2.3.4 背圧による流れの阻害

2.3.4 背圧による流れの阻害
(Back pressure obstructs flow)
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1. 背圧と流れの基礎原理
プロセス配管設計における管路の使命は、与えられた圧力差の下で、要求される流量を確実、安全に目標の場所まで輸送することにあります。流体の流れは、配管の始点(駆動源)と終点(下流側)との間の圧力差(全揚程)によって駆動されます。ここで言う背圧とは、この流れを阻害するあらゆる下流側要因による圧力の総和を指します。
1.1 ベルヌーイの定理とエネルギー水頭
流体の流れを支配する根本原理は、エネルギー保存の法則を流体に適用したベルヌーイの定理です。この定理によれば、配管内の任意の点における流体の持つエネルギーは、以下の3種類の水頭(ヘッド)の和として表現されます。
1. 位置水頭(\( Z \)): 流体の高さによるエネルギー
2. 圧力水頭(\( P/\rho g \)): 流体の持つ圧力エネルギー
3. 速度水頭(\( v^2/2g \)): 流体の運動エネルギー
理想的な非粘性流体では、これらの水頭の合計は一定ですが、実際の配管では摩擦や曲がり、継手などによる抵抗でエネルギーが失われます。この失われたエネルギーが損失水頭(\( h_{ L } \))です。
従って、一般的なベルヌーイの式を示すと、次式のようになります。
\( Z_{ 1 } + \displaystyle\frac{ P_{ 1 } }{ \rho g } + \displaystyle\frac{ v_{ 1 }^2 }{ 2g } = Z_{ 2 } + \displaystyle\frac{ P_{ 2 } }{ \rho g } + \displaystyle\frac{ v_{ 2 }^2 }{ 2g } + h_{ L } \)
$$ Z_1 + \frac{P_1}{\rho g} + \frac{v_1^2}{2g} = Z_2 + \frac{P_2}{\rho g} + \frac{v_2^2}{2g} + h_L $$
ここで、添字1、2は一流線上の任意の2点であり、\( h_{ L } \) はそれら2点間の損失水頭を示します。
流体の流れが安定して設計流量を維持するためには、始点と終点の間の全エネルギー水頭差が、配管系全体の損失水頭と、下流側の静的な背圧(実揚程)の和を上回る必要があります。
図 ベルヌーイの式についての説明 出典:Modify “Introducyion to Fluid Mechanics Y. Nakayama Butterworth-Heinemann 1999年”
1.2 背圧による有効圧力差の減少
背圧が高まるということは、式中の\( P_{ 2 } \)(終点圧力)や\( Z_{ 2 } \)(終点の位置エネルギー)が増加し、結果として流体を駆動するための有効な圧力差(\( P_{ 1 } – P_{ 2 } \))が減少することを意味します。配管抵抗(摩擦損失)は、流量の概ね2乗に比例するため、有効な圧力差が設計値を下回ると、流量は急激に低下し、流れが阻害されます。
特に、設計段階で損失水頭(圧力損失)を正確に評価することは極めて重要です。管摩擦係数(\( f \))は、レイノルズ数(\( Re \))や管の相対粗さ(\( \epsilon/d \))によって決まり、この計算のわずかな誤差が、ポンプ選定や実運転における背圧の影響を過小評価する原因となり得ます。
2. ポンプ・コンプレッサー系における背圧の影響と運転点の変化
プロセス配管において、流体輸送の駆動源がポンプ(液体)やコンプレッサー(気体)である場合、背圧の増減がシステムの性能に与える影響は最も顕著です。
2.1 ポンプ性能曲線と管路抵抗曲線
ポンプの性能は、そのポンプが特定の回転数で発揮できる全揚程曲線(\( H-Q \) 曲線)によって特徴づけられます。一方、配管系全体の抵抗は、流量が増えるほど抵抗が大きくなる管路抵抗曲線として表現されます。
管路抵抗曲線は主に次の2つの要素で構成されます。
1. 実揚程(静的抵抗):
流れの有無にかかわらず存在する、吸込側と吐出側の液面差、圧力差などの静的な抵抗です。これは、背圧の主要な構成要素の一つであり、曲線(\( H-Q \))の切片(\( Q=0 \)のときの揚程)に相当します。
2. 摩擦損失(動的抵抗):
配管、継手、弁などでの流動抵抗です。これは流量(\( Q \))の概ね2乗に比例して増加し、抵抗曲線の勾配を決定します。
ポンプの運転点は、この全揚程曲線と管路抵抗曲線が交わる点で決定されます。
図 管路抵抗曲線の要素 出典:PIPING HANDBOOK 7th ed. Mohinder L. Nayyar McGRAW-HILL 2000年
2.2 背圧増加と運転点のシフト
背圧が増加する(例えば、下流側タンクの液面が上昇する、あるいは下流側の圧力が上昇する)と、実揚程が増加します。これにより、システム抵抗曲線は全体として上方にシフトします。
この上向きのシフトにより、運転点はより高い揚程、より少ない流量へと移動します。つまり、ポンプは、設計時に想定した流量(\( Q \))を下回る流量で運転することになり、これが流れの阻害として現れます。
図 背圧の変化による実揚程の変化 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
2.3 ポンプ形式による特性の相違
ポンプの形式(比速度)によって、背圧増加に対する応答は大きく異なります。
・ 遠心ポンプ(低比速度):
\( H-Q \) 曲線がなだらかな右下がりを示します。背圧が多少増加しても、流量の減少幅は比較的穏やかですが、比速度が小さいポンプは、最大吐出し量側で軸動力が大になる傾向があるため、設計流量を大きく超える運転は避ける必要があります。
・ 軸流ポンプ(高比速度):
\( H-Q \) 曲線が著しい右下がりを示し、締切点(流量ゼロ)での揚程が設計点に比べて極端に高くなります。軸流ポンプは締切状態で起動・停止することができません。背圧が設計揚程をわずかでも超過すると、流量は大きく減少し、設計流量の確保が極めて困難になる場合があります。
また、ポンプシステムでは、右下がり特性でない場合は、流量が低くなりすぎると、サージング(脈動)が発生する危険があります。これは、圧縮機においても、を含む管系全体が圧力風量特性の右上がりの領域において、振動学的に不安定となって振動を起こす現象であり、ポンプやコンプレッサーの破損、および重大事故につながるため、背圧による流量低下がサージング領域に入らないよう注意深く設計する必要があります。
図 比速度による特性の相違 出典:甲種化学・機械講習テキスト 高圧ガス保安技術 高圧ガス保安協会 平成7年
2.4 キャビテーションの危険性
背圧の議論では通常、吐出側の圧力が問題になりますが、吸込側の圧力(静圧)が低すぎることもまた、流れを阻害する重大な要因となります。ポンプ吸込側で圧力が揚液の飽和蒸気圧以下に下がると、液体が気化し、気泡が発生・崩壊する現象、すなわちキャビテーションが発生します。
キャビテーションは、羽根車を激しく浸食・損傷させるだけでなく、ポンプの揚程や効率を急激に低下させ、設計流量の確保を不可能にします。キャビテーションを回避するためには、ポンプ運転中の最低吸込圧力において、有効NPSH(Net Positive Suction Head)がポンプが要求する必要NPSHを常に上回るよう設計しなければなりません。
3. 流れの阻害を引き起こす具体的な現象
背圧による流れの阻害は、単に流量が低下するだけでなく、以下のようなシステムの安全性や信頼性に直結する現象を引き起こします。
3.1 重力流れ(ドレンライン)の阻害とトラップ設計
重力流れ(グラビティフロー)は、圧力差ではなく、位置水頭(液面の高さ)の差によって駆動されます。ドレンラインや排水ラインのように、重力によって流体を大気圧下やサンプに排出する系では、下流側の液面や圧力が上昇すると、駆動力が減少し、排出能力が低下します。
特にプロセス配管におけるドレンラインでは、サイホン現象の防止や、負圧のドレンを連続的に排出するためにU字管(トラップ)が設置されます。U字管は通常、右脚の水頭差を利用して負圧に相当する流れを維持しますが、下流側の圧力が変動し、トラップ内のシール液が吸い取られてしまうと、配管内のガスがリークしたり、流れが不安定になったりする可能性があります。これを防ぐため、適切な位置にサイホンブレーク管(ベント管)を設けて、背圧変動の影響を避ける設計が重要です。
図 サイホンブレーク 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
3.2 安全弁・リリーフ弁の作動不良
安全弁(Safety Valve)やリリーフ弁(Relief Valve)は、配管系や容器が異常昇圧(過圧)した際に流体を放出し、保護するための装置です。しかし、これらの安全装置の吐出側配管の背圧が高すぎると、以下のような問題が発生し、本来の安全機能が果たせなくなります。
・ 開弁能力の低下:
弁が開いたときに、吐出側で発生するサージ圧(動的な背圧)や、常に存在する定常背圧が、弁体を開き続ける力を相殺し、設定圧力で十分な流量を放出できなくなります。
・ 閉弁不良:
開弁後、背圧が高止まりすることで、弁体が設定圧力以下に戻っても、正常に閉弁できず、流体が漏れ続けます(チャタリングの原因にもなり得ます)。
安全弁のスプリングは、許容ねじり応力以下に設定されているため、通常運転においてへたりの可能性は小さいですが、設計時に最大放出流量における吐出側配管の圧力損失を正確に計算し、弁の仕様(特にバランスベローズ型など)に応じて許容背圧内に収めることが必須です。
図 安全弁の背圧 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
3.3 バルブの異常昇圧(液体ラインの密閉空間)
仕切弁(ゲートバルブ)やボール弁、プラグ弁など、全閉時に一次側と二次側の弁座(シート)の間が完全に密閉状態となる構造を持つバルブは、液体ラインで使用される場合に特有の危険性を持ちます。
もしこの密閉された空間に液体が充満している状態で、周囲環境からの伝熱(日射、高温配管からの輻射など)により液体が昇温すると、液体の熱膨張によって圧力が異常に上昇します。これは、液体が膨張しようとする動きに対し、密閉された空間の壁面や弁体が「背圧」として機能し、膨張を阻害するために発生します。結果として、弁箱や弁体が変形・損傷し、流体バウンダリの維持機能 を損なう可能性があります。
この異常昇圧を回避するためには、弁体の中心部に小さな穴(リリーフホール)を設けて圧力を逃がすか、密閉空間に小型のリリーフ弁(熱膨張リリーフ弁)を設置するなどの対策が必要です。
図 ボール弁の異常昇圧防止対策 出典:日本バルブコントロールズHP https://valco.co.jp/technical/7029/
3.4 流れの不安定化と振動
配管内の流速が速すぎたり、流路の急激な変化(絞り弁、オリフィス通過後)があったりすると、流体の流れが乱れ、これが動的な背圧変動、すなわち流体関連振動の原因となります。
・ 流体励起振動:
流れそのものに振動成分がないにもかかわらず、高流速の流れの乱れや渦によって引き起こされる振動です。絞り後の激しい乱れや高エネルギーの流体は、小径配管や比較的剛性の低い配管において、高周波の振動を励起しやすいです。一般には、カルマン渦が有名です。
図 カルマン渦による流体励起振動 出典:Fundamentals of Fluid Mechanics, 6th Edition By Munson
・ 二相流における振動:
気液二相流の場合、配管内で発生する液体の塊(スラッグ)や圧力脈動が、配管壁に作用する力を周期的に変化させ、大きな振動(動的な背圧変動)を引き起こします。また、断続的な流れ(例えばピストンポンプ)による脈動が、配管の固有振動数や気柱共振周波数 と一致すると、共振が発生し、配管の破損につながる極めて危険な状態となります。
4. 流れの阻害を防ぐための設計上の考察と検証項目
背圧による流れの阻害や、それに伴う付随的な問題を未然に防ぐためには、設計初期段階からの体系的な検討と対策が必要です。
4.1 標準流速の設定と確認
流体励起振動やエロージョン・コロージョン(腐食摩耗) を防ぐためには、流速を適切な範囲に抑えることが重要です。流速は、一般に口径に比例して速くなる傾向があるため、流体の種類や運転条件に応じた標準流速を適用し、設計流量がこの範囲内にあるかを確認する必要があります。
高流速、乱流、あるいは液体内に固体(スラリー)を含む場合、流体の衝突や摩擦作用により腐食生成物が除去され、腐食速度が増大するエロージョン・コロージョンが起こりやすくなります。エルボ部、分岐部、レジューサ部などの流れの乱れが起きる箇所は、特に流れ加速型腐食(FAC)の発生が想定されます。これは配管の減肉につながり、将来的なバウンダリ維持の課題となるため、流速の抑制は健全性維持に直結します。
図 工業的な流速範囲 出典:甲種化学・機械講習テキスト 高圧ガス保安技術 高圧ガス保安協会 平成7年
4.2 ポンプシステムの最大背圧条件の検証
ポンプの選定においては、通常運転時だけでなく、最大負荷時における最大の背圧を正確に見積もることが不可欠です。
最大背圧は以下の条件を考慮して算出されます。
・ 最大流量時における最大の摩擦損失
・ 下流側の液面が最も高くなった場合(最高外水位など)の最大実揚程
・ 下流側機器の背圧が最大になった場合(例:熱交換器のチューブ詰まりや、サージング時の動的圧力)
設計全揚程は、この最大実揚程に、吸込側と吐出側の損失を加えて決定されます。この最大背圧条件下で、ポンプが設計流量を確保できるか(運転点が目標性能を上回るか)を検証し、許容湛水位や許容湛水時間(排水ポンプの場合) を満たしていることを確認する必要があります。
4.3 配管サポートと振動対策
背圧変動や高流速によって引き起こされる振動や揺れは、配管系全体の健全性を脅かします。これに対処するため、配管サポートシステムが重要な役割を果たします。
・ スナッバ(防振器):
配管の熱膨張のようなゆっくりした変位は拘束せず、地震や安全弁吹き出しなどの急速な変位を拘束するサポートです。油圧防振器(オイルスナッバ)やメカニカル防振器があり、これらは炭素鋼製が多いです。
・ リジットハンガ/レストレイント:
垂直荷重を支持したり、配管の動き(揺れ、振動)を拘束・制限したりします。振動や揺れを防止する効果があり、熱膨張による垂直変位が小さい箇所に使用されます。
設計者は、流体関連振動のリスクが高い箇所(絞り弁下流、二相流ライン、ポンプ/コンプレッサー近傍)に対し、適切なサポート(ハンガ、レストレイント)を配置し、流体励起振動や回転機械からの振動伝達 による共振が起きないよう、固有振動数を計算・確認する必要があります。
図 管系支持装置の分類 出典:改訂11版 管系支持装置 三和テッキ(株)カタログ 2019年
参考文献
「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
甲種化学・機械講習テキスト 高圧ガス保安技術 高圧ガス保安協会 平成7年
Introducyion to Fluid Mechanics Y. Nakayama Butterworth-Heinemann 1999年
PIPING HANDBOOK 7th ed. Mohinder L. Nayyar McGRAW-HILL 2000年
日本バルブコントロールズHP https://valco.co.jp/technical/7029/
改訂11版 管系支持装置 三和テッキ(株)カタログ 2019年
図表
図 ベルヌーイの式についての説明 出典:Modify “Introducyion to Fluid Mechanics Y. Nakayama Butterworth-Heinemann 1999年”
図 管路抵抗曲線の要素 出典:PIPING HANDBOOK 7th ed. Mohinder L. Nayyar McGRAW-HILL 2000年
図 背圧の変化による実揚程の変化 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
図 比速度による特性の相違 出典:甲種化学・機械講習テキスト 高圧ガス保安技術 高圧ガス保安協会 平成7年
図 サイホンブレーク 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
図 安全弁の背圧 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
図 ボール弁の異常昇圧防止対策 出典:日本バルブコントロールズHP https://valco.co.jp/technical/7029/
図 カルマン渦による流体励起振動 出典:Fundamentals of Fluid Mechanics, 6th Edition By Munson
図 工業的な流速範囲 出典:甲種化学・機械講習テキスト 高圧ガス保安技術 高圧ガス保安協会 平成7年
図 管系支持装置の分類 出典:改訂11版 管系支持装置 三和テッキ(株)カタログ 2019年
ORG:2025/10/22









