1.2 鋳造における湯流れと凝固

1.2 鋳造における湯流れと凝固

スポンサードリンク

 

1. 湯流れ(flow ability)

本項から以降は、溶融金属というタームを、鋳造現場用語である「湯」とあらわして、記述します(必ずしも出来ていませんが、その都度、わかりやすい方の文言を使用します)。 鋳型内での湯流れは、流動中に湯から鋳型への熱伝導により、湯の温度が低下して、凝固が始まり、鋳型を充満する前に流動を停止することがあります。この状態を湯回り不良(misrun)といいます。 また、鋳型やとりべなどとの化学反応によるガスの発生や、流動中のガスを巻き込むことにより、ピンホール(pin hole)や、吹かれ(blow hole,gas hole)などのガス欠陥を発生する場合があります。 これらの欠陥を防止するためには、湯を鋳型に導入する開口部である、湯口の設計(湯口方案)が、各鋳造メーカにより、ノウハウとして蓄積されています。
図1.2.1に、湯回り不良の原因である、溶融金属の流動停止の機構を、模式的に示します。
%e5%9b%b31-2-1_%e9%8b%b3%e5%9e%8b%e5%86%85%e3%81%ae%e6%ba%b6%e8%9e%8d%e9%87%91%e5%b1%9e%e3%81%ae%e6%b5%81%e5%8b%95%e5%81%9c%e6%ad%a2%e6%a9%9f%e6%a7%8b
(1)純金属(図1.2.1(a))は、凝固温度範囲がゼロであるので、鋳型の温度が低ければ、流入口付近で凝固が始まり流入口を閉止します。
(2)凝固温度範囲の広い合金(図1.2.1(c))では、流動の先端で固相が生成して、粘度が増大することで、行き止まり状態になり、流動が停止します。
(3)凝固温度範囲の狭い合金(図1.2.1(b))では、両者の中間の機構で流動が停止します。

何れの場合も、流動の停止は凝固により起こります。したがって流動性(fluidity)は鋳込温度(正確には、過熱度:鋳込温度と液相線温度TLとの差)に依存します。
また、図1.2.1に示すように、流動性は凝固機構の影響を強く受けるので、一般的には、純金属や共晶組成の合金(図1.2.2)は流動性がよい傾向にあります。さらに、伝熱の問題から凝固温度の低い合金ほど流動性はよくなります。
%e5%9b%b31-2-2_pb-sn%e5%90%88%e9%87%91%e3%81%ae%e6%b5%81%e5%8b%95%e6%80%a7%e3%81%ae%e7%b5%84%e6%88%90_%e6%b8%a9%e5%ba%a6%e4%be%9d%e5%ad%98

実際の湯流れの状態の観察例を、図1.2.3に示します。

%e5%9b%b31-2-3_%e6%b9%af%e5%8f%a3%e7%b3%bb%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e6%b9%af%e6%b5%81%e3%82%8c%e3%81%aex%e7%b7%9a%e8%a6%b3%e5%af%9f%e3%81%ae%e4%be%8b
凝固時間 鋳物が凝固する過程は、伝熱の問題としてとらえることができます。 凝固が終了するまでの全放熱量は、鋳物の体積(mm3)に比例します。また、放熱速度は鋳物の表面積(mm2)と鋳型の熱拡散率に比例します。

単純化すると、鋳物の凝固時間はその体積を表面積で除した値により決まります。この値をモジュラス[modulas(mm)]といいます。 単純に考えると、凝固時間は鋳物のモジュラス(形状)に比例します。正確には鋳型の種類によりおおよそ決まる鋳型の熱拡散率の影響もうけます。
図1.2.4は、各種の鋳型の鋳物の凝固時間とモジュラスとの関係を示しています。上記の考察が正しいことが読み取れます。

%e5%9b%b31-2-4_%e9%8b%b3%e7%89%a9%e3%81%ae%e5%87%9d%e5%9b%ba%e6%99%82%e9%96%93%e3%81%a8%e3%83%a2%e3%82%b8%e3%83%a5%e3%83%a9%e3%82%b9%e3%81%a8%e3%81%ae%e9%96%a2%e4%bf%82

 

 

 

参考文献 機械工学便覧 第6版 β03-02章

 

引用図表
図1.1.1  溶融金属の鋳型内での流動停止機構            機械工学便覧 第6版
図1.1.2  鉛(Pb)-錫(Sn)合金の流動性の組成、温度依存     機械工学便覧 第6版
図1.1.3  湯口系における湯流れのX線観察              機械工学便覧 第6版
図1.1.4  鋳物の凝固時間とモジュラスとの関係            機械工学便覧 第6版

 

2016/11/1 本稿(初稿)は、筆者の興味から、参考文献からの引用が主たるものになっています。第2稿ではより内容を絞り、かつより広範囲なデータに基づく記述を企図しております。