5.2 鋳造品の補修(finish)

5.2 鋳造品の補修(finish)

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鋳物は補修を必要としないように、設計の段階から検討と、現場的な工夫を行うべきです。ただ、現実には鋳物には、各種の欠陥が発生するので、適切な補修を行い製品の廃却をできるだけ少なくするようにしなければなりません。
補修は主として溶接によりますが、溶接を行う前に欠陥部を完全に除去して、必要であればX 線などで欠陥の位置や形状などを調べながら作業を行うべきです。

1. アーク溶接(arc welding),ガス溶接(gas welding)

鋳物の欠陥部分を研磨や、やすり、はつり、ガウジング、スカーフなどによって除去します。ガウジングあるいはスカーフは、アセチレン炎で予熱して、高純度の酸素を予熱炎の中に噴出させ、鋳物の欠陥部分を酸化熱で溶融し、溶鉄および溶融酸化鉄を酸素気流によって吹き飛ばして除去する方法です。しかし、特殊鋼や非鉄金属では、酸素との反応が十分でないか、あるいは反応温度よりも高融点の酸化物が生成する場合があるため、ガス溶接機での切断は難しいです。
その場合は、外部からガス溶接よりさらに高エネルギー密度のアーク溶接、プラズマ溶接、レーザ溶接を利用することにより、鋳物の欠陥部を局部的に溶融して分離させる方法を取ります。この方法は、溶融切断法と呼ばれています。

アーク溶接を用いる場合は、溶極式アーク溶接と非溶極式アーク溶接があります。
非溶極式アーク溶接は、電極としてタングステンを用いたTIG(tungsten inert-gasまたはgas tungsten arc)溶接が使用されます。TIG 溶接法は、電極と被加工物の間にアルゴン(Ar:アメリカではHe)などの不活性ガス雰囲気中でアークを発生させて除去を行う方法です。この方法は、アルミニウム合金鋳物では、補修ばかりでなく局部強化技術としても使用されています。

鋳鋼品の補修は、ほとんど溶極式アーク溶接の被覆アーク溶接で行われます。被覆アーク溶接は心線に被覆剤(フラックス:flux)を塗布した溶接棒を用いて、電極と被加工物の間にアークを発生させて、アークの発生熱で欠陥部を溶融除去する方法です。鋳物の欠陥部分を除去後、溶接棒を挟んだホルダで運棒操作して補修が行われます。

高合金鋼の補修では、溶着金属の組成を母材とほぼ同じにするため、溶接後は溶接による残留応力や溶着金属および母材熱影響部の硬化が生じます。このため、補修後に焼なましを行う必要があります。

鋳鉄の溶接補修は、非常に技術を要します。鋳鉄のアーク溶接では、母材の炭素含有量が高いため、ボンド部にセメンタイトが晶出しやすです。また、熱影響部では、マルテンサイトやトルースタイトが生じて硬化して、割れが発生しやすいです。これらの問題を防止するためには、母材に対して十分な予熱処理を施した後に、セメンタイトの晶出などを抑制する効果をもつ溶接棒による溶接を行う必要があります。セメンタイトの晶出を抑制する効果をもつ溶接棒としては、Fe-Ni系溶接棒がありますが、溶接部の色が母材と異なる欠点があります。
一方、鋳鉄のガス溶接による補修についても、母材の熱影響をできる限り少なくするため、母材に対して十分な予熱を施した後、実施しなければなりません。
何れにしても、個人的には経験上、鋳鉄の溶接による補修はお勧めできません。

2. その他の補修方法

上記の溶接による補修方法以外で、代表的な補修方法としては、以下の四つがあげられます。

(1)大きな収縮孔あるいは、き裂、粗大な鋳巣などは、補修部分の周囲に耐火物によってせきを設け、溶融室とし、その中に酸化鉄および、アルミニウム、必要な成分を混合した合金粉を装入して、点火反応させる発熱溶接法(テルミット溶接法)。

(2)母材の融点以下かつ、430℃以上で溶融する、硬ろう材を用いて欠陥部を充てんする、ろう接法。

(3)430℃以下の融点をもつ軟ろうを用いて鋳物の微細な欠陥部に流入させる、はんだ付け法。

(4)はんだの代わりに、ベークライトあるいはレジンを用いて細かい欠陥を充てんさせる、充てん法。

 

 

参考文献
機械工学便覧 第6版 β03-02章

 

2016/11/5
本稿(初稿)は、筆者の興味と復習を兼ねているため、参考文献からの引用が主たるものになっています。第2稿ではより内容を絞り、かつより広範囲なデータに基づく記述を企図しております。