10.10 すみ肉溶接継手

10.10すみ肉溶接継手(fillet welded joint)

 

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1. すみ肉溶接とは

すみ肉溶接は、ほぼ直交する2つの面を接合するために、三角形状断面の溶着部を有する溶接をいいます。
すみ肉溶接には、重ね継手、T継手、かど継手があります。それぞれの概念図(図10.10.1)を示します。

図10.10.1各種すみ肉溶接継手  出典:ORIGINAL

すみ肉溶接では、継手部の溶接量により、すべての全長にわたって溶接するものを連続溶接(continuous weld)といい、断続的に溶接するものを断続溶接(intermittent weld)とがあります。また、断続溶接は接合面の両側の溶接位置が同じ並列溶接(chain welding)と両側の溶接が互い違いの千鳥溶接(staggard welding)とがあります(図10.10.2)。

図10.10.2 連続溶接と断続溶接   出典:図表出典:現代 溶接工学

また、すみ肉溶接重ね継手では、荷重方向と溶接線方向とによって、前面すみ肉溶接(front fillet weld)、側面すみ肉溶接(side fillet weld)、および斜方すみ肉溶接(oblique fillet weld)に区分されます(図10.10.3)。

図10.10.3すみ肉溶接重ね継手   出典: 現代 溶接工学

 

 

2. すみ肉継手の強度特性

溶接・接合構造物の性能は、その接合部の強度特性に左右される場合が多いです。それは、溶接・接合時に局部的に熱が加えられ、さらに溶融・凝固現象を伴うために、溶接部は母材とは異なった性質となりやすいためです。

溶接部の硬化、軟化や、ぜい化などの材質の変化、溶接変形や残留応力の発生などがその代表的な例になります。
また、溶接条件が正しく設定されていない場合、溶接割れ、融合不良、アンダカットや、ブローホールなどの溶接欠陥が発生する恐れがあります。

溶接部の特性は、溶接継手に荷重が負荷される場合に,それが一様な荷重であっても溶接部に不均一な応力やひずみをもたらして、しばしば継手性能を低下させる原因となります。

本コンテンツでは、すみ肉溶接継手への負荷の種類により、強度にどのように影響するかを簡単に示します。

 

2.1 静的強度(static strength)

すみ肉溶接継手に静荷重が負荷される場合、主にせん断力によって部材から部材へ力が伝達されます。すみ肉溶接継手は、幾何学的に不連続な継手形状になるため、ルート部や余盛止端部に大きな応力集中を生じて、継手強度は突合せ継手と比較して、一般的に劣ります。

各種すみ肉継手の強度を溶接金属の強度と対比して表したものが、図10.10.4です。両面当て金すみ肉継手の強度が高くなっていますが、これは溶接熱収縮によって当て金と主板の間に摩擦を生じるためです。十字継手では未溶着の存在によるルート部へ応力集中が発生します。また、重ね継手では偏心による曲げ応力の発生(特に重ね代が短い場合)、側面すみ肉継手では溶接始終端へのせん断応力集中が強度低下のおもな要因です。

一方、溶接部に存在する残留応力(residual stress)は、継手の引張強度にほとんど影響しません。これは、残留応力の自己平衡特性による(溶接部付近には、一般に高い引張残留応力が存在しますが、溶接部から離れた箇所ではそれと釣り合う圧縮残留応力となっています)。ただし、溶接部付近は早期に降伏するので、継手の剛性は母材よりも、やや低下します。広幅継手で溶接部が板の両端近くにあり、板中央部に圧縮残留応力が存在すると、座屈強度が母材に比べて低下します。

 

図10.10.4各種すみ肉溶接継手の静的強度   出典:機械工学便覧 第6版 β03-03章

 

2.2 疲労強度(fatigue strength)

溶接継手の疲労強度は、応力集中に敏感で、継手形状と表面状態に大きく影響を受けます。

すみ肉溶接継手では、ルート部や止端部の応力集中が大きく、疲労き裂はこれらの箇所から発生します。疲労強度は、突合せ溶接継手と比較すると、かなり小さくなります。このため、疲労が問題となる構造物では、すみ肉溶接継手は採用されません。

 

2.3 ぜい性破壊強度(brittle fracture strength)

溶接構造物を製造する場合に、最も避けなければならない破壊形態がぜい性破壊です。それは、き裂の伝ぱ速度が速く(約 2km/s)、一旦発生すると容易には停止せず,構造物に致命的損傷をもたらす大規模破壊に至ってしまうことが多いといわれています。

ぜい性破壊は、次に示す三つの要因が重なると生じます。
(1)過大な引張応力の存在:溶接残留応力、角変形などによる二次応力の付加。構造的不連続による応力集中。
(2)き裂や切欠の存在:溶接欠陥、特に溶接割れや融合不良のような平面状欠陥の存在。
(3)破壊靱性の不足:溶接熱影響による靱性劣化、溶接金属部ぜい弱

これらの事象は、溶接継手に起こりがちな現象で、溶接部では母材に比較してぜい性破壊を生む要因が生成しやすくなります。

すみ肉溶接継手は、その継手の形状から構造的な不連続が発生しやすいことがあげられます。他の要因についても、突合せ溶接継手と比較すると、同等かもしくはより起こりやすい傾向にあります。

 

 

 

参考文献
機械工学便覧 第6版 β03-03章  日本機械学会
現代 溶接工学   木原博  オーム社S49年

 

引用図表
図10.10.1各種すみ肉溶接継手  出典:ORIGINAL
図10.10.2 連続溶接と断続溶接   出典:図表出典:現代 溶接工学
図10.10.3すみ肉溶接重ね継手   出典: 現代 溶接工学
図10.10.4各種すみ肉溶接継手の静的強度   出典:機械工学便覧 第6版 β03-03章

 

REV:2024/02/28
REV:2019/11/13
ORG:2014/09/07