2.7 Cast Iron (鋳鉄)

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2.7 鋳鉄(cast iron)

1. 鋳鉄とは

鋳鉄は、概念的にいえば鉄(Fe)と炭素(C)の化合物です。鋳鉄は通常2.0~4.5wt%の炭素を含有しています。
ちなみに炭素含有量が2.0wt%以下のものは鋼と呼ばれます。

鋳鉄中の炭素は、セメンタイト(cementite)と呼ばれる鉄との化合物(Fe3C)と黒鉛(grifite)として存在しています。
最も一般的なねずみ鋳鉄(gray cast iron)は、細く曲がった板状の黒鉛の周囲を、フェライト(ferrite)とパーライト(peralite)が包む組織です(図2.7.1)。

図2.7.1_普通鋳鉄組織_日本ダクタイル管協会_72_2-1

図2.7.1_普通鋳鉄組織

ねずみ鋳鉄という名前の由来はマクロで見た破面がねずみ色をしていることから名づけられました。 けい素が少ない場合は、含有する炭素がすべてセメンタイトになります。この場合は破面が白色になるので白鋳鉄と名付けられています。

鋳鉄は色々な種類がありますが、それについては2.8項で詳しく示します。 
本項では、一般的な性質について記述します。

2. 鋳造品のメリット、デメリット

鋳造品は、砂や耐火物、金属などを用いて、空間を形成して、その空間に溶融した金属を流し込んで、凝固させることにより形状を作り出す付加加工法の一種です。

(1) メリット

1) 液体金属を使用するため、複雑な形状を一体で成形できます。図2.7.2に、自動車のエンジン部品のシリンダブロックを示します。

図2.7.2_シリンダブロック_image_technology03_03_large

図2.7.2_シリンダブロック

2) 鋳造品の大きさに限界がありません。鋳造は、液体金属を鋳型に流し込むのに重力を利用します。鋳型の強度が十分で、溶融金属の量も十分であれば鋳造品の大きさに限界はありません。
図2.7.3に示す「奈良の大仏」は、質量が230t あります。分割して作られていはいますがすべて鋳造にて成形されています。

図2.7.3_奈良の大仏_800px-Todaiji02

図2.7.3_奈良の大仏

 

(2) デメリット

1)溶融金属を用いるため、凝固時に収縮を起こします。そのため、寸法精度が悪い、ひずみを生じる等の問題があります。

2)溶融金属は、表面張力が大きいので、狭い隙間に流し込むことが困難です。1mm以下の極端な薄肉鋳物は成形できません。

3.鋳鉄における黒鉛の影響

先に述べたように炭素を2.0~4.5wt%含有しているものを鋳鉄といいますが、そのうち機械構造用鋳物として性能が優れているものは基地がパーライト組織と黒鉛からなるものです。この場合、約1wt%がパーライト中に含まれているので残りは黒鉛として存在しています。

例えば、3.5wt%の炭素を含む鋳鉄では、炭素は約2.5wt%が黒鉛として存在します。黒鉛の比重を2.2とすると、鋳鉄中に黒鉛の占める体積は下記のように計算されます。

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体積比で約10%黒鉛が存在することになります。 先に述べたように黒鉛はグラファイトとも呼ばれる、炭素の結晶体です。

木炭やすすは結晶体ではなく、原子配列は不規則です。結晶体としてはダイヤモンドがあります。黒鉛を人工的に作るには、不定形の炭素を、2,700~3,000℃まで加熱する必要がありますが、溶鉄の中に溶け込んでいると、低い凝固温度(1145℃)で結晶の形で晶出されます。また、比重は約2.2です。  

黒鉛の結晶は3個の価電子により、他の3個の炭素原子と共有結合をしています。そのため、炭素6個が平面で正六角形構造をしています。この平面構造がいくつも重なりあって黒鉛の結晶を形成しています。
この平面構造は共有結合で結合していますが、平面構造自身は共有結合ではなく、はるかに弱いファンデルワールス結合で結合しています。従って、層状に滑りやすくなっています。これがグラファイトに潤滑性があるといわれる所以です(図2.7.4)。

図2.7.4_グラファイト_l6tB1

図2.7.4_グラファイト

 鋳鉄中の黒鉛は、強さが小さく、鉄部と結合しているのでは無く、隙間とほとんど変わりません。しかし、黒鉛を含むために、鋼とは異なった優れた性質を持っています。

(1)上に既述したように、鋳鉄が凝固するときは、多量の黒鉛を晶出します。黒鉛は凝固時に膨張して、基地の鉄部(パーライト)の収縮量を相殺します。従って鋳鉄の凝固収縮は鋳鋼に比べて著しく小さくなります。そのため鋳鉄を使えば正確な製品が作りやすくなります。

(2)鋳鉄の耐摩耗性は同じ硬さのほかの金属に比べて非常に優れています。これは鋳鉄中の黒鉛が潤滑作用をし、また黒鉛が油のたまり場になるからです。

(3)被削性が優れています。理由は、黒鉛が潤滑剤となってワークと刃具との間の摩擦を減らすことにより、切削抵抗が減少します。また、黒鉛が強度が無いので切粉がつながらずに細かく折れます(図2.7.5)。

図2.7.5_鋳物切粉

図2.7.5_鋳物切粉

(4)減衰能に優れています。鋼材と比較すると、鋳鉄は振動が早く収まります。これは鋳鉄が振動すると黒鉛部が周囲の基地と摩擦して振動のエネルギーを熱に変え振動を抑えるためです。これが減衰能(振動吸収性)が大きい理由です。 これが自動車のエンジンブロックに鋳鉄が広く使用されている理由の一つです。

 

 

引用元:
図2.7.1: https://www.jdpa.gr.jp/q_kihon.htm#6  日本ダクタイル鉄管協会様HP
図2.7.2: https://www.nissan.co.jp/SKYLINE/BLOG/DEVELOPER/TECHNOLOGY_03/index.html  日産自動車(株)様HP
図2.7.3: https://ja.wikipedia.org/wiki/東大寺盧舎那仏像   Wikipedia
図2.7.4: https://chemistry.stackexchange.com/questions/15422/is-the-valency-of-carbon-satisfied-in-graphite
図2.7.5: https://www.tsubakimoto.jp/pdf/tmf/chipconvetors_coolant_j_e.pdf 椿メイフラン(株)様カタログ