2.3.6 ベント配管

2.3.6 ベント配管(Vent piping)
スポンサーリンク
アフィリエイト広告を利用しています。
Contents
1. ポンプ配管系における気相(ガス・蒸気)
の発生メカニズムと致命的な悪影響
ポンプ配管システムにおいて、流体輸送の効率性、信頼性、安全性を確保することは最も重要な使命ですが、液相内に気相(非凝縮性ガスまたは蒸気)が混入したり、運転条件の変化によって発生したりすると、システムの機能と寿命に深刻な悪影響を及ぼします。気相の混入源は主に以下の3つに分類されます。
1.1 気相の混入源
1. 外部からの空気の混入(Air Entrainment):
ポンプ吸込側配管は、しばしば負圧(大気圧以下)で運転されます。この負圧状態下では、接合部(グランド部やフランジ接続部)からのわずかな空気漏れや、溶接部の微細な割れ目から空気が液体中に引き込まれる可能性があります。また、サクションピット(吸込槽)の水面で渦(Vortexing)が発生すると、大量の空気がポンプ吸込ノズルに引き込まれる主要な原因となります。
図 吸込槽に発生する渦 出典:新版ポンプ-その設備計画_運転_保守
2. 溶解ガスの遊離(Dissolved Gas Release):
液体中に溶解しているガス(例:二酸化炭素、窒素など)は、圧力や温度条件によって溶解度が変化します。配管経路内の圧力低下や温度上昇により、溶解していたガスが液体の飽和溶解度を超えて気泡として遊離することがあります。管路が凸状の形をしており、その部分の圧力が負圧になると、大気圧下で水に溶解していた空気が気泡となり、滞留しやすくなります。
3. 液体の蒸発(Flashing / Vaporization):
流体の圧力が、その温度における飽和蒸気圧以下に低下すると、液体が沸騰して蒸気泡を発生させます。これをフラッシングと呼びます。この現象は主にポンプの羽根車入口付近やオリフィス、部分的に閉じられた弁の下流側など、流速の急激な増加によって圧力が大きく低下する箇所で発生し、キャビテーションの直接的な原因となります。
図 バルブに発生するキャビテーション 出典:CAVITATION R. T. Knapp et al.
1.2 気相が配管系、ポンプに及ぼす影響
これらの気相は、配管系およびポンプに以下のような重大な悪影響をもたらします。
・ 流量・揚程の低下:
ポンプ吸込側に空気が侵入すると、羽根車入口が空気で閉塞され(Air Blockage)、ポンプが連続的に液体を昇圧する能力を失い、揚水不能に陥ることがあります。羽根車内に気泡が発生すると、その圧縮性により、ポンプの全揚程が急激に低下します。
・ キャビテーションエロージョン(Cavitation erosion):
次項で詳述しますが、気泡の崩壊(キャビテーション)は、金属表面を激しく損傷させます。
・ 不安定流動と振動・騒音:
気相の混入は、流れの断続的な変動(脈動)やサージング(Surging)を引き起こし、激しい振動と騒音を発生させます。特に回転機械の軸受や摺動部に大きな摩耗や疲労破壊(漏れにつながる)を生じさせる可能性があります。
2. キャビテーションと空気閉塞のメカニズムと深刻な影響
2.1 キャビテーション(Cavitation)の発生と損傷メカニズム
キャビテーションは、流体の圧力が飽和蒸気圧を下回った時に発生する蒸気泡が、その後の圧力回復(飽和蒸気圧を上回る圧力)により急激に崩壊する現象です。
キャビテーションによる損傷は、この気泡の崩壊時(gas bubble collapse)に発生します。崩壊の瞬間に、極めて高い圧力波(マイクロジェット)が発生し、局所的に最大60,000 psi(約414 MPa)に達する衝撃圧を金属表面に与え、これが金属の疲労破壊や潰食(erosion)を引き起こします。この崩壊は、液体の流れの物理作用による減肉現象の一つであり、ポンプ羽根車や配管の下流側金属表面に激しい損傷をもたらします。腐食性の液体の場合、機械的な破壊作用と腐食作用が相乗的に働き、損傷は更に激しいものとなります。
図 キャビテーション気泡崩壊の様相 出典:キャビテーション工学 山崎卓爾
キャビテーションを防止するためには、NPSHA(有効吸込ヘッド)がNPSHR(必要吸込ヘッド)を上回る状態を維持することが絶対条件です。
・ NPSHR(必要NPSH):
ポンプメーカーが提示する値であり、キャビテーションが起こると全揚程が3%低下するときの吸込水頭から飽和蒸気圧を引いたもの(NPSH3)が測定上の便宜性からよく使われます。
・ NPSHA(有効NPSH):
ポンプ入口で実際に利用可能な正味の圧力水頭であり、ポンプ入口までの管路摩擦損失水頭や液体の飽和蒸気圧換算水頭を考慮して計算されます。NPSHAはNPSHRより少なくとも10%以上の余裕を持つことが推奨されています。
・ 温度の影響:
液体の温度が上昇すると、飽和蒸気圧が急激に増加するため、NPSHAは低下します。例えば、水温が80℃になると飽和蒸気圧相当の水頭は約4.8m(47.415kPa)となり、常温(25℃)時の0.3m(3.1697kPa)の場合に比べて利用できる水頭が大きく減少するため、ポンプ設置レベルの検討が不可欠になります。また、空気の混入もNPSHRを増加させ、キャビテーションの危険性を高めます。
2.2 空気閉塞と流れの閉塞
気体閉塞(Gas Blockage)は、非凝縮性ガス(空気など)が配管の高所に集積し、ベーパポケット(Vapor Pocket)を形成することで発生します。液体を輸送する管路の垂直成分の設計が不適切だと、ベーパポケットに気体が溜まり、流路を狭めたり、閉塞させたりすることが起こり、輸送不能や不安定流動、ウォーターハンマなどの重大トラブルにつながります。
特に、重力流れの管路において、途中に凸状の配管部(ベーパポケット)があると、管内が負圧になり、遊離した空気が溜まることで流路が狭められ、ついには閉塞に至ります。これは、管路の水力勾配線が、配管ルートを下回る場合に発生する現象です。
さらに、並列配管システムにおいて、一方のラインに空気溜まりが発生してエアバウンド(Air-bound)状態になると、その経路の管路断面が狭まり抵抗が増大するため、流体は抵抗の少ない別の経路へ流れ、システム全体の流量バランスが崩れる原因となります。ポンプの運転不能(揚水不能)に至る可能性もあり、ポンプ起動時にはケーシング上部のガス抜きが十分行われていない場合に空引き現象(ハンチングや不安定な変動)を生じます。
3. スムーズな流れを確保するためのベント配管の設計原則と関連技術
配管系内の気相を確実に排除し、スムーズな流れと安定した運転を保証するためには、適切な場所へのベント(空気抜き)/ドレンの設置と、配管ルートの厳密な設計が必要です。
3.1 ベント/ドレンの配置とアクセス性の確保
ベント接続口は液体ラインの高所に設け、ドレン接続口は低所またはポケット部に設けることが基本です。
・ 目的:
ベントは、流体を満たして運転する際や水圧試験時に管内に閉じ込められた空気の排出を可能にします。また、運転中に液中から遊離したガスを排除する目的もあります。ドレンは、運転開始時やメンテナンス時の液体排出に用いられます。
・ アクセス性:
頻繁に使用される高所ベントは、操作性を確保するため、作業床からアクセス可能なエリアまで配管を下ろすことが望ましいです。手が届かない場所に設置されたベントは、利用されない傾向があるためです。
・ バルブと構造物:
弁室内に設置される弁は、その据付けにおいて、沈下、傾斜、および開閉軸の偏心が生じないよう入念に行われなければなりません。
3.2 配管ルートの設計とポケットの回避
流体の流れを円滑にするため、配管ルート設計では気相や液相が溜まるポケットの形成を避ける必要があります。
・ 重力流れと勾配:
液体ラインにおいて、流れ方向に十分な勾配をつけて敷設することは重要です。特に排水を目的とするラインや、飽和水、二相流のラインでは、不安定な流動(間欠流や振動)や液相の滞留を防ぐため、1/24程度以上のかなりの勾配(ドレンの流れが断続的となるのを防止するため)が推奨されます。
・ ベーパポケットの回避:
液体ラインの配管ルートを検討する際、ベーパポケット(上に凸の配管)を避けることが最も重要なポイントです。
・ ポンプ吸込部の設計:
ポンプ入口管では、空気溜まりを防ぐために、偏心レデューサーを水平管の上部が平らになるように(Top of Flat; TOF)使用することが定石です。これに対し、同心レデューサーを使用すると水平管上部にベーパポケットができ、溜まった空気が間欠的にポンプに吸い込まれ、性能低下を引き起こす可能性があります。ポンプ吸込配管は、空気や蒸気の巻き込みによるキャビテーションを防ぐため、短く、曲がりを少なくし、流速も低く抑えるべきです。
図 ポンプ吸込み配管の設計上の注意 出典:新版ポンプ-その設備計画_運転_保守 日本機械学会
3.3 バランス管(均圧管)とサイホンブレーク用ベント
ベントは単なる空気抜きだけでなく、圧力変動を制御する目的でも用いられます。
・ 重力流れの安定化:
液位の異なる2つのドラム間を重力流れで液体輸送する場合、下流ドラムに気相が溜まり圧力が上がると、気相が管路を上流ドラムへ逆流し、不安定な流れとなります。これを防止するため、上流ドラムと下流ドラムの圧力をバランスさせるベント管(均圧管)が必要です。これにより、ドレンの流れがベーパの逆流によって阻害され、断続的になる現象を防ぎます。
図 上下ドラム缶の均圧管 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司
・ 回転機械の軸受油:
回転機械の軸受潤滑油を循環させているラインでは、オイルサイトと油タンクの空間部の圧力が一致していないと、所定の循環量が得られなくなるため、これらをバランスさせる管が必要となります。
・ サイホンブレーク:
熱交換器の復水を重力流れで排出する負圧ドレン管の例では、U字管のシール水切れによりサイホンが形成されるのを防止するため、U字管の右脚頂部(または適切な箇所)にベントを設けて常時大気圧に開放し、負圧の発生を防ぐ措置(サイホンブレーク)を講じる必要があります。
図 サイホンブレーク用ベント 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司
3.4 バキュームブレーカーとウォーターハンマ対策
ベント配管の設計では、負圧(真空)による配管の破損や、それに伴う流体過渡現象の対策も重要です。
・ 負圧の防止:
配管内で液体の流れを空にする際、または水撃作用によって圧力が飽和蒸気圧以下に低下した際に負圧が発生し、薄肉配管などが潰れる(Collapse)危険性があります。これを防ぐため、外部の空気を導入して負圧を破壊するバキュームリリーフ弁(真空破壊弁: V.B.)を設置します。図面においても、配管の上下変化(上越し/下越し)があった箇所で、バキュームブレーカーの設置が考慮されることがあります。
・ 液柱分離と再結合:
ポンプが急停止した際、流速の急減速により圧力が飽和蒸気圧まで下がり、ボイド(蒸気空間)が発生し、液柱分離が起こる場合があります。その後、負圧による吸引力で液柱が引き戻され、再結合するときにウォーターハンマ(水撃作用)が発生します。
・ 緩和策:
空気弁(バキュームブレーカー)は、負圧になったときに自動的に空気を吸い込むことで液柱分離を防ぐ役割を持ちます。空気がトラップされている場合、量が多ければサージ圧を軽減するクッションとして作用する可能性がありますが、不適切な量や位置ではかえって危険な過渡現象を誘発する可能性があります。ウォーターハンマの対策として、配管内の流速を遅くする(1m/s程度)ことや、フライホイールの設置、サージタンクの設置、緩閉逆止弁の使用などがあります。
参考文献
「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
甲種化学・機械講習テキスト 高圧ガス保安技術 高圧ガス保安協会 平成7年
ポンプハンドブック I. J. Karassik et al. 地人書館 S56年
Pumps & Pump Piping Sandeep More SAMSUNG ENGINEERING 2006年
図表
図 吸込槽に発生する渦 出典:新版ポンプ-その設備計画_運転_保守
図 バルブに発生するキャビテーション 出典:CAVITATION R. T. Knapp et al.
図 キャビテーション気泡崩壊の様相 出典:キャビテーション工学 山崎卓爾
図 ポンプ吸込み配管の設計上の注意 出典:新版ポンプ-その設備計画_運転_保守 日本機械学会
図 上下ドラム缶の均圧管 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司
図 サイホンブレーク用ベント 出典:「配管設計」実用ノート 西野悠司
ORG:2025/11/15





