3.2.4 サージングの発生要因

3.2.4 サージングの発生要因(Causes of surging)
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Contents
1. サージングの概要、現象、および他の振動現象との区別
1.1 サージングの定義と特徴
サージング(Surging)とは、ポンプ、送風機、圧縮機などの流体機械が関連する配管系において、流量と揚程(または圧力)が比較的ゆっくりとした周期で変動を繰り返す現象を指します。一旦サージングが発生すると、揚程や圧力が大きく変動し、配管系全体が激しい振動と大きな騒音を伴います。
本コンテンツでは、液体を取り扱うポンプのサージングについて詳述します。圧縮機や送風機の気体を取り扱う流体機械については、別の機会に述べます。
この現象は、外部からの周期的な力(励振源)によって引き起こされる強制振動とは異なり、配管系全体の動的な特性をエネルギー源として、自ら振動を作り出す自励振動の一種です。流れ自体には振動成分がないにもかかわらず、系全体の振動学的特性によって不安定な運転状態となることが原因です。サージングの周期は比較的長く、一般的に10秒から1/10サイクル程度の周期であるとされています。
1.2 サージングと他の振動現象との比較
液体系の流体輸送システムで発生する振動には、サージングの他に、ウォータハンマや圧力脈動による強制振動などがあります。
表 サージングと他の流体振動現象との比較 出典:ORIGINAL
遠心ポンプでは、液体の非圧縮性によりサージングが発生する可能性は低いとされていますが、複数の条件が揃った場合に発生します。これに対し、往復式ポンプは、その往復運動による流量の断続的な変動の結果、吐出し圧力に脈動(圧力変動)が生じやすいです。
2. ポンプ配管系におけるサージングの発生条件とメカニズム
ポンプ配管系でサージングが発生するには、以下の三つの条件がすべて同時に揃うことが必須です。
2.1 ポンプのサージング発生条件
(1)ポンプの揚程曲線が流量に対し「右上がり」になっていること
サージングが発生する最も根本的な機械的条件は、ポンプの全揚程(H)曲線が、小流量域で流量(Q)の減少に伴って揚程が上昇する(dQ/dH < 0、つまり曲線が右上がりになる)特性を持つことです。
遠心ポンプでは、比速度が低くなるにつれて小流量域では右上がり特性になりやすいです。プロセス向けのポンプでは、比較的低比速度のポンプが採用されることが多いですが、低比速度のポンプでは、右下がり特性を得るために、効率をある程度犠牲にして羽根出口角度を小さくする設計を採用する場合が多いです。
(2)ポンプ下流側に気相部(空気だまりや自由表面;空気と接して水位のできるところ)があること
サージングを発生させるための容積要素(キャパシタンス)として、ポンプの吐出し配管中に空気槽、サージタンク、またはガス溜まり(ベーパポケット)などの、液面が空気やガスに接している部分が存在する必要があります。
この容積要素が、圧力変動を吸収し、水位(水頭)の変化としてエネルギーを貯蔵・放出する役割を担います。
ガス溜まりの発生要因の例:
・ ベーパポケットの存在:
液相流体ラインの上部に、管のアップダウン(上に凸の配管形状)などにより、気体が溜まる部分(ベーパポケット)が形成される場合。ポンプ入口管で同心レジューサを使用すると、水平管上部にベーパポケットができやすく、溜まった空気がポンプに間欠的に吸い込まれ、性能低下を引き起こす可能性があります。
・ 蒸発しやすい液体の取扱い:
蒸発しやすい液体(例えばLPGや液化ガス)を取り扱う場合、管路内にガス溜まりが発生しやすく、サージング発生の危険性が高まります。
(3)空気槽より下流に流量調節弁のような絞り抵抗要素があること
流量を調整する弁(調節弁など)の位置が、前述の空気槽またはガス溜まりよりも下流側にあることが三つ目の条件です。
この配置により、ポンプの吐出し流量の変動が、調整弁の流量変化に直接結びつかず、途中の空気槽の水位変化を介して間接的にフィードバックされる不安定なループが形成されます。
図 ポンプサージングの3条件 出典:ORIGINAL他
2.2 サージング発生のメカニズム(自励振動の増幅)
サージングのメカニズムは、流量変化が空気槽の水位変化によって間接的に制御される「自励振動」の増幅にあります。
1. 初期変動:
安定運転点流量\( Q_{ 1 } \)から、下流の調整弁の絞りにより要求流量が\( Q_{ 2 } \)に減少したとします。
2. 水位上昇:
ポンプの吐出し流量\( Q_{ x } \)がすぐに変化しないため、\( Q_{ x } > Q_{ 2 } \) の流量差で空気槽の水位\( H_{ x } \)が上昇します。
3. 流量減少(不安定領域):
\( H_{ x } \)の上昇はポンプの吐出し圧力を上げ、ポンプ流量\( Q_{ x } \)を減少させますが、揚程曲線が右上がりである場合( \( H \) が減少すると \( Q \) が減少する特性)、水位の変動が流量をさらに小流量側へと押しやります。
4. 振幅の発散:
\( Q_{ x } \)が元の水位$H_1$に戻る際、右上がりの揚程曲線特性は、水平(フラット)な揚程曲線の場合よりも小流量側へ大きく振れる傾向を強めます。次に流量が増加する局面でも同様に大流量側へ大きく振られる傾向が強まり、このサイクルが繰り返されるうちに、流量や水位の振幅が徐々に発散し、サージングが起こります。
5. 安定特性との比較:
一方、揚程曲線が右下がり(流量が増えると揚程が減少)の場合、変動が発生しても、系は元の安定点に向かって収束し、振動は減衰します。
3. サージング発生が引き起こす不具合と対策
3.1 サージングが引き起こす具体的な不具合
サージングによって引き起こされる不具合は、配管系の健全性、機器の寿命、およびプラントの運転に重大な影響を与えます。
1. 高サイクル疲労割れ(High Cycle Fatigue):
サージングによる周期的な圧力脈動と、それに伴う配管の振動は、配管、特に小口径配管のソケット溶接部や継手部に繰り返し応力(高サイクル疲労)を発生させます。 高サイクル疲労は、応力振幅が小さくても、繰り返しの回数(サイクル数)が \( 10^7 \)を超えるような場合に発生し、短期間で配管の疲労破壊(割れ)を招く可能性があります。過去には、ポンプ等の機械・流体振動による繰り返し応力によって、小口径配管のソケット溶接部に高サイクル疲労割れが発生した事例があり、これは配管サポートの不適切な取付位置が原因であったと想定されています。
2. 機器の損傷と機能低下:
サージングに伴う振動と圧力変動は、ポンプの軸受(ベアリング)、軸封部、羽根車に過度な負荷や摩耗を引き起こします。遠心圧縮機の場合、不安定な状態で運転を続けると、軸受や羽根車の破損につながり、重大事故に至るため、サージングは避けるべき現象です。
3. 配管支持系の損傷:
激しい振動は、配管サポート(ハンガやレストレイント)の取り付け不良や、ルーズなサポートによる金属摩耗、さらにはサポート自体の破損を引き起こすことがあります。特に、非常に柔軟な(フレキシビリティが高い)配管システムは、振動の振幅が大きくなりやすく、過度な振動を防ぐためにリジッドガイドを適切に配置する必要があります。
4. 漏えいの発生:
振動は、継手やボルトの緩みを引き起こし、漏えい(リーク)の原因となる可能性があります。
3.2 サージングの防止対策
ポンプのサージングの防止は、2.1項に示す3つの発生条件の少なくとも一つを外すことによって達成されます。
(1)ポンプの選定・特性の改善:
・右下がり特性のポンプの採用:
最も基本的かつ確実な対策は、運転範囲全体で揚程曲線が右下がり特性(山形特性を持たない)を持つポンプを選定することです。プロセス向けのポンプでは、仕様書で要求されることがあります。
・ 低流量域運転の回避:
ポンプが山形特性を持つ場合、サージングが発生し得る右上がりの領域(低流量域)での運転を避けるように計画します。
(2)配管系における容積要素(空気槽/ガス溜まり)の制御:
ガス溜まりの防止: ポンプの吐出し配管中にガス溜まり(ベーパポケット)が発生しないように配管ルートを設計します。特に、水平管の異径分岐部や、ポンプ吸込管の上部など、気体が溜まりやすい箇所に注意が必要です。ポンプ吸込管では、偏心レジューサを頂部が平らになるように(Top of Flat: TOF)使用することで、ベーパポケットの形成を防ぐことができます。
図 偏心レジューサの使用法 出典:Pumps & Pump Piping Sandeep More SAMSUNG ENGINEERING 2006年
・ 流量調整弁の配置変更:
やむを得ず空気槽を設ける場合、流量調整弁をポンプまたは空気槽の直後(上流側)に配置しないように設計します。調整弁をポンプの吐出し口と空気槽の間(空気槽の上流)に設置することで、空気槽水位変化による自励振動のループを断ち切り、サージングを防止できます。
(3) 運転条件および設計的な対策:
回転数の変更/インペラカット: インバータ付きモータによりポンプの回転数を下げるか、またはインペラの外周を削る(インペラカット)ことで、揚程曲線を下げ、抵抗曲線との交点(運転点)を安定領域へ移行させます。
・ サージタンクの設置:
ウォータハンマ対策としてサージタンクが用いられますが、サージング対策としては、空気槽が存在しないように設計するのが原則です。ただし、ウォータハンマの液柱分離が発生しやすい箇所に空気弁を設け、負圧時に自動的に空気を吸い込ませることで液柱分離を防ぐ方法もあります。
4. サージングに関連する配管系の設計上の留意事項
サージングの防止だけでなく、配管系全体の動的な安定性を確保するためには、ポンプ周りの配管設計に細心の注意を払う必要があります。
4.1 ポンプ吸込配管の設計と空気混入防止
ポンプ吸込側で空気が混入したり、ガスが析出したりすると、ポンプの性能低下、振動、騒音、さらには揚水不能につながるため、サージングと同様に空気の混入防止は極めて重要です。
・ 短距離化と曲がり数の最小化:
吸込管は、管長をなるべく短くし、曲管の数を減らし、損失ヘッドを少なく設計します。
・ 適切な勾配と空気溜まり防止:
配管内に空気溜まりができないように、ポンプに向かって\( 1/50 \sim 1/100 \)程度の上り勾配とします。空気溜まりができる部分には、排気できるようにする必要があります。
・ 偏流・旋回流の防止:
ポンプの吸込口で偏流や旋回流が生じないように、ポンプ直前での急な曲がりを避けます。偏流はポンプの効率を低下させ、振動を誘発します。
・ キャビテーション防止:
NPSHA(有効吸込揚程)が必要NPSH(NPSHR/NPSH3)を上回る状態を確保します。特に飽和水を扱う場合、配管の途中でフラッシュ(減圧沸騰)させないように、タンクを出てすぐに垂直か急勾配とし、曲がりやループの設置位置をできるだけ低くします。
4.2 ポンプノズルに対する許容荷重の遵守
ポンプは回転機械であり、配管からの不適切な荷重は、軸心の狂い、振動、発熱、損傷を引き起こします。
・ 許容荷重の確認:
配管設計者は、ポンプメーカーが定める許容荷重(曲げ、ねじりモーメントを含む)を遵守しなければなりません。API 610などの規格では、ポンプノズルに作用する許容荷重が規定されています。
・ フレキシビリティの確保:
熱膨張による配管応力や、配管の自重がポンプノズルにかからないよう、フレキシビリティ解析を行い、ループやオフセットを設ける必要があります。フレキシビリティで対応できない場合は、レストレイントの設置も検討されます。
・ サポート設計:
ポンプ周りの配管は、配管自重がポンプにかからないようサポート配置とハンガ形式を選択します。
・ 芯出しの重要性:
ポンプと原動機の芯出しは正確に行わなければなりません。特に、運転温度が変化する高温液ポンプや、直射日光が当たる場所に設置されるポンプは、熱膨張による軸心の狂いを考慮し、据付時にあらかじめ傾きを考慮したり、遮へい物を設けたりする対策が必要です。ポンプを電動機より低く据付ける必要がある場合もあります。
4.3 振動に対するサポートと設計の役割
サージングに限らず、配管振動は流体の圧力変動、乱れ、または回転機器からの強制振動により発生します。振動による疲労破壊を防ぐには、適切なサポート計画が不可欠です。
・ 適切なサポート配置:
配管の固有振動数を運転周波数から外すことが重要です。長すぎるスパンを避け(サポートスパン)、高周波振動を起こしやすい小口径配管や、剛性の低い配管には注意が必要です。
・ 強制振動への対処:
回転機器から伝わる振動を遮断するため、ポンプと配管の接続部にフレキシブルメタルホースやベローズ形伸縮管継手を使用する方法がありますが、その場合、配管側の固定を確実に行う必要があります。
・ レストレイントの利用:
フレキシビリティがありすぎる配管は振動しやすくなるため、動きを拘束するレストレイントを適切な位置に設置します。ただし、レストレイントは地震やウォータハンマのような大きな加速度/速度に対して配管を拘束するために設計されているため、低振幅・高サイクル振動の軽減には振動減衰装置(ダンパ)を使用することが望ましいです。
これらの詳細な検討を通じて、設計者はサージングを未然に防ぎ、配管系の長期的な健全性と安定したプラント運転を確保することができます。
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参考文献
「配管設計」実用ノート 西野悠司 日刊工業新聞社 2017年
甲種化学・機械講習テキスト 高圧ガス保安技術 高圧ガス保安協会 平成7年
ポンプハンドブック I. J. Karassik et al. 地人書館 S56年
Pumps & Pump Piping Sandeep More SAMSUNG ENGINEERING 2006年
図表
表 サージングと他の流体振動現象との比較 出典:ORIGINAL
図 ポンプサージングの3条件 出典:ORIGINAL他
図 偏心レジューサの使用法 出典:Pumps & Pump Piping Sandeep More SAMSUNG ENGINEERING 2006年
ORG:2025/10/28


