固体の摩擦係数 ものづくり、ひとづくり

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1.摩擦と摩擦力

摩擦(friction)とは、接触する2つの面が相対運動しようとするとき、または相対運動しているときに、接触していることが原因となって、相対運動を妨げる力が生じる現象をいいます。そして、その力を摩擦力(friction force)といいます。

2つの固体間の摩擦については、相対運動の仕方により滑り摩擦(sliding friction)と転がり摩擦(rolling friction)に分類されます。通常は、単に摩擦といえば、滑り摩擦を指す場合が多いです。

2.滑り摩擦の基本的な性質

摩擦の分野では潤滑(lubrication)や摩耗(wear)などの影響を含めた、摩擦に関係する色々な現象を広く考慮したトライボロジー(tribology)と呼ばれる学問がありますが、このコンテンツでは摩擦係数に関係する主に機械力学に関連する部分でのお話に限定します。

2.1 摩擦の法則

摩擦に関しては、以下に示す経験則が広く知られています。
(1)摩擦力は垂直荷重に比例する。
(2)摩擦力は見かけの接触面積には無関係である。
(3)運動摩擦の摩擦力(kinetic friction force)は、滑り速度に無関係である。
(4)静摩擦力(static friction force)は運動摩擦力よりも大きい。

これらは。アモントン・クーロンの法則(Ammonton-Coulomb’s law of friction)とよばれています。これらのうち、(1)と(2)とはアモントンの法則(Amonton’s law)ともよばれます。

friction foece

図1 滑り摩擦の関係

図1に、2つの物体が接触して相対運動(静止状態も含む)をしている状態を示します。物体1には、接触面と垂直方向に垂直抗力\(P\)と、接触面に平行な力\(F\)が加わっていると考えます。物体1が加速されていなければ、相対運動に対抗する力として、\(F\)と同じ大きさで向きが反対の摩擦力\(F’\)が、物体1に作用します。2つの物体の間に相対運動がある場合の摩擦力は動摩擦力で、静止状態の摩擦力が静摩擦力となります。\(F\)を静止状態で徐々に大きくしていった場合に、物体1が滑り始める直前の静摩擦力の最大値が最大静摩擦力(限界静摩擦力ともいいます)になります。

摩擦の法則(1)を、動摩擦に摘要すれば、動摩擦係数(coefficient of kinetic friction)\(\mu_{k}\) を用いて、

\(F’=\mu_{k}P\)   (ⅰ)
という形で表現されます。(2)の法則は、\(\mu_{k}\)が定数であることを意味しています。この\(\mu_{k}\)が一定である摩擦をクローン摩擦(Coulomb’s friction)といいます。
ここで、注意しなくてはいけないのは、摩擦の法則はあくまでも経験則であり、限定された条件で近似的に成立する法則です。2つの物体の間に潤滑作用が無い乾燥摩擦(dry friction)については、極端に速度が小さい場合や大きい場合、面圧が極端に大きい場合や極端に小さい場合を除くと、ほぼクローン摩擦が成立します。また、わずかに潤滑効果がある境界摩擦(boundary friction)についても、近似的に成立する場合がほとんどです。
法則(4)に示す、静摩擦力は最大静摩擦力を意味しています。最大静摩擦力については、動摩擦力の場合と同様に、静摩擦係数(Coefficient of static friction)\(\mu_{s}\) を用いて、

\(F’=\mu_{s}P\)  (ⅱ)

という形で表現されます。ここで、滑り始めるまでの静摩擦力は\(\mu_{s}P\) 以下の値で\(F’\)と釣り合っています。

2.2 摩擦係数(Coefficient of friction)

前項で示したように、摩擦係数\(\mu\) を用いると、摩擦を含む系の力の釣合い状態を簡単に表現することができます。摩擦係数は、接触する2つの面の材質のみにより決まるものではありません。潤滑の有無や、潤滑剤の種類、接触表面の微視的な形状、温度、速度などによって変化します。特に、潤滑の有無は摩擦係数に大きく影響します。
metal friction factor

friction factor of non-metal

無潤滑摩擦は、通常、乾燥摩擦と呼ばれます。空気中で表面に汚れの少ない表面どうしの摩擦を多くの場合さします。大気中の金属材料の表面は,通常は酸化膜などで覆われています。この場合の乾燥摩擦下での金属どうしの摩擦係数は、材料の組合せによってあまり大きく変化せず、0.5前後のものが多いです。例として,鉄と各種純物質との組合せによる摩擦係数の測定例を表1に示します。各種の非金属材料を無潤滑軸受として用いた場合の摩擦係数を表2に示します。

friction vs speed

図2 摩擦係数の速度依存

乾燥摩擦では、静摩擦係数は一般的に動摩擦係数よりも大きいですが、接触面の相対速度が静止状態から徐々に大きくなる過程では、図2のように低速度領域で徐々に摩擦係数が低下して、一定の動摩擦係数に落ち着きます。
同じ無潤滑でも、真空中や還元性ガス中での表面膜を除去した状態での鉄と各種純物質との摩擦を清浄面の摩擦といいます。清浄面の摩擦は特異な挙動を示し、乾燥摩擦と比較して摩擦係数は極めて高く、摩擦係数が100以上になる場合もあります。

 

 

参考文献
機械工学便覧 第6版  α02-04章

 

引用図表
図1 滑り摩擦の関係  機械工学便覧追加
図2 摩擦係数の速度依存  機械工学便覧
表1 鉄と各種物質の摩擦係数(乾燥摩擦) 機械工学便覧
表2 各種非金属材料の摩擦係数   機械工学便覧

 

REV:2020/1/23
ORG:2015/4/11