5. 流量測定で使われる用語

5. 流量測定で使われる用語(Terms used in flow measurement)

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ここでは、流量測定に関わる、流体力学や計測工学に関わる用語について簡単な解説をしていきます。

 

 

・レイノルズ数(Reynolds number)

レイノルズ数は、流体の慣性力と念勢力との比を示す無次元数です。粘性流体の挙動を示す代表的なパラメータです。同じような流れの場では、レイノルズ数が同じであれば、力学的に相似な流れとして取扱うことができます。

一様な流れの場で、流れの速度をu,物体の代表長さをl,動粘性係数をνとすると、レイノルズ数は

で表されます。本入門で記述している主として閉水路に適用する流量計測の場合、流体で充満した管路流れになるので、代表長さは円管内径Dとする場合が多いです。管路断面が円環でない場合は、流体平均深さで示す代表長さを使用します。

 

粘性力が強い流れではレイノルズ数は小さな値をとります。一方、慣性力の大きい流れではレイノルズ数が大きくなります。

 

 

・粘性係数と動粘度係数(Viscosity coefficient and kinematic viscosity coefficient)

実際の流体は、粘性流体なので、粘度の概念は重要です。粘度とは流体のねばさを示す物性値で物質ごとに決まっています。また温度によって変化します。

 

粘性流体で、管壁に近い流体の微少部分を考えます。管壁に垂直方向に速度勾配が生じます。管壁に近いほど流速は遅くなり、管壁から離れるほど早くなります。従って微少部分は管壁からの距離により速度差があり、せん断応力τが生じます。

このせん断応力τと速度勾配du/dyとの比を粘性係数(または粘度)μといいます。すなわち、

粘性係数μの単位は、SI単位ではPa・s になります。現在は正式には使用されないが、P(ポアズ)やcP(センチポアズ)との関係は、

1cP=0.01P=10-3Pa・s , 1Pa・s=10P=103cP

になります。

例えば温度20℃における、水の粘性係数は 1.002×10-3Pa・s。1気圧20℃における空気の動粘性係数は 0.0181×10-3Pa・s = 18.1×10-6Pa・sです。

 

また、粘性係数μを密度ρで割った値を動粘度係数(または動粘度)νといいます。すなわち、

動粘度係数の単位は、SI単位ではm2/s になります。現在は正式には使用されていませんが、St(ストークス)やcSt(センチストークス)との関係は、

1cSt=0.01St=10-6m2/s、 , 1m^2/s=104St=106cSt

になります。

例えば温度20℃における、水の動粘性係数は 1.004×10-6m2/s。1気圧20℃における空気の動粘性係数は 15.02×10-6m2/sです。

 

粘性係数と、動粘性係数とを比較すると、粘性係数では、水の粘性係数が空気のそれの50倍以上であり、風呂でお湯をかき回す時と、空気中で手を動かす場合と比較するとお湯をかき回すために力がいることから直感的にわかります。一方動粘度係数は空気の方が1桁以上大きいことについては、直感的には理解しにくいと思います。

 

 

・層流と乱流(laminar flow and turbulent flow )

円管流れでは、レイノルズ数がおおよそ2 000以下では流れは層流になり、これより大きい場合は流れの状態は乱流になります。ちなみに、レイノルズ数が2 000 ~ 7 000 の範囲は遷移領域といい、完全な乱流ですが流速分布が均一ではない状態の流れです。

一般に流量計が使われる範囲は、レイノルズ数が104 ~ 109程度で、乱流状態かつ流速分布が均一になっている場合がほとんどです。ただし、層流流量計や熱式流量計、微小口径かつ低流速の超音波流量計の場合は、層流状態もしくは遷移状態で使用されます。

円管路中の流れの状態を図5.1に示します。層流では流速分布が放物線状になりますが、乱流では流れが一様に近づいて、壁面付近が摩擦応力により急激に減速されます。流れの圧力損失は、層流の場合は流速に比例しますが、乱流の場合は流速の二乗に比例します。

図5.1 層流と乱流

 

・流速分布(Flow velocity distribution)

流速分布は、管路内での流速の分布を示します。直管長さが十分長く、発達した流れの場合は、流速分布は管軸に対して軸対象になり、管軸に直交する成分は持ちません。

しかし通常の場合、流れが一様になるほどの直管長を得ることは難しく、配管の曲り(ベンド,エルボ)や、拡大縮小、バルブやポンプなどの機器の通過などにより、流れが乱れる場合が多く認められます。流量計の選定の際には、流速分布の影響を考慮することが望ましいです。

例えば、曲り管の下流では、曲り部分で遠心力が作用するため、管軸と直交する成分を持つ二次流れが発生します(図 5.2)。また曲り管が2つの異なる平面で接続される配管の場合、旋回流が生じます。これらの軸対象流れから外れた流れは偏流といいます。

図 5.2 曲り管の流れ

これらの偏流は、タービン流量計や超音波流量計などの出力に大きな影響を与えてしまいます。対策の基本は各流量計が要求する直管長さを取ることですが、大口径管の場合、数十D ~ 100D(D:管内径)の直管長さをとることは難しく、流速分布の影響を見積もる必要があります。

 

 

・圧力損失(Pressure loss)

圧力損失とは、流量計を配管に設置したときに流量計自身による圧力損失をいいます。定義は、流量計上流の圧力と、流量計の影響がなくなる下流側の断面での圧力の差となります。超音波流量計、電磁流量計を除くほとんどの形式の流量計については圧力損失が発生します。

一般に、プロセス全体の配管長さや、曲り管、バルブ等の数から得られる圧力損失の総和と比較すると、流量計による圧力損失は小さくほとんどの場合無視できます。

 

 

・レンジアビリティ(Rangeability)

レンジアビリティとは、ある精度を保証する最大流量と最小流量との比をいいます。

例えば、10 ~ 100 m3/hにフルスケール設定ができる流量計で、20 ~ 100%の間で±1%の指示精度をを表示する場合は、誤差±1%で測定できる流量は、最大流量は100 m3/h、最小流量が2 m3/hとなりますので、レンジアビリティは 50:1 になります。

 

 

・瞬時流量と積算流量(Instant flow rate and cumulative flow rate)

瞬時流量とは、一定時間当たりに流れる流体の量をいいます。例えば、1分間に100L流れるときの瞬時流量は100 L/min、1秒間に100mL流れる場合の瞬時流量は100 mL/sec(=6 L/min)となります。

積算流量とは、測定を開始した時点から流れた流体の量の累積値をいいます。例えば、瞬時流量10 l/minで1時間、タンクに液針をした場合、積算流量は600 Lになります。

 

 

・体積流量と質量流量(Volume flow rate and mass flow rate)

体積流量は、単位体積当たりの体積変化を指標にした流量です。一方質量流量は、単位当たりの質量変化を指標にした流量です。

液体の流量測定は、一般的には体積流量が用いられます。温度や圧力によって体積が変化するガス類や蒸気などは質量流量を用いる場合があります。計測する流体の種類によって最適な流量計が選定されます。

体積流量は、単位時間あたりに検査面を通過する体積から流量を求めます。一般的な流量は体積流量を指します。単位としてはSI単位では、m3/s(立方メートル毎秒)を用いますが、計量法では、m3(立方メートル)の代わりにL(リットル)、s(秒)の代わりに(分)やh(時)に置き換えることも認められています。一般的な円管路内の流れの場合は、体積流量Q[m3/s]は、流体が通過する断面の面積をA[m2]、平均流速をv[m/s]とした場合、断面積と平均流速と積で求められます。

体積流量Q [m3/s]= 断面積 A [m2]x 平均流速 v [m/s]

体積流量では、体積が温度や圧力により変化するため、測定条件を明示する必要があります。一般的には、標準状態を測定条件とします。

 

質量流量は、単位時間あたりに検査面を通過する質量から流量を求める方法です。単位としてはSI単位ではkg/s(キログラム毎秒)を用いますが、計量法では、kg(キログラム)の代わりにg(グラム)や t(トン)、s(秒)の代わりに m(分)やh(時)に置き換えることも認められています。

一般的な円管路内の流れの場合は、質量流量[kg/s]は、流体が通過する断面の面積をA[m2]、平均流速をv[m/s]、流体の密度を ρ[kg/m3]とした場合、断面積と平均流速と密度との積で求められます。

質量流量 [kg/s]= 密度 ρ [kg/m3] x 断面積 A [m2]x 平均流速 v [m/s]

 

また、体積流量との関係は、

質量流量 [kg/s]= 密度 ρ [kg/m3] x 体積流量 Q [m3/s]

になります。

ただし、体積流量から質量流量を導くには、その時の圧力に対する比体積を用いなければ正確な質量流量は求められません。従って、質量流量を求めるためには、温度計や圧力計、あるいは密度計を利用して換算する必要があります。

従来は、体積流量から質量流量を求めるのが一般的でしたが、現在では、熱式質量流量計やコリオリ流量計などの、質量流量を直接計測できる流量計の使用が可能です。

 

 

・精度と不確かさ(accuracy and uncertainty)

計測の世界では、計測器の信頼性を表す指標として、精度(accuracy)と不確かさ(uncertainty)の2つの用語があります。国際標準では、不確かさを使うことが推奨されていますが、製品仕様書では精度という用語が使用されています。ここでは不確かさと精度についてそれぞれ見ていきましょう。

 

(1)精度

JIS Z8103-2000 計測用語では、精度を以下のように定義しています。

「精度とは、測定結果の正確さと精密さを含めた、測定量の真の値との一致の度合い。」

流量計の精度の表し方には、フルスケールに対して何%の誤差があるのかを示す”フルスケール(F.S.)精度” と、指示(表示)値に対して何%の誤差があるのかを示す”リードスケール(RD または Rdg)精度” の2種類があります。

例えば、フルスケール精度の例を以下に示します。

フルスケール流量 100 m3/hに対してフルスケール精度が±0.5%の場合は、流量値がどの値をとってもフルスケールの±0.5%、±0.5 m3/h の誤差を意味するので、例えば 5 m3/h に対しては±10%の指示値誤差に相当します。

一方、リードスケール精度については、例えば指示値に対して精度が0.5%という表示の場合、その制度が有効なのは、一定の流量値より大きな流量範囲に限られます。流量の大きい範囲では指示値誤差が表示される場合でも、0%に近い流量域ではフルスケール誤差を表示されます。これはどのような流量計でも、出力値が0%に近い場合には、その出力値に対する精度は限度以上に小さくすることは不可能になります。

JIS Z8103-2000 計測用語では、真の値を以下のように定義しています。

「真の値とは、ある特定の量の定義と合致する値。備考:特別な場合を除き、観念的な値で、実際には求められない。」

流量計の校正は、製品出荷時に流量計メーカの実流校正設備を用いて校正されます。ただし、メーカの実流校正設備は、国の流量標準からのトレーサビリティ誤差をもって管理はされていますが、この誤差は製品に示される精度表示には含まれていません。つまり、仮定された真の値に基づいての校正で、精度の定義からは表示された値は異なるといえます。

 

(2)不確かさ

(1)項に述べたように、精度の考え方では、何らかの手段で真の値が得られ、測定値と真の値を誤差とよんでいます。しかしながら、現実にはどんな測定においても真の値は得られません。一定のばらつきをもった測定データが得られるだけです。

不確かさは、測定環境や測定方法、流体の条件などを変えて測定を繰り返し、それらのデータから真の値がどの範囲にあるかを算出して、統計処理により誤差を推測する指標です。+

国際標準で推奨される不確かさの考え方と導出方法について、ISO5167-1,2,3,4-2003に規定されています。

また、不確かさについての解説については、独立行政法人製品評価技術基盤機構のHPからダウンロードが可能な、「不確かさとは何かについて」書かれた、”不確かさの入門ガイド”がわかりやすいと思います。ぜひ、製品評価技術基盤機構のHPを訪問してみてください。

 

製品評価技術基盤機構のHP

不確かさの入門ガイドのリンク先

 

 

 

 

 

 

参考文献
流量計ガイド    黒森健一   インターネット
完全版流量の教科書 キーエンス
Fluid Mechanics 3rd ed   Yunus A. Çengel,John M. Cimbala  McGraw Hill

 

引用図表
図5.1 層流と乱流   Fluid Mechanics 3rd ed
図5.2 曲り管の流れ  技術資料 管路・ダクトの流体抵抗  日本機械学会

 

 

ORG:2018/9/8