2.8 鋳鉄の種類

2.8 鋳鉄の種類

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鋳鉄をその製造方法で分類すると、大きく分けて、組織に含まれる黒鉛の形状により、ねずみ鋳鉄、球状黒鉛鋳鉄、CV鋳鉄の3種類、及び特殊鋳鉄に分類されます。 普通鋳鉄の定義は、炭素(C)を、約2.0 ~6.67%(Fe-C状態図で点Eから点Fまでの間;実用上は約2.0~4.5%)含む、Fe-C系合金です。実際にはけい素(Si)を1~2%含むので、Fe-C-Si系合金と考えることもできます。この他、不純物としてマンガン(Mn)を1%以下、リン(P),硫黄(S)を0.1%程度含むことが多いです。

1. ねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄)

1.1 ねずみ鋳鉄の性質

普通鋳鉄は、C,Siの含有量と溶解/凝固する際の冷却速度により、白鋳鉄、まだら鋳鉄、ねずみ鋳鉄の3種類に分類されます。これら3種類の鋳鉄の成り立ちと、それに対するC、Si含有量と、冷却速度、肉厚の影響を、模式図として図2.8.1に示します。C,Si含有量、肉厚については大きいほど上側の組織が得られます。冷却速度については小さいほど上側の組織が得られます。

図2.8.1_鋳鉄の組織に対するC,Si量、肉厚、冷却速度の影響

白鋳鉄やまだら鋳鉄は、非常に硬くて切削加工ができません(HB500位)。また、ねずみ鋳鉄でも図の上側により過ぎると基地がフェライト組織になっているねずみ鋳鉄は硬さが低くて耐摩耗性が悪くなります。従って機械用鋳物として基地がパーライトのみでできているねずみ鋳鉄が最も望ましいことになります。 C,Siの含有量と、肉厚との組合せで、鋳鉄の組織がどのようになるかを示した図が、Klingensteinの組織図です(図2.8.2)。

図2.8.2_鋳鉄の組織

 

ここでは、機械的性質に優れるねずみ鋳鉄について、記述します。ねずみ鋳鉄は、鉄系の鋳物として古代から生産されてきました。 現在でも、鋳鉄の全生産量の過半数を占めています。その特性は、主としてその組織中に存在する黒鉛に依存しています。ねずみ鋳鉄中の黒鉛の効果については、2.7項を参照してください。 ここでは、ねずみ鋳鉄の特性について述べます。

1.ねずみ鋳鉄の基地(パーライト)が収縮する一方で、黒鉛は凝固時に膨張します。その結果、凝固時にも大きな収縮が認められない。

2.耐摩耗性に優れています。これは、鋳鉄中の黒鉛が潤滑作用を行い、また黒鉛は油を溜めるので油のたまり場になるからです。

3.被削性に優れます。黒鉛が潤滑剤として、ワークと刃具との摩擦を減らして、切削抵抗を減少させる効果があります。また、黒鉛のところで切粉がつながらずに細かく折れます。

4.減衰能に優れています。つまり振動を吸収する能力が大きいです。 振動すると黒鉛部が周囲の基地と摩擦して振動のエネルギーを熱に変え振動を抑えます。

5.熱伝導率が大きいので、熱の放散が良好です。このため熱衝撃に対して抵抗性が強いです。これは、基地の急速膨張を黒鉛が吸収してくれる溜めとされています。

6.鋼管に比較して錆に強い性質があります。従って、昔は地中に埋設される水道用配管に鋳鉄管が良く使用されていました。現在では、より強靭な球状黒鉛鋳鉄製の管に置き換わっています。

一方、金属としての鋳鉄は、じん性が弱い性質があります。これは、片状黒鉛同士、その先端が接触して、負荷を与えると、その部分に割れが発生しやすくなるためです。

一般に、金属材料の性質として、じん性が大きいことは重要なファクターです。ねずみ鋳鉄はじん性が弱いので、鋳物でじん性が要求される場合は、鋳鋼が使用されます。 ただ、強度の観点から考えると、ねずみ鋳鉄はアルミニウム合金以上の強度はあります。また、じん性が低いといっても、少し叩いただけで割れてしまうほどもろくありません。 強い衝撃を受ける場合については、十分注意しなければなりませんが、圧縮荷重については十分な強度があります。原材料も比較的安価で、比較的小規模な設備でも製作できるので、ある程度以上の生産ボリュームがある場合は、十分に利用価値がある素材です。

1.2 ねずみ鋳鉄の規格

JISで規定された、ねずみ鋳鉄の機械的性質を抜粋したものを、表2.8.3に示します。記号FC(Ferrum Casting)は、ねずみ鋳鉄を意味します。ねずみ鋳鉄は 全部で6種類の規格が有り、ねずみ鋳鉄といっても多くの品種が有ります。FCの次の数字は、その規格が要求する最小引張強さの値(単位;N/mm2) を示します。 この引張強さが強度を代表する数値とみてよく、これが100より350まで50とびに分けられています。

表2.8.3_ねずみ鋳鉄の機械的性質

それぞれの種類の違いを金属組織の面から見てみましょう。これらの違いは、主として黒鉛の量の多寡に依ります。
例えば、FC100とかFC150のような引張強さの低い種類は、黒鉛量が多く、熱衝撃に強い黒鉛の特性を利用する用途に向いているものです。

一方、FC300、FC350などの引張強さの大きい品種は、黒鉛の特性も生かしながら、高強度であることが必要な製品に用いられます。しかし、強度を上げるためには黒鉛量を少なくしなければなりませんから、凝固するときに収縮する量が大きくなって鋳物が作りにくくなります。
この種類については、より強じんな球状黒鉛鋳鉄あるいはCV鋳鉄に移行する傾向にあります。 従って現在は、中間的な性質を持ち、鋳造性も良好なFC200、FC250クラスの種類が生産の主流を占めています。

1.3 黒鉛の形状と分布

今まで記述してきたとおり、鋳鉄の性質には黒鉛の存在が大きく影響を与えています。例えば鋳鉄が凝固した時に析出する黒鉛の形状は強度に大きく影響を与えます。
同じ種類であっても、冷却速度により黒鉛の形状が変わると強度は大きく変化します。徐冷すると 黒鉛が粗大化して鋳鉄の強度は低下します。一方急冷すると黒鉛は微細化するので強度は上昇します。 2項でも既述したように、鋳物の冷却速度を変える要因としては肉厚が考えられます。そのため、JISでは黒鉛量の比較的多いHS150以下の種類については、肉厚に応じて供試材の直径を変えた場合の、それぞれの合格値を規定しています。

この肉厚により、黒鉛の形状が変わることを肉厚感受性といいます。ねずみ鋳鉄は肉厚感受性が高い材料です。2項で出てきた白鋳鉄は、肉厚が薄い状態で凝固して、局部的に黒鉛の晶出が無く、鉄と炭素の化合物であるセメンタイト(Fe3C)が晶出してできたものです。これを白銑化(チル化)といいます。硬さは極めて硬く、ブリネル硬さでHB500位に達します。この部分を切削加工すると刃具を痛めてしまいます。溶解時の成分調整に十分注意を払うなど、適切な溶解作業を行うことが望まれます。

また、黒鉛の大きさが不揃いで、分布が不均等になることがあります(図2.8.4)。このような組織の鋳鉄は強度が低下し、規格に合格しません。この場合も、溶解作業に問題があったことに起因します。

図2.8.4_ねずみ鋳鉄の異常組織

図2.8.4_ねずみ鋳鉄の異常組織

 

1.4 ねずみ鋳鉄の基地

ねずみ鋳鉄の基地組織で、もっともは機械的性質が優れているのはパーライト組織です。ですが溶解条件を適切にしないと、3項で述べた白鋳鉄になったりしますが、同じねずみ鋳鉄の分類でも、C,Siの含有量が多い場合や、冷却速度が遅くなる場合は、パーライトの一部または全部がフェライト化します。

これは、凝固時にパーライト中のセメンタイト(Fe3C)が分解して、Feと黒鉛とになりパーライトが消失する現象です。分解したFeはα固溶体となり、黒鉛はすでに析出している黒鉛に合体します。このα固溶体を通常はフェライトと呼びます。従って、このような状態の基地の鋳鉄をフェライト鋳鉄と呼びます。 また、条件によっては黒鉛の周囲だけがフェライトになりパーライトも残存する場合もあります。フェライト化した鋳鉄は強度が低下するので、機械的な性質を重要視する場合は要注意です。

そもそも、ねずみ鋳鉄の組織は、Fe-Fe3C系およびFe-C(黒鉛)系の2つの状態図を重ねた図2.8.5の複平衡状態図によって説明されます。

図2.8.5_Fe-C,Fe-Fe3C系複平衡状態図

図2.8.5_Fe-C,Fe-Fe3C系複平衡状態図

図2.8.5で、破線で示されるFe-C系を安定系、実線で示されるFe3C-C系を準安定系といいます。 ねずみ鋳鉄の凝固過程で、パーライトが晶出する過程は次のように説明されます。

図2.8.6_ねずみ鋳鉄の凝固過程

図2.8.6_ねずみ鋳鉄の凝固過程

凝固過程を、図2.8.6に示します。
まず、亜共晶鋳鉄について記述します。溶湯温度が低下してBC’線以下になるとγ固溶体を晶出します。このとき黒鉛も少量晶出します(図1-a)。共晶温度であるE’C’F’に達すると、γ固溶体と黒鉛とが同時に細胞状に晶出しはじめます(図1-b)。これを共晶細胞(eutectic cell)といいます。共晶反応が終了するとγ固溶体と黒鉛のみの組織となり、液相は消失します(図1-c)。このときのγ固溶体は、Fe-Fe3C系準安定系平衡状態図に従って、A1変態を起こしてパーライトになります。
過共晶鋳鉄の場合は、C’D’線まで溶湯温度が低下するとFe-C系安定系平衡状態図に従って黒鉛を析出しはじめます。温度が降下するにしたがって黒鉛は大きく成長します(図2-a)。この黒鉛を、キッシュ黒鉛(kish graphite)といいます。共晶温度E’C’F’に達すると、ɤ固溶体と黒鉛とが同時に晶出しはじめ、共晶細胞を晶出します(図2-b)。この場合も、ɤ固溶体は共析反応を起こしてパーライト組織になります。共晶細胞は、試料表面を鏡面仕上げして、ナイタール液やStead試薬で腐食することにより観察することができます。共晶細胞の大きさは、直径が0.5~3mm程度です(図2.8.7)。

図2.8.7_共晶細胞の例

図2.8.7_共晶細胞の例

 

1.5 ねずみ鋳鉄の組成

2項で示したように、C,Si含有量や冷却速度などの条件により、ねずみ鋳鉄の性質は広範囲に変化します。 この変化を生じる基本的な要因はCやSi含有量の割合などの組成です。 炭素(C)の割合は、実用上の鋳鉄は、2.0~4.5%の範囲にありますが、機械部品として需要の多いFC200やFC250のC量は、3.0~3.5%程度です。Si量はおおよそ1.0~2.5%の範囲ですが、この中間の1.5~2.0%程度が一般的です。また、C量とSiの兼ね合いを鋳物の肉厚でいえば、炭素当量(CE=C+1/3Si)%を調整する方法も採用されます。FC200やFC250では、CE=3.8~4.0%が適当です。さらに薄肉鋳物ではSiを多めにするように調整します。

次に、Mnの影響とを考えます。Mnは基地組織をパーライト化するのを助ける成分です。また、Mnの大部分はSiと同様にFe中に固溶されますが、一部やSと化合してMnSになります。このMnSは粒状で金属顕微鏡で観察することができます。

通常の鋼では、P,Sは有害元素となります。このうち、Pは硬さを増して湯流れを良くする傾向があります。ただし、その含有量が多すぎると引け巣の原因となる場合があります。Sは材質をもろくして、その健全性を著しく害します。

ここで注意すべきことは、ねずみ鋳鉄の性質がCやSi,Mnの成分量だけが確定する要因ではならず、溶解条件も絡んでいます。そのため、JIS規格では、各成分量が記載されていません。このことを考慮する必要がありません。

 

2. 球状黒鉛鋳鉄

球状黒鉛鋳鉄は、黒鉛を晶出するという点では、ねずみ鋳鉄と同じような種別と考えられます。黒鉛の形状がその名の示す通り、球状となるところにその組織上の特徴があります。黒鉛が球状となって分散することにより、力を加えた場合、ねずみ鋳鉄のような片状黒鉛の場合は黒鉛の端部が切欠きになって強さが弱くなります。球状黒鉛鋳鉄では、基地の強度が生かされて強靭性の高い材料が得られます。 それが、ねずみ鋳鉄をつくる工程に、特定の元素を付加する工程の追加で出現することは画期的なことで、鋳物の使用範囲を大きく広めるものになりました。

球状黒鉛鋳鉄は、1947年英国のモロー(H.Morrogh)氏が、鋳鉄の溶湯にセリウム(Ce)を添加すると黒鉛が球状化することを発見しました。それとは独立に、1948年米国のガグネビン(A. P. Gagnebin)氏などが、マグネシウム(Mg)の添加によって黒鉛が球状化することを発見しました。現在では、Mgの方がCeより球状化能が高いことから、Mg添加法が広く普及しています。 球状黒鉛鋳鉄の普及により、FC300,FC350の、高強度ねずみの多くがこれに置き換えられました。さらには従来は鍛造品が適用された分野にもその用途を広げました。

2.1 強靭性と組織

JIS規格では、FCD350~FCD800まで、50刻みに15種類あります(表2.8.8,表2.8.9)。

図2.8.8_FCD_別鋳込み供試材の機械的性質

図2.8.9_FCD_本体付供試材の機械的性質

球状黒鉛鋳鉄は、黒鉛が球状になっているので、普通鋳鉄の片状黒鉛と比較して、切欠き作用が著しく減少します。素地のフェライトやパーライトの性能が十分発揮されます。そのため、普通鋳鉄と比較すると、著しく強靭で、高温特性に優れています。

具体的に見ていきましょう。 これらの表で、伸びは、引張試験片に荷重をかけて破断するまでに伸びた長さの元の長さに対する比です。ねずみ鋳鉄の場合は、伸びは規格には示されませんが、おおよそ1%程度です。 引張強さと伸びとは相反関係にありますが、引張強さの一番大きいFCD600-3Aでも1%以上の伸びが規定されています。ねずみ鋳鉄の置き換えの対象となる若い番号(FCD350)では22%以上の伸びが得られており、強じん性が極めて高いことがわかります。 強じん性が、規格に示されるように広範囲に変化する理由は、主として基地組織の違いによります。

じん性の高いFCD350,FCD400のクラスはフェライト地、FCD450,FCD500,FCD600のクラスはフェライトとパーライトとが混合した地、FCD700ではパーライト地、およびFCD800クラスは、パーライト地もしくは焼き戻し組織と規定されています。

鋳造品として、よく製作されるのは、FCD400~FCD500の種類です。図2.8.10にFCD450の組織を示します。球状黒鉛鋳鉄の場合、図のようにフェライトは球状黒鉛の周りを囲んでいます。これをブルスアイ(bull’s eye;雄牛の目)組織と呼びます。 [図2.8.10] なお、この鋳物種別のFCDのDは延性があるという意味のductileの頭文字を取っています。

図2.8.10_球状黒鉛鋳鉄(FCD450 )の組織

図2.8.10_球状黒鉛鋳鉄(FCD450 )の組織

2.2 FCDの組成と製造方法

本項では、FCDの成分組成と製造方法について示します。 まず、黒鉛を球状化するために必要なMgをどの程度添加するかを考える必要があります。FCDの場合、Mgの含有量は0.05%程度で球状化するのですが、添加の際気化したり酸化したりして消耗するため、大目に添加します。 Mg処理後、フェロシリコン(Fe-Si合金)を0.2~0.3%程度添加します。この操作は接種といいます。

これにより、黒鉛の球状化がより確実になり、チル化も防止します。 一方、硫黄(S)は、球状化阻害元素ですので、極力抑えるよう処置を行います。キュポラ溶解の場合は、原材料中のSを除去する必要があるのでカルシウム・カーバイド(CaC2)を添加して脱硫処理を行います。電気炉溶解の場合は、原料地金中のSは高くないのですが、脱硫処理を行う方が安全側になります。 Mnは、パーライトを安定させるので、基地組織をどのようにするかによって含有量を決めます。フェライト地を要求される場合は低Mnの銑鉄を使用することになりますが、実際はMnを普通量含有する鉄くずを配合するので、Mn含有量の低い溶湯を得るのが難しい場合もあります。対策としては、焼きなまし処理を行います。

C,Siの量は、材質に大きな影響は与えません。FC200クラスのねずみ鋳鉄に含まれるよりは多めにします。少なすぎるとチル化しやすくなります。逆に多すぎると、黒鉛が凝集して浮き上がり、これにMnやFeの酸化物が付着して、ドロスと呼ばれる塊が発生します。これを巻き込むと鋳造欠陥を生じます。 一般には、C=3.6~3.9%、Si=2.0~3.0%の範囲とします。炭素当量(CE)に換算して4.1~4.4%で、亜共晶組織の領域から過共晶組織になったところを狙うようにします。

球状黒鉛鋳鉄の製造に関しての注意点があります。フェイディング(fading)と呼ばれる現象で、一旦球状化処理をした溶湯を放置すると、球状化が減退する現象です。従って、球状化処理後の溶湯は速やかに鋳込まねばなりません。フェイディングが現れるまでの時間は20分程度といわれています。 このため、球状化黒鉛鋳鉄で、大型の鋳物を鋳造する場合は工夫が必要です。

 

3. CV鋳鉄(compacted vermicular)

CV鋳鉄の始まりは、球状黒鉛鋳鉄を製造する際、黒鉛の球状化が不完全で形の崩れた黒鉛が晶出したものの特性が、ねずみ鋳鉄と球状黒鉛鋳鉄との中間の性質をもっていることがわかったからです。当初は不良品として廃却されていました。 CV鋳鉄の黒鉛の形状は、片状黒鉛と球状黒鉛の中間的な芋虫状をしています。その性質を調べてみると 、引張強さは400N/mm2程度ありますし、伸びも2%程度あり、強じん性はねずみ鋳鉄より優れています。また、肉厚感受性が鈍感で、厚肉部の黒鉛があまり粗大化しません。さらに凝固形式がねずみ鋳鉄と類似していて、引け巣発生の恐れがありません。図2.8.11に組織の写真を示します。名称のCVの内、V(vermicular)は、蠕虫(ヒルやミミズ類)を表す言葉で、黒鉛形状から名づけられています。

図2.8.11_CV鋳鉄の組織図

図2.8.11_CV鋳鉄の組織図

このような特性から、この鋳鉄を積極的に生産するようになりました。適用例として、自動車の排気系部品、シリンダヘッドやシリンダブロックが挙げられます。CV鋳鉄は高い熱伝導率を持つため、ヘッド下の温度の上昇がある程度までに抑えられる点、剛性の高さと良好な減衰能から振動を抑えることができる点などがあげられます。 ISO規格等には以前から制定されていたのですが、国内では長く各メーカの規格で運用されてきました。

2013年に、「JIS G 5505 CV黒鉛鋳鉄品」として、JIS規格に制定されました。
 

3.1 CV鋳鉄の長所

CV鋳鉄は、ねずみ鋳鉄と球状化黒鉛鋳鉄との中間的な位置づけで使用されています。これらの特性を比較を、表2.8.12に示します。

図2.8.11_鋳鉄の違いと比較

CV鋳鉄の長所をねずみ鋳鉄と球状黒鉛鋳鉄との比較で示します。

ねずみ鋳鉄と比較して、
①引張強度、耐力などの強度が強くなります。
②剛性が強くなります。

球状黒鉛鋳鉄と比較して、
①コストダウンになります。
②切削性が良好になります。
③熱伝導率が大きくなります。

3.2 CV鋳鉄の規格

CV鋳鉄は、球状黒鉛鋳鉄と同様、機械的強度を測定する為のサンプルは、別鋳込みと、本体付きとによって異なる規格値が存在します(表2.8.13,表2.8.14)。

表2.8.13_CV黒鉛鋳鉄品_別鋳込み供試材の機械的性質

表2.8.14_CV黒鉛鋳鉄品_本体付供試材の機械的性質f%e6%a2%b0%e7%9a%84%e6%80%a7%e8%b3%aa

ただし、これらのサンプルはあくまでサンプルであり、実際のCV鋳鉄の物理的性質、機械的性質を正確に反映したものではないと注記されています。ただし、本体付きサンプルによるものの方が、別鋳込みのサンプルよりも実際の鋳鉄に近い値となるといわれています。

3.3 CV鋳鉄の製造方法

CV鋳鉄の製造方法は、一般的にはMgを添加して完全な球状化黒鉛を生成する溶湯に、低硫黄の溶湯を加えて、Mg量を薄めて、不十分な球状化処理を施す方法です。この方法は、球状化処理を施した溶湯に、球状化阻害元素(S)を少量加える方法より、安定的に黒鉛が晶出します。

 

 


 

まとめ

・現在よく使われている普通鋳鉄は、ねずみ鋳鉄(片状黒鉛鋳鉄)、及び球状黒鉛鋳鉄、CV鋳鉄の3種類があります。
・この他、古くから用いられていた可鍛鋳鉄(FCMB,FCMW)がありますが、低圧鋳造管継手に使われるぐらいで、現在では熱処理が容易で、可鍛性を持つ球状黒鉛鋳鉄にほとんど置き換わっています。
・CV鋳鉄は、ねずみ鋳鉄と球状黒鉛鋳鉄との、おおよそ中間の性質を持っています。自動車関係に多く使用されているようです。

 

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参考文献
若い技術者のための機械・金属材料 第1版
鋳物のおはなし

 

引用文献
図2.8.1_鋳鉄の組織に対する、C,Si含有量と肉厚_冷却速度の影響  参照:若い技術者のための機械・金属材料 第1版
図2.8.2_鋳鉄の組織図    若い技術者のための機械・金属材料 第1版
表2.8.3_ねずみ鋳鉄の機械的性質    JIS規格                
図2.8.4_ねずみ鋳鉄の異常組織    鋳物のおはなし  日本規格協会
図2.8.5_Fe-C,Fe-Fe3C系複平衡状態図    若い技術者のための機械・金属材料 第1版
図2.8.6_ねずみ鋳鉄の凝固過程    若い技術者のための機械・金属材料 第1版
図2.8.7_共晶細胞の例     https://journals.bg.agh.edu.pl/METALLURGY/2005-01/metalur02.pdf
表2.8.8_FCD_別鋳込み供試材の機械的性質   JIS規格
表2.8.9_FCD_本体付供試材の機械的性質   JIS規格
図2.8.10_FCD450組織図   日本特許公開番号PAT2015-010255
図2.8.11_CV鋳鉄の組織図  https://www.castironcastings.com/compacted-graphite-iron.html
図2.8.12_鋳鉄の違いと比較   https://www.toishi.info/sozai/cv_fcv/index.html
表2.8.13_CV黒鉛鋳鉄_別鋳込み供試材の機械的性質   JIS規格
表2.8.14_CV黒鉛鋳鉄_本体付供試材の機械的性質   JIS規格