IE

IE(Industrial Engineering)

 

スポンサーリンク

 

アフィリエイト広告を利用しています。

 

1. インダストリアルエンジニアリング(Industrial Engineering)とは

 

1.1インダストリアルエンジニアリングの定義

インダストリアルエンジニアリングとは、「人・材料・設備・情報を総合したシステムの設計、改善、確立に関する活動であり、そのシステムから得られる結果を明示し、予測し、評価するために、工学的な分析、設計の原理、方法、手法とともに、数学(統計学)、物理学、社会科学、人間工学などの専門知識と経験をよりどころに行うものである。」と定義できます。

インダストリアルエンジニアリングは、日本語では生産工学や、経営工学など色々なタームに訳されていますが、少しずつニュアンスが異なるので、現在では、英語で”IE”と示されることが多くなっています。本コンテンツでも、IEと略称し、IE手法と名付けて解説を進めます。
IEの主要な目的は、生産管理の最適化です。ものづくりにおける3ム(ムリ・ムラ・ムダ)を発見して、それらを排除する取組みをして、工程の最適化を行います。これにより企業としては、生産性向上や収益向上が期待できます。

しかしそれだけではなく、IE手法を取り入れた工場の最適化活動は、その活動に携わる技術者の質を向上させます。経験や、勘、コツに頼った活動では無く、科学的なアプローチで、より幅広い事象に対して、的確な解を得ることができます。さらに、このIE手法による最適化の活動は、常に現状を調査し、分析し、最適化を追究するカイゼン活動につながっていきます。

IE手法を習得し、高いカイゼン意識を持った技術者を数多く養成することで、全社的に前向きに変化を求めるマインドを根付かせることができます。

 

1.2 IEを導入すると会社が強くなる

IE手法を活用して、業務活動が最適化されると、会社が強くなるといわれます。その理由は以下の3点にあるといわれています。

① 従業員が⽇々の業務を⾃らの意思で改善しようとする。
IEは技術者だけのものではありません。経営陣を先頭に、従業員にも、IEマインドを広く浸透させ、共通認識をもって改善活動を継続することが⼤切です。
一人ひとりが、「会社を⾃らの⼿で改善する」という強い思いを持って、従業員⾃らが問題点を探し出して、改善するために⾃分の能⼒を発揮するようになります。「会社や上司から⾔われたことだけを実⾏する」のではなく、一⼈ひとりの能⼒を会社のために活⽤していかなければ、競争に勝ち残れません。
どの様にすれば改善されるのか、働きやすい環境にするにはどうしたら良いのか、⼈間のもつ「考える」という能⼒を最⼤限に⽣かし、従業員がひとつの集団となって課題解決に取組むことで、企業はさらにポジティブに成⻑するはずです。

② 問題認識と課題解決に対する意識が⾼まる。
IEを活用して得られた結果を基に、業務の最適化を図りますが、その際一部のマネジメント層だけが推進するのではなく、問題認識や課題解決に対応するチームを作り従業員と共に改善していくことが大切です。
組織的に取り組むことで様々なアイディアや考えが生まれ、それと同時に会社全体の改善や解決に対する意識も高まります。チーム一丸となって課題解決に取り組む姿勢がより会社を強くします。

③ 組織をまとめるリーダーが多く育つ。
課題解決に取り組むチームには、優秀なリーダーが必要です。リーダーを育成するのは、企業にとって重要な課題です。誰もがすぐ優秀なリーダーになれるわけではありません。
⾃社の課題をどう解決するか、組織のメンバーを改善計画に従わせるにはどうしたら良いのか、様々な課題やミッションを抱える中でリーダーになる⼈は常に考え、思考を巡らせます。そのような環境の中で、優れた⼈材は育ちます。その結果、組織が良くなれば、会社全体も良くなるという構図が出来上がります。リーダーがしっかりメンバーを率いている会社は強くなります。

IEは、歴史的に見れば製造現場を中⼼とした改善からはじまりましたが、ものづくりのムダを省き、最適化を⽬指す中で、経営管理や⼈材育成にも⼤きな影響を与えるようになりました。すべてのバランスが上⼿く取れた時に、会社は強く⼤きく成⻑していきます。

 

1.3 IEの歴史

今日ものづくりのいろいろな場面で適用されるIE手法の誕生と発展の歴史は、産業の発展に伴い発生する諸問題を解決するための、生産技術の革新・改善の歴史そのものです。

ものづくりの歴史を概観すると、工場制手工業の時代から工場制機械工業への転換が、ジェームス・ワットによる蒸気機関の改良(1765年)により、行われました。これは効率的な蒸気動力の供給により、機械化による生産が可能になった(第一次)産業革命です。18世紀イギリスで始まりました。

IEという、人が行う作業に注目した取組みは、イギリスのバベッジ(Charles Babbage:1791 – 1871)に始まるといわれています。バベッジは世界で初めてプログラム可能な計算機を考案しました。バベッジは1800年初頭にイギリスやアメリカの工場を訪問し、多くの工場運営に関わる詳細を体系的に記録し始めました。その成果として、著書著書『機械化と⼯業化がもたらす経済効果(On the Economy of Machinery and Manufactures)、1835年4 ed.』 で、こんにち「バベッジの原理」と呼ばれる、作業を分割することによる効果を示しています。すなわち、「熟練した高賃⾦の労働者は、常にそのスキルを最⼤限に発揮しているわけではない。従って、その仕事を分割して複数の労働者を雇い、スキルを要する仕事には熟練労働者に割り当て、その他の⽐較的簡単な仕事については、熟練度の低い労働者に割り当てることにより、全体として労働コストの削減につながる。」というものです。このバベッジの原理は、テイラーの科学的管理法の前提になっています。

続いて、19世紀後半には、テイラー(Frederick W. Taylor)による時間研究、続いてギルブレス(Frank B. Gilbreth)による動作研究が、本格的なIEの始まりになりました。テイラーとギルブレスとは、ほぼ同時期にIEの重要な要素である、時間分析、動作分析をそれぞれ行い、やがてそれらは融合されることになりました。

テイラー、ギルブレスそれぞれの後継者は、IEをより発展させていきましたが、ここでは例としてガント(Henry Laurence Gantt)を挙げておきます。ガントは、古典的なプロジェクト進捗の管理ツールで有名な、ガントチャートを考案しました。ガントは1887年から1893年までテイラーのチームに所属した後、経営コンサルタントとして、ガントチャートや工場における合理的な賃金体系、労働者の生産性測定法などの開発しました。

IEの手法としていろいろなツールが生まれましたが、それらの適用ということで、20世紀から現在まで、人々の暮らしに大きな影響を与えている、自動車産業でのIEの適用について概観します。

自動車は1769年にフランスのニコラ・ジョセフ・キュニョーが蒸気で走る自動車が最初です。その後ガソリン自動車に先立って電気自動車が1873年に実用化されました。

ガソリン自動車は、1886年にドイツ人のゴットリープ・ダイムラー、カール・ベンツがそれぞれ独立に完成させました。

本格的な量産は、1908年に登場したT型フォードです。アメリカ人のヘンリー・フォードは1903年にフォード・モーターを設立しました。1913年には史上初のコンベアラインが完成して、1日1000台生産可能になりました。いわゆるフォードシステムといわれる生産方式です。

次にT型フォードの画一化した自動車生産への対抗として、多種多様な自動車の提供を部品の共通化によるコスト上昇を抑えながら、業績を大幅に改善させて、フォード・モーターを抜き去り、世界一の自動車会社にしたのが、GM社のスローン(Alfred R. Skoan)です。

自動車の製造は、日本では戦前から始まりましたが、トラックが中心でした。産業として成立し始めるのは、第二次世界大戦後になります。GHQによる自動車の生産制限が1949年に解除されました。

多くは海外メーカとの提携によるノックダウン生産により最新の自動車生産技術を習得する形で始まりました。その中で、トヨタ自動車は、フォード社との技術提携も模索しましたが、朝鮮戦争の影響で実現しませんでした。しかし代替としてトヨタ自動車の技術者がフォード社で研修することにより、我彼の差を認識し、生産管理の重要性が経営者を含めて理解されることとなり、トヨタ生産システムと呼ばれる非常に優れた方式を生み出すことになります。トヨタ生産システムはIEの立場から見ても非常に合理的な思想です、

現在でも、トヨタ自身の生産方式にとどまらず、リーン生産システムとして一般化され、多くの製造業に影響を与えています。

1980年代からパーソナルコンピュータが普及しはじめ、製造業の現場にも取り込まれるようになり、インターネットとWindowsの普及により更に、企業全体に大きく組み込まれることになりました。
IoTやDXなどのタームがよく言われますが、新しい生産システムの考え方として2013年にドイツでインダストリー4.0が発表されました。これは、第四次産業革命ともいわれています。日本でも2016年にソサイエティ5.0が通商産業省から提案されました。ソサイエティ5.0はインダストリー4.0がものづくりがメインなのに加えて人の関わりも含めたものです。

以下は、代表的なトピックスを示します。

図1 産業発展の歴史と生産システムの推移  ORIGINAL:参考:IE手法 中村茂弘先生

 

1.3.1 テイラーによる科学的管理法

テイラー(Frederick Winslow Taylor:1856-1915)は、弁護士であった父の跡を継ぐために弁護士を目指していましたが、ランプの光の下での勉強で、目を悪くして進学をあきらめ、最初はポンプ工場に見習い工として就職し、4年後にミッドベール製鋼所に転職して、工員から出発して6年後には技師長にまで昇進しました。

当時の現場管理方式は、人間性を無視した理屈に合わないものばかりだったそうです。例えば、当時は出来高制の賃金でしたが、作業の能率が上がると経営者側は単価を切り下げて、実質的に賃金カットを行うひどいものでした。テイラーは、管理者になってから、人間性尊重の立場から、「この解決のためには労使双方の何れの側からみても納得できる仕事量を決めるべきであると」考えました。また、この「公平な 1 日の仕事量」を決める方法は、「科学」を用いるしかないという発想を持ちました。

図2  F. W. Taylor  Wikipedia

テイラーは、以下のような科学的アプローチにより「仕事の分析」を行いました。
① 分析によって仕事の実態をつかむ。
② 次のその中から量的な性質を抽出し、それを定量化する。
③ 測定によって得られた結果から改善案をつくる。
④ 実験してみる。
⑤ 実験結果を集計し統計理論によって効果を判断する。

これらは、IEの基本となる、「仕事に対する現状分析 → 改善追究」を具体的に行う方法です。こうして一つ一つの動作要素について改善後にかかる時間を与えて仕事の達成時間を決めました。これが現在のストップウォッチ法の基本となるものです。

テイラーは、この時間観測の研究を基本として、いくつかの実践事例を残しています。

1)金属切削研究

ボーリングミルを用いて車輪切削を対象に、切削工具の形状や製作法、使い方をどのようにすれば、仕事が効率よくできるかを研究しました。実験に要した期間は26年間、実験回数30~50千回、使用材料370トン、実験費用150~200K$(当時)と、膨大な期間、費用をかけた研究でした。その結果は切削速度に影響するパラメータとして12個を特定し、金属切削を最短時間で行うためには、「切削速度」と、「送り」、「切込み」の3つのパラメータを、如何に組み合わせるかということを導き出したそうです。

 

2)シャベル作業の研究

テイラーは1890年にミットベール製鋼所を去り、コンサルティング・エンジニアとして各会社の改善に参加する活動に入ると同時に、彼の思想と方法を展開しました。コンサルタントとして、鉄鋼以外の業種でも、時計による観測を行い、2,3 の仕事の改善を実践しましたが、この科学的な仕事研究は、必ずよい結果を得たため、この方法に強い自信を持ったそうです。

ここで示すシャベル作業の研究は、非常に有名なものです。当時、ベツレヘム製鋼所の鉱石ヤードには400~600名の作業者が働き、鉱石や粉炭のシャベル作業に従事していました。テイラーは、いかなる作業方法が最大の運搬量を実現するかの研究に着手しました。具体的な実施にあたり、テイラーは、改善の目的を明確にし、2~3 名の熟練作業者を選んで観測しました。

その結果、シャベル一杯の重さが一定で、疲れず、1 日の出来高が最高になるのは 1回の運搬重量が21~22 ポンドのときであることを導き出しました。さらに、シャベルを運搬物の山にさし込み、引き出すときの速さや、シャベルをさし込むとき、下が地面の場合や、鉄板の場合でいかに変化するかなどシャベルメーカーでも研究していない、シャベルの基本研究をして、シャベルの大きさ、形状などを試作実験しました。

その成果として、どんな材料の場合でも常に21.5ポンドがすくえるように約10種類のシャベルを用意しました。同時に、シャベルを作業者の私物から会社持ちにし、シャベル工具室を設けて作業者に貸与するように変更しました。

さらに作業の計画部門を作って、毎朝職長が作業者に作業内容、場所を指定して、適正なシャベルを貸与し、一人ひとりの出来高を毎日測定し、一定量の仕事量を遂行したものには加給金を支払うことにしました。もし加給金がもらえない作業者がいると、指導者が正しい作業方法を訓練して、出来高に応じた加給金がもらえるように指導と援助を行いました。

ベツレヘム製鋼所で、この方式を活用した結果、3年後、投資はほとんど無い状況で、下記に示すような成果を得たの報告が残っています。
① 作業者人数 400~600 名 → 140 名
② 平均出来高 16ton/人・日 → 59ton/人・日
③ 平均賃金 $1.15 日 → $1.88 日(スキル向上に伴う昇給)
④ 作業費用 ¢7.2/ton → ¢3.3/ton(46%化)
⑤ 節 約 額 $78,000/年

さらに作業班別の出来高研究を進め、シャベル作業ではグループ単位で仕事を進める方式より、個人別に扱った方式の方が仕事量は増加すること、という現場管理方式も明らかにしました。
このように、テイラーは、生産管理の基本システムである、日々管理システムを提案しました。今日これはテイラーシステムと名付けられています。また、テイラーの研究はその後、経営工学的、人間工学的な研究の端緒になりました。例えば、労務政策や工場組織論、賃金制度、疲労研究など多くの学問が発展しました。

 

1.3.2 ギルブレスの動作研究

テイラーが作業時間の測定を中心に研究を進めていた時代に、時間という概念を全くといって良い程考慮にいれずに、作業の生産性について研究に取り組んだ人がいました。
その人はギルブレス(Frank Bunker Gilbreth, Sr.:1868-1924)です(図3)。テイラーの時間研究には動作の研究も含まれていますが、主な関心は材料や設備工具を含む作業方法の研究にありました。

図3 ギルブレス夫妻  Wikipedia

これに対し、ギルブレスは動作そのものの研究から仕事の改善を進めて行きました。ギルブレスは1868年米国のフィアフィールドで生まれましたが、幼少時に父親を亡くし経済的困窮から一度は志したマサチューセッツ工科大学入学をあきらめて、17歳のときに、建設会社にレンガ積み職人として入社しました。

ギルブレスは、単に賃金を多く得るために早く熟練職人になりたいという発想ではなく、そのためには、どのような作業方法を取ればより効率よくレンガ積みが出来るかを考えました。熟練職人数名の作業手順や動作を観察して、その動作を細かく分析し、正味作業と付帯作業とに分割するなどして改善をはかっていきました。その結果、1個のレンガを積むのに18動作かかっていたのが5動作でできるようになり、熟練職人の3倍の生産性を得るようになり、給料も多く得ることができたそうです。

しかし彼は、その方法を秘密にするのではなく、逆に教えを請うた熟練職人に教えて、皆の生産性を上げ、給与増に結び付けたそうです。

彼は、その成果を自分のためだけでなく、広く同業者にも教えるようになり、さらにレンガ積み以外の仕事の改善にも動作研究を進めました。やがて、これらのことが評判になり、アメリカ機械学会(ASME:American Society of Mechanical Engineers)で、講演を依頼され、その時の発表内容は注目の的になったそうです。その理由は、「人の作業は、18種類の記号で分解され、どのような仕事でも分析の後、改善が効率的に検討できる。」という科学的内容を示したからでした。図4 に示すサーブリッグ(Therbligs)記号がそれです。サーブリッグという名前は、アメリカ機械学会での発表の際、「これらの記号の名称は?」と聞かれて、とっさに自分の名前ギルブレスを逆さに読んで、サーブリッグ(Girbreth → Thwrbrig)にしたとされています。

 

図4 サーブリッグ記号  ORIGINAL

 

テイラーが時計観測を中心に、作業を要素に分け、時間を評価基準として改善するという方法に相対する形で、仕事の手順を分析して要素を評価→改善した結果、生産性をあげるという2大手法が、ほぼ同じ時期に誕生しました。
ギルブレスの偉業は、動作分析を行なうと、仕事は目に見える形に示され、ムダを排除する道具として単位動作を示す記号を使うことにより、更には、この単位で作業を眺めてみると、一般の作業にはかなり多くのムダな動作が含まれていることが、意識できることを広く知らしめたことです。
このように小さな単位で作業をみる行動を、『モーション・マインド』と名付けられました。彼は、更にこの研究を進めました。その中には、例えばムービーカメラを用いて、動作に要した時間や、速度、加減速の状況観察に基づく細かな動作改善に役立つ手法などを開発していきました。まさにこれは、ビデオを用いて、ムダな作業を発見する現代でも有効に使用されている手法です。
ギルブレスは、動作分析の研究を進めて、「工程分析」や、「レイアウト改善」、「設備改善」などの無駄を排除する手法の開発を進めました。やがて、彼はリリアン夫人(Lillian Moller Gilbreth:1878-1972)と共に、米国IE協会(AIIE)を設立して、これらの研究の進展と普及に努めました。ギルブレスは 56 才にして死去しましたが、リリアン婦人が彼の偉業を継ぎ 米国 IE 協会の会長を引継ぎ、彼女自身多くの研究成果を残し、92歳でこの世を去る直前までIEの普及に努められたことは有名な話です。

時代が進み、ギルブレス流の動作研究は、テイラーの時間研究と一体化され、動作に対する時刻表というべきPTS(Pre Determined Time Standard System)法へと発展していきました。

 

1.3.3フォードⅠ世によるコンベア生産

フォードⅠ世(Henry Ford:1863-1947)は、フォード自動車の創設者であり、ガソリンエンジン式の自動車の開発者です(図5)。T型フォードの開発により、自動車を大衆化させたことで有名です。

IEの分野では、コンベアの開発が有名ですが、それ以外にも自動車部品加工設備の自働化などでも大きな技術革新を進めました。ここでは、フォードのコンベアシステムについて考えてみましょう。

図5フォードⅠ世  Wikipedia

フォードとそのスタッフは、1910年ごろからテイラーの時間研究や、ギルブレスの動作研究などの考え方に基づき、1つの作業を徹底的に、しかも科学的に研究し、部品加工の高速化や専用機化、熟練不要の作業標準化、労働分割専門化、流れ作業など、いわゆるフォードの大量生産方式の追求に努力していました。
このような時、フォードは、たまたま、屠畜工場を見学する機会を得て、そこで、台上を牛が流れ、解体作業が行われて、骨と肉とを仕分けされる様子を観察したそうです。フォードはこれから着想を得て、「逆に、部品倉庫の中で、ロープで自動車を引き、組立すれば、生産性が高いラインができる。」と考え、実行に移しました(1913年)。
具体的な対処方法は、自動車を並べて、ロープをつけ引っ張りながら、部品倉庫の中を通し、組立作業をスムーズに行えるようにしたものでした(図6 )。

図6コンベアラインの創出  参考:東京大学大学院経済研究科藤本隆宏教授、経営管理講義教材

その結果、以下に示すその他の改善を加え、T型フォード車の価格を、850ドルから600ドルに引き下げることが出来ました。この方策によって、フォードは、「自動車の売価を引き下げることにより、より多くの人々がこの便利な乗り物を利用し、より豊かな生活を送れる。」という彼の思いの実現にスタートを切ることができました。

コンベアシステムの構築を含めて、彼が行った改善は以下の通りです。
① 鋳造工場における材料の品質改善や単体鋳造法の開発。
② 機械工場におけるシリンダーブロック加工を四方から行う多軸専用ボール盤の完成。
③ 組立工場における人、機械、材料の合理的配置(レイアウト)、部品の運搬方式の開発。
④ ベルトコンベアによる流れ作業方式の採用。

更に、フォード社では、このコンベアシステムの展開により、作業時間研究→改善と、総合的計画編成が次第に成果をあげることになりました。その結果、1913年には自動車1台当たりのシャシーの組立工数12時間が、1914年には1時間にまで短縮される等の生産性向上がなされました。もちろんフォード・システムの場合、鋳造品質、鋳造工程などの技術革新と、1920年代に入ってからのトランスファーマシンと組み合わされた専用工作機械の発達による成果がここに付加されますが、当時としては飛躍的とも考える技術革新と生産性向上実績を示しました。

この時点で既に、一般大衆に、コンベアシステムに対する労働上の懸念が出てきていました。各組立工程が秒単位までの労働の細分化を図り、専門化と単純化が進んだため、各工程で作業者が仕事をする様子が、ロボット的であるという批判でした

しかし、フォードはその著作で、次のように述べており、彼が単に生産性向上を目的としてコンベアシステムを創造したのではなく、彼は現代で言う「生きがい」や「働きがい」を現場に求めていたといわれます。フォードは次のように著述しています。

「産業の終着点は、人々が頭脳を必要としない、標準化され、自動化された世界ではない。その終着点は、人々にとって頭脳を働かす機械が豊富に存在する世界である。なぜなら、そこでは、人間は、もはや朝早くから夜遅くまで生計を得るための仕事にかかりっきりになるというようなことはなくなるだろう。産業の真の目的は、1つの型に人間の精神と肉体を、生存のための苦役から開放することにある。その生産物がどこまで標準化されるかは、国家の問題ではなく、個々の製造業者の問題である」

 

1.3.4トヨタのJIT(Just In Time)

「ジャスト・イン・タイム」はトヨタ自動車の創業者である豊田章一郎により、提唱されたものです。ムダの徹底的排除の思想と、作り方の合理性を追究したトヨタ生産方式の中核の理念を示す言葉です。フォードのコンベアライン生産方式とは異なり、必要とされるものを必要なだけつくる。仕掛かりは悪。という考え方です(図7 )。

トヨタ生産方式に関しては、多数の本が内外の研究者、トヨタ出身者の方が著述されていますので、ここでは深くは触れることはしませんが、トヨタ生産方式に使われるツールの多くは、IEの考え方に基づいて構築されたものです。

 

図7トヨタ生産方式のもうかるIE  参考:東京大学大学院経済研究科藤本隆宏教授、経営管理講義教材

お勧めの本(新郷先生の本です)

復刻版 トヨタ生産方式のIE的考察

スポンサーリンク

2.IE手法の分類

IE手法は、大きくわけるとテイラーの研究に始まる「方法研究」と、ギルブレスの研究に始まる「作業測定」の2つに分類されます。

① 方法研究:
方法研究とは、個々の作業動作や作業のフローに注目し、最善の方法を追求する手法です。
方法研究に属する分析手法には、工程分析や、動作研究、運搬分析(マテハン)などが該当します。マテハンとは、マテリアルハンドリング(material handling)を意味します。

② 作業測定:
作業測定とは、作業時間を定量的に測定する手法で、現状分析や評価、見積もりに活用します。作業測定に属する分析手法には、時間研究や稼働分析などが該当します。

また、方法研究と作業測定とを組合せた応用的な手法もあります。代表的なものとしては、連合作業分析や、ラインバランス分析、プラントレイアウトなどがあります。
以下、代表的なIE手法について解説します。

 

2.1方法研究

⽅法研究は、次のようなステップで進めていきます。

① 対象の選定を⾏います。
② 今⾏なっている⽅法に対して現状分析を⾏います。ここで各種の分析⼿法を活⽤します。
本項で述べる、⼯程分析や、動作研究、運搬分析(マテハン)などの基本的な⼿法に加えて、動作分析との組合せ手法である、連合作業分析や、ラインバランス分析、プラントレイアウトなどの⼿法を用います。
③ 現状分析が終わると、改善案の検討に移ります。投資に伴う方法改革、創意工夫による方法改善に対する経済性評価を行いながら進めていきます。
④ 最善の方法が確立されたら、さらなる改善のため、①の対象の選定に戻ります。

 

(1)⼯程分析

⼯程分析とは、各⼯程のモノの流れあるいは⼈の仕事の流れを、⼀定の記号で図示化することで問題点を⾒つけるための分析のことをいいます。⼯程分析により、作業の流れや⼿順の全体像を把握することが出来ます。従って、より詳細な⼿法を適⽤する前の予備調査として活⽤されることが多いのが、この⼯程分析です。

次に、⼯程分析の種類と特徴の概略を確認していきましょう。⼤きく分けて4つの種類があります。

① 単純⼯程分析:
「作業」と「検査」の系列だけを対象として⼯程の流れや状態を分析します。
② 詳細⼯程分析:
「作業」と「検査」に加え「移動・運搬」「⼿待ち・停滞」「保管・貯蔵」などの状態を分析します。
詳細⼯程分析は、さらにモノを中⼼に分析する「製品⼯程分析」と、作業者を中⼼に分析する「作業者⼯程分析」に分けられます。
③ 連合作業分析:
⼈と機械・⼈同⼠の組み合わせ作業に対して、時間的な経過の⾯から関連状態を分析します。連合作業分析は、⽅法研究に加えて、作業測定に関する視点も含まれるため、「⽅法研究と作業測定とを組合せた応⽤的⼿法」に分類されます。
④ 運搬経路分析:
別名「流れ線図」とも呼ばれるもので、各レイアウトに対してモノまたは⼈の移動経路を線図にまとめて分析します。

以上が⼯程分析の概略です。

 

(2)動作分析

動作分析とは、体の動きや⽬の動きを分析して、より合理的な動作を追求するための分析のことをいいます。動作分析は、⼀般的には⼯程分析などにより問題としてあがってきた⼯程に対して、さらにその詳細を分析するときに活⽤される⼿法です。全体を見るよりは、1つの作業もしくは、1サイクルの作業について、作業者の動作内容の詳細を分析する手法です。
各作業におけるムリな姿勢・ムダな作業など、個々の作業動作について動作経済の原則を考慮して、分析を進めて行きます。
動作分析では、モーション・マインドが重要になります。モーション・マインドとは、この動きにムダはないのか?もっと楽に作業出来ないのか?動作の違いによる時間の差はないのか?といったような視点を持つことを指します。分析⼿法を活⽤し改善を進め成果を出しながら、このモーション・マインドを育てることが狙いです。

動作研究における代表的な分析⼿法は、2つあります。1つ⽬は両⼿作業分析で、もう1つは、微動作分析、通称サーブリッグ分析です。

① 両⼿作業分析:
作業を動作のレベルで分析します。作業者の右⼿と左⼿の動作の内容と順序をつかんで、問題点を⾒つけていくイメージです。もう1つのサーブリッグ分析よりは粗い分析となりますが、⽬視で分析できるため、⽐較的⼿軽に活⽤ができるという特徴があります。

② 微動作分析(サーブリッグ分析):
作業を微動作のレベルで分析します。作業者の右⼿と左⼿を中⼼とした18種類の基本的な動作要素(サーブリッグ記号;図4 参照)を使い、作業を詳細に分析していきます。
両⼿作業分析より細かい分析ができますが、詳細に分析できる分だけ⼿間と時間が掛かってしまうという特徴があります。
両⼿作業分析がやや粗い分析で、サーブリッグ分析が細かい分析であると考えられます。実際の活⽤シーンでは、両⼿作業分析で⼤まかに分析を⾏い、問題がありそうな部分を絞った上で、サーブリッグ分析で詳細を分析するような使い⽅をします。両者のメリットを上⼿に活⽤すると効果的です。

 

(3)運搬分析(マテハン分析)

運搬分析とは、材料や製品の搬送、扱い方を対象にした分析です。運搬工程は付加価値を生まない行為です。従って、工程内で運搬工数を最小化することが工程の改善につながります。
対象となるのは、材料を入荷してから製品になって出荷されるまでの全工程です。この間、材料としての一次保管・工程間搬送・工程間滞留・製造工程から梱包工程への搬送・出荷前滞留など、常に製品は搬送されています。この搬送時の距離や搬送時間、搬送形態などを調査、見える化し、ムダを発見して搬送のカイゼンを行います。IEでは通常は、輸送(工場外搬送)は分析対象に含みません。

 

運搬分析には様々な種類があります。
① 運搬⼯程分析:
モノの流れの状態を「運搬⼯程記号」で記録し、取り扱われ⽅等を分析する⽅法です。
② 運搬活性分析:
モノの移動のしやすさ(活性)から分析する⽅法です。

この2つが運搬分析において様々なシーンで活⽤される代表的な⼿法ですが、その他にも、空運搬分析、運搬稼働分析、運搬重量⽐率分析、運搬原価分析などがあります。
③ 空運搬分析:
モノを持たずに運搬器具だけで移動している状態(空運搬、空搬送)を分析する方法です。
④ 運搬稼働分析:
運搬者や運搬器具の稼働状態を分析する方法です。
⑤ 運搬重量比率分析:
運搬物の重量や運搬の手間を分析する方法です。
⑥ 運搬原価分析:
運搬にかかるコストを分析する方法です。

以上が運搬分析(マテハン)の概略です。

 

2.2作業測定

作業測定においても、方法研究と同様に、対象の選定、現状分析のステップで進めていきます。

① 対象の選定を⾏う。

② 今⾏なっている⽅法に対して現状分析を⾏う。ここで各種の分析⼿法を活⽤する。本項で述べる、時間研究および稼働分析(連続観測法、ワークサンプリングなど)、レーティングなどの考え方を活用する。作業測定においては、時間の見積もりの視点でも活用する。対象の選定、仕事の要素への分解、測定・評価・⾒積り、正味時間から適正標準時間・標準作業量を決定していく。この中で、測定・評価・⾒積りにおいて、時間研究におけるストップウォッチ法、VTR法、PTS法、標準時間の考え⽅が有効となる。

③ 現状分析が終わると、最適な作業設計と、改善維持管理の継続的な実施の視点で、改善案を検討する。投資に伴う方法改革、創意工夫による方法改善に対する経済性評価を行いながら進める。

④ 最善の方法が確立されたら、さらなる改善のため、①の対象の選定に戻る。

 

(4)時間研究

時間研究とは、仕事を要素に分割し、その実態を時間という尺度で定量的に測定・評価し、問題点を分析するための⼿法です。テイラーの時間研究に端を発します。
どの様な企業にも、どの様な⼈にも、時間は平等に与えられています。この時間をどう扱うのかは、経営において最も⼤事な要素の1つになります。
時間研究は、仕事の中に潜んでいる⾮⽣産的要素を作業測定によって定量的に評価し、極⼒排除または軽減するアクションに正しく結び付けるために、必要不可⽋な⽅法となります。
時間を正しく把握することは、改善の第⼀歩です。第⼀歩を踏み外さないように、正しく時間を把握する⽅法を⾝に付けることが時間研究の狙いでもあります。

時間研究の⽅法・視点は次のようになります。
① 現状の時間を測定する⽅法としては、ストップウォッチ法、VTR法があります。ストップウォッチや作業の様子を録画した動画を⽤いて、作業時間や作業⽅法を観察する⽅法です。昔とは異なり、ITツールが発展した現代では、作業動画の撮影も⼿軽に⾏えるようになりました。

② 基準の時間を設定するための⽅法としては、標準時間とレーティングがあります。観察された作業時間や作業⽅法に対して、標準の時間や速度を決めるための考え⽅です。基準値から全体の時間を⾒積るための⽅法としては、PTS法が挙げられます。基本動作に対して基準の時間を決め、それをもとに全体の作業時間を⾒積るための⼿法です。

 

1)標準時間:

標準時間とは、決められた⽅法と設備を⽤いて、決められた作業条件の下で、⼀定の熟練度を持った作業者が標準的な速度で作業を⾏う際に必要な時間のことをいいます。ここで注意すべきことは、標準時間においては、あくまで「標準的なスピード」が基準となります。能⼒が⾼い⼈を基準にするわけではありません。
標準時間が無いと、作業が予定通りに進んでいるのかどうかが分かりません。現状の何が問題なのかが分かりません。作業のどの要素に対して訓練を⾏なえばよいかが分かりません。「標準の無いところに改善は無い」と⾔われるように、標準作業が無いと、何が良いのか悪いのかが分からないという意味で、非常に⼤事な視点として捉える必要があります。

 

2)レーティング(rating):

レーティングとは、観測対象の作業のペースと正常なペースとを⽐較し、観測対象作業の中に潜む問題点を明らかにするための分析のことをいいます。レーティングは、「ペースレーティング」あるいは「パフォーマンスレーティング」とも呼ばれています。
レーティングを考える上で大切なことは、⼈の動きにはそもそも違いがあることを大前提に考えなければならないことです。⾝体能⼒、熟練度、意欲などは、誰でも同じではないからです。そうはいっても、作業者が好き勝手なペースで作業していると、⼯場運営が成り⽴たなくなってしまいます。そこでレーティングという考え⽅が⼤切になってきます。
レーティングは、一人ひとりが標準的なペースまで能⼒を上げていくためのアプローチ⽅法と考えればよいでしょう。

 

3)PTS法(Predetermined-Time Standards):

PTS法とは、⼈が⾏う作業を基本動作(微動作レベル)まで分解し、その基本動作に前もって定められた時間を算出し、そこから作業時間を⾒積る⽅法のことをいいます。
PTS法は、Predetermined Time Standardsの略で、事前に決められた時間の標準値を意味します。種類には、MTM法、WF法、MODAPTS法などがありますが、基本的には同じ考え⽅で分析を⾏います。PTS法では、「あらゆる作業は、ある基本的な動作の組み合わせにより成り⽴っている」と考えます。どんな複雑な作業でも、細かな視点で⾒ると、基本動作が連続しているだけであり、それぞれの基本動作に時間設定を⾏えば、作業全体の時間も算出できるという考え⽅がベースとなっています。これは、テイラーの時間研究と、ギルブレスの動作分析の概念を合わせたものになります。
なお、個人的な話ですが、PTS法で2000ステップ以上の新規の組立工程の時間見積もりをしたことがありますが、記憶では5~10%程度の精度が得られ、PTS法に威力に感心した記憶があります。

 

(5)稼働分析

稼働分析とは、⼀定期間の⽣産活動の中で、⼈や設備がどのような要素にどれだけの時間を掛けているかを明らかにするための⼿法です。「⼈の働きがどのような状況かを把握し」、「改善の切り⼝を⾒つけ」、「改善前後の時系列的な変化をつかむ」ために有効なツールです。

稼働分析の活⽤場⾯としては、次のようなものが挙げられます。

まずは、作業改善の切り⼝を⾒つけたいときです。⽣産活動においては、価値作業のみが価値を⽣む要素です。それ以外の要素は全て⽣産を阻害する要因であり、排除・削減する必要があります。稼働分析では、価値のある作業の割合がどのくらい占めているかを分析することができます。

また、稼働状況の時系列的な変化をつかみたいときにも有効です。⽣産負荷に季節変動がある場合は、時期別・⽇別・時間帯に稼働状況の変化をつかむ必要があります。変動要因を分析し、より安定した稼働率を維持する⽅策を決定するために、稼働分析は⼀定の役割を担います。

稼働分析の代表的な⼿法は3つあります。

① 連続観測法:
連続観測法は、現場観察やビデオ録画等で作業を連続的に観測する⽅法で、正確な測定が出来ますが、工数が掛かるという特徴があります。

② セルフタイムスタディー法
セルフタイムスタディ―法は、⾃分の仕事の1⽇の実績を所定の記録表に書き込み、⼀定期間分を集計することで⼈の稼働の全体像を明らかにする⽅法です。連続観測法とワークサンプリング法の中間のような⼿法となります。

③ ワークサンプリング法:
ワークサンプリング法は、観測するタイミングを⼀定のルールに沿って決め、観測した瞬間の稼働状況をサンプリングにより把握する⽅法です。正確性は若⼲落ちるものの⽐較的工数を掛けずに実施が出来るという特徴があります。

 

 

2.3方法研究と作業研究との組合せ

(6)連合作業分析

連合作業分析とは、単数あるいは複数の作業者および設備との連携(連合)において、時間的な⾯から、より効率の良い⽅法を⾒つけ出すための分析をいいます。

連携の仕方には、「一人の作業者と1台の機械」や、「一人の作業者と複数の機械」、「複数の作業者同⼠」、「複数の作業者と1台の機械」、「複数の作業者と複数の機械」など様々な組合わせが考えられます。それらの組み合わせに対して、どの時間でどの動きがあるのかを細かく分析していくのが、連合作業分析です。

例えば、一人の作業者が3台の設備を担当する場合を考えてみましょう。設備は定期的にメンテナンスや材料供給が必要です。これらメンテナンスや材料供給は作業者が行いますが、できるだけ設備が停止している時間(ムダ)をなくすためには、設備ごとのメンテナンスや材料供給のタイミングをずらす必要があります。各設備のメンテナンスや材料供給のインターバルを分析し、表に落とし込むことで、効率の良い作業順序とタイミングを検討します。

⽣産現場だけではなく、事務所、⼯事現場、病院、交通機関等、様々な場⾯で、同じような組合わせ作業は存在します。そのため、連合作業分析は、様々な業種で活⽤できる⼿法です。

 

(7)ラインバランス分析

ラインバランス分析とは、⽣産ラインにおける各⼯程の能⼒の差をなくし、効率の良いスムーズな⽣産の流れを実現するための分析のことをいいます。

複数の連続する工程で成り立つ生産ラインの場合、1個当たりの処理時間が最も長い工程をボトルネック工程と言います。生産ラインの生産性はこのボトルネック工程で決まります。

例えば、1個あたり1秒で処理できる工程の中に、1工程だけ1個あたり5秒かかる工程があれば、この生産ラインは1個あたり5秒で生産するラインということになります。

このようにボトルネック工程は生産ライン全体の足を引っ張ることになります。そして、もともと1個あたり1秒で加工する能力のある他の工程に、ムダな待ち時間を発生させることになります。そのため、生産ラインを構成する工程は、全て同じ生産能力であることが理想です。ラインバランス分析は、各工程の生産能力を分析することでボトルネック工程を見つけテイラーイン内における工程間のバランス(ラインバランス)をとっていく手法です。

ラインバランス分析は、⼯程分析と時間研究と組合せによる応⽤⼿法です。
ラインバランス分析の活⽤場⾯としては、次のようなケースが考えられます。
① ⼈の能率を向上させたい時
② 機械の稼働率を向上させたい時
③ リードタイムを短縮させたい時
④ 機械化、省⼒化を⾏いたい時
⑤ ⼯程設計や⼯程編成を検討する時

 

(8)プラントレイアウト

プラントレイアウトとは、⼯場の中で動くモノ(材料・部品・仕掛品・製品)を最も経済的に⽣産するために、設備やモノの置き場、作業者の配置等を計画することをいいます。

⼯場内では、機械設備、治⼯具、原材料、部品、仕掛品、半製品、製品等の各種置き場や、出荷エリア、事務エリア、通路、休憩スペース、出⼊⼝、共⽤施設等の場所など、様々な配置を考えなければなりません。

工場レイアウトの検討は、比較的自由度が高いですが、何を優先するかにより、目的に合致した効率の良いレイアウトは変わります。レイアウト検討の観点としては、生産性だけではなく、安全性や耐震性、柔軟性(需要の増減に対応してフレキシブルにレイアウトを変更する場合)などがあげられます。これらについて、優先度と制約を明確にした上で検討を進めます。場合によっては、工程分析や運搬分析、連合作業分析と組み合わせて、総合的に最適なプラントレイアウトを検討する必要があります。

 

2.4 各種分析手法の位置付け

以上で述べた、各種分析⼿法のそれぞれの位置づけについて、⽣産の流れと合わせて整理してみましょう。
① ⼯程分析:⼯程内あるいは⼯程間のフロー(流れ)を分析する時に活⽤します。
② 動作研究:作業者の体の動きを分析する時に活⽤します。
③ 運搬分析(マテハン):⼯程内・⼯程間の運搬の仕⽅を分析する時に活⽤します。
④ 連合作業分析:⼈と機械の組み合わせ・組み作業の組み合わせを分析する時に活⽤します。
⑤ ラインバランス分析:⼯程内・⼯程間の各作業の負荷バランスを分析する時に活⽤します。
⑥ プラントレイアウト:⼯程の中の⼈や機械設備等の配置を分析する時に活⽤します。
⑦ 稼働分析:⼀定エリアに対する⼈と機械の稼働の割合を時間軸で分析する時に活⽤します。

そして、動きや稼働は時間研究という考え⽅を⽤いて測定・分析を⾏います。さらに、時間研究は、標準時間、レーティング、PTS法の考え⽅が必要になります(図8 )。

⽬的や対象によって、どの⼿法を活⽤するかによって、得られる効果は⼤きく変わります。全体像を押さえた上で、どの⼿法を使うかを選定するようにしましょう。

図8 IEの代表的な分析手法の適用例  参考:kaizenbase HP

 

 

3. 現場改善の三大管理技術

現場改善の三大管理技術として、IE,QC,VEがあげられます。これら三大管理技術を簡単に比較してみましょう(図9 )。これらは、ものづくりの場面では何れも、与えられる人的・物的資源を、如何に有効に利用することを最終的な目的としています。

図9 現場改善の三大管理技術   ORIGINAL(多分)

 

 

 

参考文献
IE手法:その実践的活用法   中村茂弘  電子書籍
Marks’ Standard Handbook For Mechanical Engineers-10Thed. Ckap17   McGRRAW-Hill
経営管理インターネット教材 東京大学大学院経済研究科教授(現在:早稲田大学院教授)
  https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_files/eco_01/6/notes/ja/J_ba1_6.pdf
  https://ocw.u-tokyo.ac.jp/lecture_files/eco_02/12/notes/ja/J_ba2_12.pdf

 

引用図表
図1 産業発展の歴史と生産システムの推移  ORIGINAL:参考:IE手法 中村茂弘先生
図2  F. W. Taylor  Wikipedia
図3 ギルブレス夫妻  Wikipedia
図4 サーブリッグ記号  ORIGINAL
図5フォードⅠ世  Wikipedia
図6コンベアラインの創出  参考:東京大学大学院経済研究科藤本隆宏教授、経営管理講義教材
図7トヨタ生産方式のもうかるIE  参考:東京大学大学院経済研究科藤本隆宏教授、経営管理講義教材
図8 IEの代表的な分析手法の適用例  参考:kaizenbase HP
図9 現場改善の三大管理技術   ORIGINAL(多分)

 

Corr:2023/09/04; 図表(図7)差替え
ORG:2023/08/14