オイルシールの密封機構

オイルシールの密封機構(Sealing mechanism of an Oil Seal)

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1.オイルシールの構造

オイルシールは、自動車などの車両や機械装置に組込まれて、静止時及び軸の作動中に流体を密封する役割があります。オイルシールが適用される軸は回転と往復動との2種類の動きが考えられますが、本稿では使用比率の大きい回転軸について密封メカニズムをまとめていきたいと考えます。

オイルシールが回転軸に取付けられた状態の基本構成を、図1に示します。密封はリップ部と嵌め合い部の2つの要素で行われます。嵌め合い部は、オイルシールをハウジング穴に固定するとともに、嵌合面からの流体の漏れ/侵入を防ぐ役割があります。リップ部は流体を密封する役割を持つシールリップ部と、外部からのダストの侵入を防ぐダストリップ部からなります。ダストの影響がない場合はダストリップが無い形式のオイルシールが適用されます。シールリップ部で実際に流体をシールする部分はリップ先端部のくさび状の断面形状を持つ部分で、この部分の角度が流体側と大気側とで異なることが流体を密封する原理になります。

また、それぞれの部位の役割を表2に示します。

図1 オイルシールの基本構成

表2 オイルシールの各部位の役割

 

2.オイルシールの潤滑特性

1項で示したように、オイルシールの密封作用は主としてリップ先端部で行われます。このリップ先端部の摩擦力が小さく、摩耗が少ないことがオイルシールの重要な特性の一つです。

オイルシールの寿命に影響を与えるリップ摺動面の潤滑特性について検討します。オイルシールの潤滑状態を把握するためには、リップ摺動面の摩擦特性を評価することが重要です。

オイルシールの摺動部に密封対象液が十分に供給され、軸の回転も滑らかで偏心もほとんどない状態で、環境温度も過度に高くない、一般的な使用状態では、オイルシール摺動部の潤滑状態は、流体潤滑が支配的と考えられます。

摩擦係数をfとして、無次元特性数G(=μub/Pr)で、各種運転条件について整理すると、図3のグラフに示す摩擦特性が得られます。

図3 オイルシールの摩擦特性

現象的に

     (式1)

の関係があります。

ここで、

また、同一設計、同一材料のオイルシールについてのfG関係のプロットの存在領域は、密封、漏れによって異なり、その境界に密封限界値Φcがあることが示されます(図4)。

図4 オイルシールの密封限界値

 

3.オイルシールの密封機構

オイルシールの密封機構については、シールリップ摺動面の変形により発生する接触領域の接触圧力分布から得られる流体力学的なポンピング作用である説が有力です。

オイルシールは、シールリップ先端の軸に対する角度が、密封側をα、大気側をβとすると、α>βの関係が成り立つように設計されています。この関係は理論的根拠に基づいて決定されたものではなく、実績から得られたものです。

シールリップ摺動面が軸に押し付けられると、材料がエラストマーであることより、図5(a)に示すようにある幅を持って接触します。有限要素法により接触領域の接触圧力分布P(x)を計算すると、密封側にピークがある分布形状になります(図5(a))。リップ接触領域における回転方向の接線力f(x)の分布は、軸とシールリップとの摩擦係数をμとすると、

f(x)=μP(x)

となります、その結果、摺動面内の変形歪量の分布をg(x)とすると、

G(x)∝P(x)

となり、接触圧力分布と同じ形状の分布になります(図5(b))。これは摺動面上にねじ溝が形成された状態になります。変形歪量の最大値がオイルシールでは密封側にある場合は、大気側から密封流体側へのポンピング作用が卓越して、密封機能が発現することになります(図6)。

図5 接触圧力分布によって形成される摺動面の変形

図6 接触圧力分布によって形成される摺動面の変形

 

4.オイルシールの耐圧

オイルシールは、内部圧力が高くなると密封性能を維持できなくなります。オイルシールが共用できる圧力は軸周速が大きくなるにつれて低下します、また軸の振れ(軸振れと取付け偏心との和)が大きくなっても低下します。図7はJTEKTのカタログに示される、JIS タイプ1もしくはタイプ2に相当する形状のオイルシールについて、許容圧力と軸周速との関係を示したものです。

図7 許容圧力と軸周速との関係

耐圧性が必要な場合、シールリップ部および嵌め合い部を高い圧力に耐えられるように適正に設計する必要があります。

また、NOKのカタログによれば、耐圧シールの材料にはニトリルゴムとフッ素ゴムしか設定していないとのことです。耐圧シールのリップ材料は、高抗張力、耐摩耗性、低圧縮歪性が同時に要求され、これらに対応する材料はニトリルゴムとフッ素ゴムになります。アクリルゴムやシリコンゴムはこれらの条件を同時に満たすことは出来ません。

 

5.オイルシールの密封側圧力によるリップの変形

オイルシールは、密封側圧力が増加するにつれて、変形して寿命が大幅に減少します。その様子がSKFのCR(Chicago Rawhide)のオイルシールカタログに示されています(図8)。

図8 密封側圧力によるシールリップの変形と寿命の例

 

追記:2020/1/27

6.密封機構の例外

オイルシールについて、日本のNOKの研究者が3項に示す密封機構について発見したと言われています。

管理人は、色々なメーカのカタログを見るのが好きなので、インターネットで色々なメーカの製品を見ています。たまたまインターネットでNOKがドイツのFreudenberg(フロイデンベルグ)というシールメーカと合弁しているのを見つけました。少し興味があったのでFreudenbergのカタログを見ていると、3項に示す密封機構では説明が難しいオイルシールが見つかりました(図9)。

一般的なオイルシールの断面(図10)と比較すると次の2点の差異があります

(1)シールリップの角度が、一般的なオイルシールでは大気側<密封側なのに対して、図9では密封側<大気側になっている。
(2)ガータばねのオフセット位置が、図10では大気側なのに対して、図9では密封側になっている。

図9のカタログを見ると、耐圧が10barまで行ける高圧用になっています。

変形ひずみ量の最大値が密封側になるようにうまく設計されているのではと思いますが、カタログではそのあたりがよくわかりません。
どなたか、この図9のシールの密封機構をご存じの方があったら是非教えてください。
(Froudenbergはドイツで大きなメーカのようです。)

図9 Freudenberg simmering type PPS

図10 一般的なオイルシールの構造

 

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参考文献
NOKオイルシールカタログ
CR Seals Handbook SKF
Koyoオイルシールカタログ  JTEKT
オイルシールの密封と摩擦と摩耗  河原由夫  日本ゴム協会誌 Vol.61 No.5 1988
密封装置(1)  石渡秀男,河原由夫  ターボ機械 Vol.3 No.5  1975
オイルシールの密封機構  中村研八  日本ゴム協会誌 Vol.62 No.2  1989
密封装置の変遷と最近のねじ付きシールの技術動向  荒木義文  Koyo Engineering Journal  No.167 2005
Freudenberg Seaking Technologies GmbH & Co. KG  Technical Manual

 

 

引用図表
図1 オイルシールの基本構成   NOKオイルシールカタログ改
表2 オイルシールの各部位の役割   NOKオイルシールカタログ改
図3 オイルシールの摩擦特性  ターボ機械 Vol.3 No.5
図4 オイルシールの密封限界値  ターボ機械 Vol.3 No.5
図5 接触圧力分布によって形成される摺動面の変形   日本ゴム協会誌 Vol.62 No.2
図6 接触圧力分布によって形成される摺動面の変形 CR Seals Handbook 改
図7 許容圧力と軸周速との関係  Koyoオイルシールカタログ
図8 密封側圧力によるシールリップの変形と寿命の例 CR Seals Handbook
図9 Freudenberg simmering catalogue Type PPS
図10 一般的なオイルシールの構造  機械設計Vol.42 No.3 1998年改

 

 

Add:2020/1/27
ORG:2019/4/30