全固体電池

全固体電池(All-Solid-State-Battery)

 

 

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1. 全固体電池とは

全固体電池は、リチウムイオン電池の一種です。リチウムイオン電池を含めて二次電池(充電して繰り返し使用が可能な電池)は、基本的に、固体である2つの電極(正極と負極)と、その間を満たす電解質によって構成されています。従来の二次電池は、電解質に液体が使われていますが、全固体電池は電解質として固体を用いるので、電池を構成するすべての部材が固体で構成される二次電池です。

通常のリチウムイオン電池と比較すると、安全性やエネルギー密度の向上が期待されます。

 

 

2. 全固体電池の原理

2.1全固体電池の原理

全固体電池の原理は、リチウムイオン電池と同じです。

放電時は、

(1)正極でリチウムイオンが放出される。
(2)放出されたリチウムイオンが固体電解質を介して負極に移動する。これにより、電流が発生します。
(3)負極でリチウムイオンが吸収される。

充電時には、この逆の過程が起こり、電気が貯められます。

 

2.2 全固体電池の構造

全固体電池は、従来のリチウムイオン電池の液体電解質を固体電解質に置き換えたものです。そのため、正極、負極、固体電解質の3つの部材から構成されます。正極、負極ともリチウムイオン電池と同様な材料が用いられます。なお、セパレータは必要ありません。

(1)正極(カソード)
正極は、リチウムイオンの受け皿となる材料です。代表的な材料としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)やリチウム鉄リン酸塩(LiFePO4)などが使用されます。

(2)負極
負極は、リチウムイオンを供給する材料です。代表的な材料としては、炭素やリン酸鉄リチウムなどが挙げられます。

(3)固体電解質(solid electrolyte)
固体電解質は、正極と負極をつなぐ役割を果たします。全固体電池は無機固体電解質が用いられます。
無機固体電解質は、酸化物系と硫化物系とが有ります。何れも熱⼒学的に安定した固体であり、リチウムイオンだけが移動する特徴があります。そのため副反応(劣化反応)が起こり難く、⾼信頼性と⻑寿命を発揮する事が可能であるため、不燃性による⾼い安全性も持ち合わせています。
酸化物系固体電解質は、安定性が⾼く半固体電池や⼩型のコンデンサ⽤途には実⽤化されていますが、電極が固いため固体同⼠の結合が困難で粒界抵抗が⾼い短所があります。
⼀⽅、硫化物系固体電解質は室温でも⾼いイオン伝導率を発揮しており、液体電解質と同等の性質を持つ材料がすでに開発されています。さらに硫化物系固体電解質は、液体電解質のような対アニオン移動がなく、リチウムイオンのみが伝導に寄与する理想的なシングルイオン伝導体であることを考慮すると、リチウムイオンの伝導度はすでに電解液を超えています。また硫化物系固体電解質は、広い電位域において電気化学的に安定であり、柔軟性や密着性も待ち合わせるため、成形も室温加圧のみで粒界抵抗を⼤幅に低減できるなど加⼯性に優れています。
そのため、全固体電池への適用は、硫化物系固体電解質の開発が優位になっています。

 

3. 全固体電池の種類

全固体電池は、製造方法によって「バルク型」と「薄膜型」に大きく分類されます。それぞれ蓄えられるエネルギーの量が異なります。バルク型は蓄えられるエネルギーの量が多く、主に電気自動車など大型の機器に使用することが想定されます。一方、薄膜型は蓄えられるエネルギーの量は少ないですが寿命が長いため、小型でセンサなど小さなデバイスへの使用がするのに向いています²。

図1にそれぞれの形式の半固体電池の構造を示します。また、表2にそれぞれの特徴を示します。

図1 全固体電池の種類   出典・参考:経済産業省製造産業局 2021年7月 資料2

表2全固体電池の特徴   出典・参考:MS&AD InterRisk Report No.21-022

 

 

4. 全固体電池の特徴

4.1 全固体電池の長所

全固体電池の長所としては以下のものが考えられます。反応式は、リチウムイオン電池と同様です。

(1)高い安全性
リチウムイオン電池は電解質として、有機溶剤系の電解液を使用しているため、液漏れ、発火や破裂などが生じるリスクがあります。
一方、全固体電池では固体電解質を使⽤するために、リチウムイオン電池と比較するとこれらの危険性が小さくなり、より高い安全性が期待されます。

(2)広い作動温度範囲
リチウムイオン電池は、作動温度範囲に制限があります。⾼温では電解液自体の分解や、セパレータの溶解・蒸発が起こり、低温では電解液の粘度が⾼くなることによる内部抵抗の上昇が起こります。そのため、電池としての作動範囲は狭くなります。一般的なリチウムイオン電池では、作動温度域は -20 ~ 60℃です。一方、全固体電池では固体電解質の安定性が⾼く、リチウムイオン電池のように⾼温や低温状態においても問題が⽣じません。一例として、-40 ~ 100℃ の動作温度範囲が報告されています。

(3)長寿命
リチウムイオン電池では、電解液内をリチウムイオンだけではなく、アニオンや溶媒分子も移動します。そのため純粋な電池作用のための化学反応以外に、アニオンの酸化や溶媒の電気化学的分解反応などの副反応が生じてしまいます。この副反応は劣化の原因になります。
⼀⽅、全固体電池では固体電解質のため、リチウムイオン以外の物質が電解質内を移動しません。そのため、リチウムイオン電池のような副反応が起こりにくく、結果として劣化の少ない安定な動作が可能であるとの特徴があります。

(4)液漏れが生じない
(1)と重複しますが、リチウムイオン電池では電解液を使⽤しているため、電池ケースなどに損傷があったりすると液漏れが発⽣してしまいますが、全固体電池では固体電解質のため、液漏れが発生しません。

(5)エネルギー密度の向上
固体電解質は、液体電解質よりも高いイオン伝導率を持ちます。このため、より多くの電荷を蓄えることができ、エネルギー密度が大幅に向上します。さらに、充電時間が大幅に短縮されます。

(6)形状の自由度が高い
液体電解質の場合には、液漏れを防ぐために必要な丈夫なケースが不要になるため、薄型、小型、や形状の自由度が大きくなります。

(7)充電時間が短い
リチウムイオンの移動方向が単純化でき、かつイオンの通り道が大きくなることより、充電時の内部抵抗を大幅に低減できるため、急速充電が可能になります。

(8)電極材料の自由度の高さ
液体電解質の場合、電極材料によっては溶出する場合がありますが、固体電解質は溶解の恐れは低減できますので、電極材料の自由度が高く、電池の高性能化に寄与する可能性があります。

 

4.2 全固体電池の課題

・大きな電極と電解質の界⾯抵抗
リチウムイオン電池と比較して、全固体電池は固体電解質のため、電極間のリチウムイオンの移動抵抗が⾼くなってしまいます。このため、電池として出⼒を上げにくい短所があります。

 

 

5. 全固体電池の用途

(1)広い使用温度範囲を活かした特殊環境対応電池
リチウムイオン電池のように、液体電解質の適用困難な環境下でも動作可能であることから、産業装置用途、宇宙用途、苛酷環境下での電源用途などへ適用できできます。

(2)高い安全性を活かした医療向け電池
液漏れ、発煙や、発火等の危険性がないため、安全性が要求される医療器具、医療機器などへの適用が可能になります。

(3)次世代自動車用電池
2023年夏に行われたトヨタの発表により、もっとも注目されているのがこの用途です。長寿命であること、高容量化が容易であることなどから、電気自動車への適用化が進められています。

 

参考文献
・MS&AD InterRisk Report No.21-022  “EVの普及と全固体電池の開発” 2022.03.30
・「次世代蓄電池・次世代モータの開発」プロジェクトに関する研究開発・社会実装の方向性  経済産業省製造産業局 2021年7月 資料2
・-バッテリー(電池)の種類-全固体電池とは  EV-tech.jp https://ev-tech.jp/technology/battery/page002_2.html
・全固体リチウムイオン電池(AS-LiB®)の開発  西浦崇介et al  Hitz技報Vol.79No.1 2018.1

 

引用図表
図1 全固体電池の種類   出典・参考:経済産業省製造産業局 2021年7月 資料2
表2全固体電池の特徴   出典・参考:MS&AD InterRisk Report No.21-022

 

ORG:2023/12/16