水素の基礎物性

水素の基礎物性( Basic physical properties of hydrogen )

 

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1. 水素分子の性質

水素分子は、2個の原子が近接したときにそれぞれの原子核に束縛されていた電子が、2個の原子核から同時にクーロン力を受けます。原子核同士、電子同士のクーロン反発力と電子と原子核とのクーロン引力が釣り合った状態で安定します。クーロン力が釣り合う平衡核間距離は、0.07416 nm になります。

平衡核間距離における系の最小のポテンシャルエネルギーと、原子に解離した状態のエネルギーとの差が、水素エネルギー De = 458.11 kJmol-1 (0K)になり、零点エネルギーの寄与を含めると解離エネルギー D0 = 432.07 kJmol-1 (0K)になります。同位体の効果は、零点エネルギーのみにあらわれます。分子中の核の質量が増加すると零点エネルギーは減少します。

核スピンから生じる核磁気モーメントによる相互作用は小さいので、水素分子を形成しても各原子核の核スピンの方向は変わりません。したがって、二つの核のスピン関数が、対称あるいは反対称となる2種の水素分子が存在します。対称なスピン関数をもつ水素分子をオルト水素( ortho-hydrogen )、反対称なスピン関数をもつ水素分子をパラ水素( para-hydrogen )といいます(図1)。H2(軽水素同士)の場合、パラ水素の方が回転のエネルギーが低くなりますので、低温ではパラ水素の存在比が増加します。常温は、ボルツマン分布に従って、オルト水素・パラ水素の存在比は、3::1 になります。これをノルマル水素といいます。

H2(軽水素同士)の場合、液体水素の状態で熱平衡状態の温度であれば、パラ水素の存在比は90%になります。ただ、オルト水素からパラ水素への変換速度はゆっくりで、普通に冷却するとノルマル水素の状態で液化され、徐々に発熱しながら、オルト水素からパラ水素へ変化します。オルト水素からパラ水素への変換に伴うエンタルピー変化量(発熱量)は、1.406 kJmol-1であり、ノルマル水素の蒸発エンタルピーが0.904 lJmol-1と、オルト・パラ変換時の発熱量より小さいので、液化水素を貯蔵する前に、酸化鉄や酸化クロムなどの触媒を用いて、液化水素の貯蔵前に、オルト水素からパラ水素へ変換しておく必要があります。

表2に同位体からなる水素分子の物理化学的性質を示します。ここで示す性状は、常温でのオルト・パラ平衡の割合にある混合物です。

図1 オルト水素とパラ水素   ORIGINAL

表2同位体の水素分子の物理化学的性質   出典:機械工学便覧 第6版

 

 

2. 気体水素の性質

気体水素の定圧モル熱容量の温度依存性を図3に示します。直線状2原子分子が理想気体である場合の定圧熱容量は次式で与えられます。

\( C_{ p } = \displaystyle\frac{ 7 }{ 2 } nR + \left( \displaystyle\frac{ \partial U_{ vib } }{ \partial T } \right)_{ v } \)

ここで、nは物質量、Uvibは振動エネルギーです。

 

通常は、\( ( \partial U_{ vib } / \partial T )_{ v } \) の項は小さく、これを無視すると、直線状分子の低圧モル熱容量Cp,mは、

7R/2 = 29.10 JK-1mol-1であり、気体水素の常温・常圧( 298.15 K,101.3 kPa)における28.83 JK-1mol-1は理想気体の値に近くなります。しかし、高温では振動の寄与が大きくなり、熱容量値が増加します。

図3気体水素の定圧モル熱容量の温度依存性   出典:機械工学便覧 第6版

 

 

3. 固体水素、液体水素の性質

飽和蒸気圧下の固体水素・液体水素の定圧モル熱容量の温度依存性を 図4に示します。固体水素の結晶構造は低温側で六方最密充てんであり、4.5Kで相転移し面心立方充てんに変化します。固体水素は、数百万 ~ 1000万 atm の間で金属水素に変化し、常温に近い温度で超伝導を示すという理論的予測があります。

図4固体水素および液体水素の定圧モル熱容量の温度依存性  出典:機械工学便覧 第6版

 

 

4. 水素吸蔵合金

水素貯蔵・輸送に関連して、実用上重要な物質として水素吸蔵合金があります。水素吸蔵合金では、水素が結晶格子間に原子状水素として侵入して、金属水素化物を生成し、常温・常圧の水素は1/1000以下の体積に圧縮されます。表5に水素吸蔵合金の水素密度を液体水素や固体水素と比較して示しています。

表5 水素貯蔵合金の水素貯蔵量エネルギー密度   出典:機械工学便覧 第6版

 

 

参考文献
日本機械工学便覧 第6版

引用図表
図1 オルト水素とパラ水素   ORIGINAL
表2 同位体の水素分子の物理化学的性質   出典:機械工学便覧 第6版
図3 気体水素の定圧モル熱容量の温度依存性   出典:機械工学便覧 第6版
図4 固体水素および液体水素の定圧モル熱容量の温度依存性  出典:機械工学便覧 第6版
表5 水素貯蔵合金の水素貯蔵量エネルギー密度   出典:機械工学便覧 第6版

 

ORG:2023/09/26