Oリングの損傷事例(O-Ring Failure Modes)

Oリングの損傷事例(O-Ring Failure Modes)

Oリングは、設計条件の不適切や組付け時の人為的なミスなどの影響を受けやすい密封要素です。

このコンテンツでは、主要なOリングの損傷事例とその原因と是正対策を示します。一般的なモードでないものについても順次追加する予定です。

 

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1. Oリングが早期に破損する理由

使用中のOリングの早い段階での損傷は、通常の場合単一の原因で起きるのではなく、複数の原因の組合せによることが多いです。シール破損に至る要因を減らすことにより、その寿命と信頼性を最大にすることが重要です。
優れた設計、適切なエラストマー材質の選定、組立作業者の教育訓練が必要です。

1.1 へたり(Compression Set)

Oリングによるシールのためにはその表面に連続した「密閉線」を必要とします。シールを完全にするためにはつぶし代を適正に設計しなければなりません。Oリングの圧縮永久ひずみに影響する要因についてを以下に示します。へたりの例を図1に示します。

[図1]

へたりについて
故障解析
一般にへたりは以下の条件の1つ以上当てはまると引き起こされます。
1.圧縮永久ひずみの特性に劣ったOリングのエラストマーの選択
2.不適切なOリング溝の設計
3.温度がエラストマーの許容温度を超える条件で、Oリングが硬化し、弾性が失われます。(高温は、使用流体や、外部の雰囲気温度、摩擦熱の蓄積などによって、引き起こされる可能性があります。
4.使用流体によるOリングの膨潤
5.適正な設計値を超える過度の締付け
6. 製造工程でOリング材料の加硫不良による不完全な硬化
7.Oリング材質に対して不適切な密閉流体

予防と対策
1.使用条件に適合するOリング材質の選択
2.システムの動作温度をできるだけ下げる
3.シール表面での摩擦熱が蓄積しないようにする
4.(国産ではあまりありませんが)入荷されたOリングが要求物理特性を満足していること

へたりの識別
Oリングの断面形状が溝の形状にならって変形

1.2 はみ出し(Extrusion and Nibbling)

過度の高圧を受ける場合や、溝の隙間が大きい場合に発生します。また、油圧ロッドやピストンシールなど運動用の用途ではシール破損の主要因です。
はみ出しに対する故障解析と予防対策について以下に示します。また、図2にはみ出しの例を示します。

[図2]はみ出し

はみ出し
故障解析
一般にはみ出しは以下の条件の1つ以上当てはまると引き起こされます。
1.クリアランス(隙間)が広すぎる
2. システムの設計圧を超える高圧
3.Oリングの材質が軟らかすぎる
4.エラストマーの材質に適合しない流体によるOリングの劣化(膨潤、軟化、収縮、ひび割れなど)
5.偏心による不均一な隙間
6.高すぎるシステム圧力による隙間の増加
7.Oリング溝の加工不良(シャープエッジ)
8.Oリングのサイズが大きすぎて、Oリング溝に対して過剰充填になっている。

予防と対策
1.加工公差を小さくして、隙間を減らす。
2.バックアップリングを用いる。
3.Oリング材質が密封流体の影響を受けないことを確認する。
4.Oリング溝が変形しないように強固に製作する。
5.よりゴム硬度の硬いOリングの使用
6.Oリング溝コーナーのシャープエッジを殺す(R0.1以上)
7.適切なサイズのOリングの選定
8.ピストンロッドなどの運動用に使用する場合、バックアップリング付きのT-sealなどを選定する。

はみ出しの識別
Oリング溝の低圧側または下流側のOリングの外周面が大根の桂剥きのように縁が噛んではみ出していたりあるいは欠けたような外観を示す場合。
場合によっては、致命的な漏えいに至るまでにOリングの50%以上が失われている場合があります。

1.3 ねじれ( Spiral Failure)

Oリングのねじれは、長ストローク油圧ピストンシールではしばしば見受けられる現象です。ロッドシールの場合はそれほどではありません。
この破損は、Oリングがその外径の一点で固着して、同時に摺動面が動いてOリングが転がる場合に発生します。シール対象の動きにより生じたOリングのねじれです。何回も繰り返されることにより、最終的にはOリングの表面に不快らせん状の切れ目(通常は45°です)が発生します(図3)。

[図3]

ねじれ
故障解析
1.偏心運動
2.横方向荷重が負荷された状態での過剰な隙間
3.摺動面の粗さが不均一
4.潤滑が不十分、または不適切
5.Oリングの硬さが低すぎる。
6.ストローク速度に問題がある(通常は遅すぎる)。
7.装着状態が不適切(ねじれて装着)。

予防と対策
1.摺動面(シリンダボア、ピストンロッドなど)の表面仕上げを改善する。
2.真円度が出ていない部品をチェックする(例えばシリンダボア)。
3.適切な潤滑(内部潤滑Oリングの検討)。
4.Oリングの硬さを硬いものに置き換える。
5.違う形状のシールを検討する(例えばリップパッキン)。

ねじれの識別
図3に典型的なねじれの状態を示します。

1.4 圧縮割れ

システム圧力が高くなるにつれて、このタイプのOリング破損の頻度が増えています。高圧ガス下での
使用した後、急激に減圧されると、Oリングの内部構造に閉じ込められていたガスが急激に膨張して、Oリング表面に小さな破裂やブリスターが発生します。図4に、爆発的減圧により損傷したOリングを示します。

[図4]
圧縮割れ
故障解析
爆発的減圧は、エラストマーの内部構造に閉じ込められたガスによって引き起こされます。システム圧力が急激に低下すると、閉じ込められていたガスが同じ圧力まで低下します。その際膨張することによりシール表面にブリスターや破裂を生じさせます。閉じ込められたガスが多い場合はシールを完全に破壊する可能性があります。

予防と対策
1.エラストマー内部に閉じ込められたガスがシール材から移動するための減圧時間を長く取る。
2.減圧に耐えるエラストマー材料を選択。
3.圧力が非常に高い場合、金属Oリングを検討する。

爆発的減圧の識別
爆発的減圧を受けたOリングは、その表面に小さなビットやブリスターを示すことが多いです。Oリングの内部に割れ目がある場合もあります。

1.5 摩耗

摩耗は、通常運動用シールでのみ発生します。往復運動や揺動、回転などを含みます。
図5に例を示します。

[図5]

摩耗
故障解析
1.Oリングが摺動する面の不適切な仕上げ。表面仕上げの程度は、粗すぎる場合も、滑らか過ぎて潤滑剤が保持できない場合も摩耗します。
2.密封流体による潤滑が不適切
3.高温
4.ゴミや金属片などのコンタミナントによる密封流体の汚染

予防と対策
1.適切な表面仕上げ
2.適切な密封流体を使用して適切な潤滑を行う。
3.摩擦と摩耗の低減のため、内部潤滑Oリングの使用を検討する。
4.密封流体の汚染度をチェックして汚染源を除去する。必要に応じてフィルターを付ける。
5.耐摩耗性を改善したOリング材料に変更する。

1.6 膨潤

膨潤は、エラストマーの材質が密封流体に対して適切でない場合に発生します。全体に柔らかくてブヨブヨに膨らんでいる感じがします。
図6に例を示します。

[図6]

膨潤
故障解析
1.シールの対象となる密封流体に対する耐油性や耐薬品性が低い。
2.機器を軽油やガソリンで洗浄した後、それらが残り、エラストマー材を攻撃する。

予防と対策
1.密封流体に対して適正なエラストマー材料の見直し
2.洗浄剤を完全に除去する。

膨潤の識別
溝内で破裂したり、柔らかくブヨブヨしているなどの状態になっています。

1.7 オゾン劣化

Oリングの表面全体に細かいき裂が発生して、ひび割れたようになっています。応力(ひずみ)がかかっている方向に対して、垂直方向に亀裂が走ります。図7に例を示します。

[図7]

オゾン劣化
故障解析
1.ゴムとオゾンとが反応して、エラストマーの分子構造中の二重結合を切り離して、オゾンクラックが発生します。
2.オゾン発生個所や空気に直接触れる環境に対して、耐候性が低くなります。
3.湿度の高い環境では、オゾン吸収量と劣化の進行速度は高くなるとされています。
4.応力がかかる状況では劣化に密接にかかわります。

予防と対策
1.二重結合が少ないOリング材質を変更する。
2.Oリング表面に、グリースやワックスで薄い被膜をつくり保護する。
3.保管時に、伸びが極力発生しないように保管する。
4.湿度やオゾン濃度が高い場所での保管・使用を避ける。高圧電流の側や、クリーンルームなどのオゾン発生装置付近や、直射日光の当たる場所を避けて保管・使用する。

オゾン劣化の識別
Oリング表面全体に細かいき裂が生じている。

1.8 装着時の破損

Oリングの破損については、不適切な装着が大きな要因を占めています。Oリングは単純な円形断面ですが、設置や使用状態でいろいろなケアを必要とする精密機器です。

装着時の破損
故障解析
装着時にOリングにダメージを与える可能性がある例を示します。
1.Oリングを組み込む際の、Oリングの溝やねじ山などの鋭利なコーナー
2.面取りが不十分な挿入の導入部
3.外部から視認できないOリング溝
4.ピストン用のOリングでオーバサイズを使用。
5.ロッドシールの場合に、アンダーサイズのOリングを使用
6.装着中にOリングがねじれたり挟まったりする。
7.装着時に潤滑剤を付けない。
8.汚れたOリングを装着する。
9.Oリング溝が汚染されていたり、装着時に通過する部位に金属粒子などのコンタミナントがある。
10.取り扱いの不注意

予防と対策
1.金属部品のシャープエッジの面取りをします。
2.装着部入口に20°のテーパを付ける。
3.各部品を洗浄する。
4.Oリングが通過するネジ部にテープを巻く。
5.清浄な油やゴミが混入されていないグリースなどをOリングに塗布する。
6. Oリングのサイズを組立前にもう一度確認する。
7.装着時は細心の注意を払う。

 

 

2.Oリングの表面欠陥の許容値(JIS 2408-2005)

Oリングの表面欠陥の許容値について、ISO/FDI3601-3に決められています。日本ではJIS B2408として規格化されています。概要を表8に示します。
Oリング等級Nは、一般産業用とのOリングに対する外観品質基準を示しています。等級Sは、安全に関与する車載部品など、外観欠陥の公差に対して、高品質が要求されるOリングに対する品質基準を示しています。

また、現在は廃止されましたが、Oリングの視覚的欠陥の許容限度を示す規格として、MIL-STD-413Cがあります。特にUSのメーカは、現在でもOリングの検査条件として使用されることがあるといわれています。

 

 

 

 

参考文献
Parker O-Ring Handbook ORD 5700
サクラシール株式会社HP https://www.sakura­seal.co.jp/category/1929201.html
華陽物産HP https://www.kayo­corp.co.jp/tech/trouble.html
JIS B2408-2005

 

引用図表
[図1a]  Parker O-Ring Handbook ORD 5700
[図1b]  サクラシール株式会社HP
[図2a]  Parker O-Ring Handbook ORD 5700
[図2b]  サクラシール株式会社HP
[図3a]  Parker O-Ring Handbook ORD 5700
[図3b]  サクラシール株式会社HP
[図4a]  Parker O-Ring Handbook ORD 5700
[図4b]  不明
[図4c]  不明
[図5a]  Parker O-Ring Handbook ORD 5700
[図5b]  サクラシール株式会社HP
[図6]   不明
[図7]   https://www.wikiwand.com/en/Ozone_cracking
[表8]   JIS B2408-2005改