが多いからです。
(1)P(生産性;Productivity):設備のチョコ停や性能低下により、生産量の低下は無いか、生産量のばらつきは大きくないか、もっと生産量を増やせないかなど、生産性を阻害している要因を調査します。
(2)Q(品質;Quality):不適合品(不良品)は、多発していないか、品質のばらつきは無いか、品質を阻害している要因は何かなどを調査します。
(3)C(原価;Cost):製品原価が高い製品は何か、変動費の原単位、固定費の削減はできないか、どの原価項目が問題なのかを調査します。
(4)D(納期;Delivery):納期遅延は無いか、外注管理は適正か、突発受注が多発していないか、仕掛品が過剰では無いかなどを調査します。
(5)S(安全;Safety):労働災害が起きていないか、作業環境(証明、騒音、粉じんなど)に問題は無いかなどを調査します。
(6)M(モラル;Morale):職場の規律に乱れは無いか、作業員同士の協力は無いか、作業への取組み意欲はあるかなどを調査します。
(7)E(環境;Environment):産業廃棄物を削減できないか、公害対策は出来ているかなどを調査します。

 

Step2:IE分析による現状の把握

手順1 PQ分析:横軸には製品品目を、縦軸には各生産品目の生産量、金額、あるいは重量などを取り、数字の大きい順に棒グラフを描き、主力となる製品・部品を明確にして、改善の重点品目を絞り込みます。
手順2 総括工程分析:原材料から製品に至るまでの製造ライン全体の流れを、工程図記号で記述することにより現在の状態を把握します。
手順3 稼働分析:ワークサンプリング法などにより稼働分析を行います。工場全体、製造ライン、職場の各単位で、機械設備および作業員の稼働状況を把握します。
手順4 流れ分析:工場のレイアウト図に基づいて、原材料から製品に至るまで、モノの物理的な流れや付随する情報の流れを検証します。
手順5 ラインバランス分析:各工程間のバランスを調査して、一番作業時間の長いボトルネック工程を把握します。
手順6 連合作業分析:ボトルネック工程における設備・機械と作業員の作業内容をチャート化して把握して3ム(ムリ・ムダ・ムラ)のロスを見極めて、改善のねらい目を明確にします。
手順7 運搬分析:材料や製品の移動・運搬や取扱いについて分析します。運搬工程は付加価値を生まない作業です。従って、工程内で運搬工数を最小化することが工程の改善につながります。マテハン分析ともいいます。
手順8 動作分析:単位作業もしくは1サイクルの作業について、作業者の動作内容を詳細に分析します。各作業における、ムリな姿勢・ムダな作業などを、個々の作業の動作について調査します。

 

Step3:改善ポイントの見極め

改善の切り口である「安・正・早・楽」の原則に基づいて、改善ポイントを見極めます。
 ・安:原価を安くする。
 ・正:作業標準を順守して、信頼性を向上させる。
 ・早:作業の効率を上げて、作業時間を短縮する。
 ・楽:作業方法が容易になるようにして、作業員の過剰な負担を減らして、疲労を残さないようにする。

 

Step4:改善8原則に基づく検討

(1)明確化:何のために改善するのかを明確にします。例えば少人化なのか、増産したいのかなど目的を明確にします。
(2)廃止:不要なモノや仕組みを止めます。不要な工程・工数、不安定作業、調整作業などを極力減らします。
(3)最適化:必要なモノを優先的に採用して、製品や工程を最適化します。安全性に不可欠な機能の採用や、製品の付加価値を上げるためのデザインなどの高度化を図ります。
(4)分業化:熟練作業者が一人で行う作業について、工程を分割して熟練作業者しかできない工程と、単純作業とに分割して、それぞれ熟練度に応じた作業員を配置することで、製造原価が低下します。
(5)機械化:手作業を極力機械化します。もちろん手作業には単純なものから複雑なものまでありますが、まずは単純なものから機械化できないか検討します。複雑なものについては、作業者が行った方が良い部分と、機械化すべき部分とを区分して機械化を進めます。すべてを機械化しようとすると、なかなか改善が進みません。
(6)標準化:原材料、機械設備、作業方法および作業条件などの標準化を検討します。例えば、原材料については自社工程内で混合等が可能なら、極力オリジナルな形で購入・保管したり、機械設備では、メーカや性能を極力種別を減らすように、計画的な設備計画を立案して、計画的に購入することが必要です。
(7)同期化:工程間の仕掛品を極力減らして、工程の同期化を図ります。トヨタ生産方式では、仕掛を極力減らす仕組みを構築を目指します。
(8)自働化:異常が発生したら停止する自働化を目指します。トヨタ生産方式では、多能工化による多工程持ちが基本になっていますが、この場合は、作業員が対応していない工程で異常が発生して、不良品が発生することを避けるために、異常が発生したら、機械設備が自動的に停止するニンベンのついた「自働化」が必要です。

 

Step5:改善案の作成

改善ポイントの見極めが完了したら具体的な改善策を立案します。その際、改善による効果は全て金額で換算して、改善実施にともなう設備費や諸経費などについては、見積計算を実施する必要があります。
素晴しいといえる改善案を提案しても、改善実施を判断する責任者が納得しなければ改善は進みません。改善案の段階で、関係者全員のコンセンサスを取る必要があります。
また、改善を進める際に、安全性を第一である必要があります。安全性を軽視して、事故が発生すれば改善は進みません。

 

Step6:試行

改善案を試験的に実施し、初期流動管理を徹底します。特に予測される効果が不確実な場合、また失敗すれば損失が大きい場合は、試験的に実施して確認する必要があります。そのためには、テストプラントなどにより小規模に製品試作を行ったり、本格的な設備を導入するために小型の設備機械を適用して、結果が良好であればスケールアップを進めるなどです。

 

Step7:実施

試行で良好な結果が得られると、実施に移行します。実施する場合には、改善の目的、予測できる効果、メリットなどを全社的に説明して、納得が得られることが必要です。従業員が納得しないで改善を進めようとしても、期待される効果が得られません。
実施するためには、時間がかかりますので、実施移行計画を作成して、すぐにしなければならない事と、中長期的にすべき事を区分して、慎重に進めて行かねばなりません。

帰納的アプローチによる製造ラインの改善は、現場の具体的な問題を根本から解決し、生産性の向上、コスト削減、品質の向上を実現するための有効な手段です。現場の声を大切にし、現状を正確に把握することが、成功への鍵となります。

 

3. 演繹的アプローチの取組み

演繹的アプローチは、理想的なシステムや目標から出発し、その理想を実現するために現状をどのように変革していくかを考える方法です。製造ラインの改善においては、最適な生産システムを設計し、それを実現するための戦略を立案するプロセスを含みます。このアプローチは、将来のビジョンを明確にし、それに向けて具体的なステップを踏んでいくことを特徴とします。以下に、演繹的アプローチによる改善の進め方を詳しく解説します。


図3 演繹的アプローチのステップ  ORIGINAL

 

Step1:理想のシステム設計

演繹的アプローチの最初のステップは、理想的な生産システムや作業プロセスの設計を行うことです。このプロセスでは、市場の要求、技術の進歩、環境への配慮など、多岐にわたる要因を考慮に入れながら、将来の目標を設定します。理想のシステムは、最大限の生産性、最高の品質、最低限のコスト、そして従業員の安全と満足を確保するものであるべきです。

 

Step2:現状と理想のギャップ分析

理想のシステムが設計された後は、現状の生産システムや作業プロセスと比較し、理想に到達するために必要な変革を明確にします。このギャップ分析では、現状の問題点や非効率性を洗い出し、理想のシステムとの違いを具体的に把握します。この段階で注意すべきことは、現状の限界に着目するだけではなく、潜在的な可能性や改善の機会を見出すことです。

 

Step3:改善戦略の立案

ギャップ分析を基に、具体的な改善戦略を立案します。この戦略には、技術的な改革、プロセスの再設計、作業環境の改善、人材育成など、多方面にわたる取組みが含まれることがあります。改善戦略は、短期的な目標と長期的な目標をバランスよく設定し、段階的に理想に近づけていくことが重要です。

 

Step4:実施と評価

改善戦略が立案されたら、それを実際に実施します。このプロセスでは、計画の進捗を定期的にモニタリングし、必要に応じて調整を行うフレキシビリティが求められます。実施内容を確実に性交させるためには、関係者全員の協力とコミュニケーションが不可欠です。また、改善の効果や目標達成度を定量的に評価し明確にすることで、次の改善のサイクルへ適用すべきデータを提供します。

 

Step5:継続的な改善

演繹的アプローチにおいては、理想のシステムに到達した後も、継続的な改善活動が重要です。市場の変化、新技術の出現、組織の変化など、外部および内部の環境は常に変動します。従って理想のシステムを維持し、さらに改善を進めるためには、継続的な見直しと更新が必要になります。

演繹的アプローチによる製造ラインの改善は、未来志向のアプローチであり、革新的な改善を目指します。理想と現実のギャップを埋めるための具体的な戦略を立案し、実装することで、製造ラインの効率化、生産性の向上、そして持続可能な成長を実現することが可能です。

 

4. 帰納的アプローチと演繹的アプローチ

帰納的アプローチは現場からのボトムアップの改善を目指すのに対し、演繹的アプローチは理想的なシステム設計からのトップダウンでの改善を目指します。両アプローチを組み合わせることで、より包括的で効果的な製造ラインの改善が可能になります。
このように、IE手法を用いた製造ラインの改善は、現状の深い理解と理想への志向を組み合わせることで、生産性の向上、コスト削減、品質の向上を実現できます。絶えず変化する市場の要求に応えるためには、これらの手法の適用と進化が不可欠です。

 

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参考文献
コストダウンのためのIE入門   岩坪友義  日経文庫  日本経済新聞社 1995年

引用図表
図1 製造ラインの改善の進め方  ORIGINAL
図2 帰納的アプローチのステップ  ORIGINAL
図3 演繹的アプローチのステップ  ORIGINAL

ORG:2024/02/10