マルチパステスト

マルチパステスト(multi pass testing)

スポンサーリンク

マルチパステストは、油圧フィルターのコンタミナントの除去能力あらわすために、JISB8356-8:2002(ISO16889:2008)に規定された試験方法です。

この規格では、フィルターのコンタミナント除去能力を粒径ごとに求めて、ベータ値( \( \beta_{ x(c) } \))で表わします。ここでxは粒径を示します。また、(c)は ISO11171:1999 で制定された自動粒子計数器の校正方法によることを示します。

1. ベータ値

ベータ値は、フィルターの上流側(一次側)の粒径\( x \mu m(c) \)以上の粒子数A、フィルター通過後の下流側(二次側)の粒径\( x \mu m(c) \)以上の粒子数Bとすると、次に示す式で定義されます。

\( \beta_{ x(c) } = \displaystyle \frac{ A }{ B } \)  (式1)

 

2. マルチパステスト法

ここで、マルチパステスト法について、説明します。
マルチパステストの試験回路を、図1に示します。この油圧回路は、試験されるフィルターをメインの試験回路に取り付けます(図1のNo.3)。次に、一定量のコンタミナントを連続して油タンクに投入して、試験回路内を循環させます。
コンタミナントは、フィルターを通過するごとにフィルターに捕獲されます。そのためフィルターの圧力損失が徐々に大きくなります。

[図1] マルチパステストの回路

このマルチパステストは、試験されるフィルターにあらかじめ定められた最終圧力損失になるまで継続します。このようにテスト用の作動油が、フィルターを何度(マルチ: multi)も通過する(パス: pass)ために、マルチにパスするテストという意味で呼ばれます。

フィルターが最終圧力損失に達したらテストは終了します。一次側の作動油と二次側の作動油とをそれぞれサンプリングして、コンタミナントの粒径ごとに、それぞれ何個あるかを、パーティクルカウンターで計測します。

3. ベータ値の評価

マルチパステストの結果、表1に示す測定結果が得られたとします。

[表1] マルチパステスト終了前後の作動油中のコンタミナントの数
     注記: 1ml 中の数。複数回のサンプリングの平均値

表1の結果から各粒子径ごとの \( \beta_{ x(c) } \) を求めると、表1の最終行のようになります。

例えば、2µm以上の粒径のコンタミナントについて計算すると、

     (式2)

となります。

 \( \beta_{ x(c) } \) の値は、当然フィルターの種類によって異なります。本来は、マルチパステストのテスト条件を一致させて得られた結果を比較しなければならないのですが、フィルターメーカーのカタログなどの比較から、テスト条件を統一できない場合、コンタミナントの粒径と、そのときのベータ値から、ベータ値が2,10,75,100,200,1000となる、コンタミナントの粒子径を、比例計算で算出して、 \( \beta_{ d1(c) } = 2\)、 \( \beta_{ d2(c) } = 10 \)、 \( \beta_{ d3(c) } = 75 \)、 \( \beta_{ d4(c) } = 100 \)、 \( \beta_{ d5(c) } = 200 \)、 \( \beta_{ d6(c) } = 1000 \) とあらわします。これは、マルチパステストの規格である、JISB8356-8:2002(ISO16889:2008)で推奨しているフィルター性能の表わし方です。

例えば、マルチパステストの結果を、2種類の特性のフィルターで比較してみましょう。

\( A:  \beta_{ 5(c) } = 8 , \beta_{ 7(c) } = 32 , \beta_{ 10(c) } = 130 , \beta_{ 12(c) } = 515 , \beta_{ 15(c) } = 2020 , \beta_{ 17(c) } = 3280 \)

\( B:  \beta_{ 5(c) } = 6 , \beta_{ 7(c) } = 26 , \beta_{ 10(c) } = 115 , \beta_{ 12(c) } = 260 , \beta_{ 15(c) } = 754 , \beta_{ 17(c) } = 1260 \)

フィルターAの方が、粒子径が7μm以上の場合は、Bに比べてベータ値が高く粒子を除去する性能が高いことがわかります。機器に与えるダメージは、その種類によって影響を受ける粒子の大きさをは異なりますが、相対的には粒子が大きい方が影響が大きいので、ベータ値が高い領域で比較することが必要です。

JISB8356-8:2002(ISO16889:2008)で規定されるように、ベータ値が2,10,75,100,200,1000になるコンタミナントの粒子径で比較します。上記の測定結果からベータ値が上のようになる粒径を比例計算すると、下のようになります。ここでベータ値に対応する粒子径の計算は内挿法のみ許容されているのでベータ値2に対応する粒子径はありません。この例で、フィルターA,Bと性能を比較します。

\( A:  \beta_{ 5.3(c) } = 10 , \beta_{ 8.8(c) } = 75 , \beta_{ 9.4(c) } = 100 , \beta_{ 10.6(c) } = 200 , \beta_{ 13.5(c) } = 1000 \)

\( B:  \beta_{ 5.7(c) } = 10 , \beta_{ 9.1(c) } = 75 , \beta_{ 9.7(c) } = 100 , \beta_{ 11.4(c) } = 200 , \beta_{ 15.9(c) } = 1000 \)

ベータ値をどの値で評価するかは、ISO24550に準じて、\( \beta_{ x(c) } ≧ 200 \) を目安にします。この値をアブソリュートレベルといい、コンタミナントの捕集能力をあらわす基準となります。\( \beta_{ x(c) } = 200 \) とは、xµm以上のコンタミナント200個の内199個を捕集して、1個だけ二次側に流出させることになります。
除去率でいえば、

     (式3)

と、99.5%になります。

\( \beta_{  x(c) } ≧ 200 \) ならば、xµmのダストをほぼ完全に除去できると考えて、これを絶対ろ過粒度の基準としています。

上の例では、ベータ値が200となるコンタミナントの粒径はフィルターAが10.6µm、フィルターBが11.4µmで、フィルターAの方がBより精密なフィルターとあるといえます。

基準とするベータ値については、200の他に、1000もしくは75を目安にする場合もあります。

 

4. 集塵量とフィルター寿命

マルチパステストでは、ベータ値以外にもフィルターの集塵量を測定します。フィルターエレメントが最終圧力損失に達するまでに、フィルターエレメントが捕捉する試験用ダスト(ISO MTD)の量を、質量gで表わします。集塵量の値は、フィルターの寿命の検討のために、同等のベータ値をもつフィルターエレメントについて、捕捉量の比較を行う際に使用します。集塵量が多いほど、フィルターが異物を保持する能力が高いといえます。その結果として、フィルターエレメントの寿命が長いことが期待できると判断されます。
ただ、集塵量の多寡が、フィルター寿命と直接関連付けるものではありません。ベータ値が同等なフィルターA,Bについて集塵量の比が2:1 の場合でも、寿命比も2:1に必ずしもなるわけではありません。

 

 

参考文献
HYDAC社カタログ
JISB8356-8:2002
ルーブリサーチHP  https://www.lube-research.com/フィルター基礎知識/第1章/

引用文献
図1 マルチテスト回路図   JISB8356-8:2002 より
表1 マルチパステスト終了前後の作動油中のコンタミナントの数

 

REV:2020/12/16:数式を
REV: 2018/4/12: 誤記修正

REV: 2018/4/10: 読者様のご指摘により修正。
ORG:2017/2/11