4.5 ダイカスト法

4.5 ダイカスト法(die casting process)

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1. ダイカストの概要

1.1ダイカストとは

ダイカストは、精密な金型(キャビティ)に溶湯(溶融金属)に高圧力をかけて、高速で注入し冷却して固める鋳造方式で、大量生産に適しています。

ダイカストというのは、金型(Die;ダイ)による鋳物(Cast)を意味します。適用される金属は、アルミニウム合金、亜鉛合金、マグネシウム合金、銅合金があります。

また、ダイカストというタームは、鋳造プロセスを示すとともに鋳造製品の名称にも用いられます。

 

1.2ダイカストの特徴

他の鋳造加工製品と比較して、ダイカスト製品の長所は、高い寸法精度、美しい鋳肌、薄い肉厚、微細な鋳造組織、高い強度、高い設計自由度、鋳込み金具が使用可能、ニアネットシェイプ化(材料を最終形状にするための仕上げ作業をほとんど必要としないこと)などです。

それぞれについて簡単に示します。

 

(1)高い寸法精度

ダイカスト製品は、他の方式の鋳造製品と比較して、高い寸法精度を有します。

JIS B0403-1995 「鋳造品―寸法公差方式及び削り代方式」 では、鋳放し鋳造品の寸法精度を示す鋳造公差等級としてCT1 ~ 16 が規定されています。数値が小さいほど精度に優れます。

アルミニウム合金では、CT5 ~ 7等級が規定されています。砂型鋳造ではCT9 ~ 12、金型鋳造ではCT6 ~ 8で、これらに比較してより寸法精度が高いといえます。精密鋳造のインベストメント鋳造がCT4 ~ 6でこれに近い精度が得られます。

また他の材料のダイカスト製品では、亜鉛合金ダイカストの公差等級は、CT4 ~ 6で、アルミニウム合金ダイカストより、良好な寸法精度が得られます。

図4.5.1 鋳造品の公差等級   出典:JIS B0403-1995

 

(2)美しい鋳肌

ダイカストは溶湯を金型のキャビティに高圧で充填するので、金型表面に密着して、美しく平滑な鋳肌面が得られます。

 

(3)薄い肉厚

第カスの肉厚は、通常、小物で0.8 ~ 3.0mm、大物で2.0 ~ 6.0mmです。ただし、7mm以上になると鋳巣などの名部欠陥の発生が多くなります。

 

(4)微細な鋳造組織

ダイカストは、砂型鋳造や金型鋳造と比較して、冷却速度が速くなります。そのため、これらの鋳造組織と比較して、より微細な鋳造組織が得られます。

図4.5.2 鋳造方式による鋳造組織の違い  出典: ダイカストの基礎知識1

 

(5)高い強度

(4)に関連しますが、ダイカストは鋳造組織が微細ですので、鋳放し(鋳造のまま、熱処理無し)状態では、砂型鋳造や金型鋳造よりも高い強度が得られます。

 

(6)高い設計自由度

ダイカストは鋳抜き形状が容易にできて、寸法精度、鋳肌面粗度に優れているので、最終形状に近い鋳物が得られます。そのため、設計自由度に優れている特徴があります。

ただし、鋳型は金属で構成されるため、アンダーカットのある鋳物には不向きです。

 

(7)鋳込み金具が使用可能

ダイカストは、別に鋳造しておいた金属材料(鋳込み金具)を鋳型に固定して、本体の正確な位置に接着する鋳包み(いくるみ)ができます。鋳込み金具を利用することで、ダイカスト合金では得られない硬さ、強度、耐摩耗性などが容易に得られます。

 

(8)ニアネットシェイプ化

ダイカストは、高い精度で鋳造が可能ですので、ニアネットシェイプ化が容易です。これにより、面削、バフ加工や、機械加工などの工程が削減可能です。

 

1.3代表的なダイカスト製造工程

ダイカスト鋳造方式で使用する金型は、鋳造したダイカストを金型から簡単に取り出せるように、少なくとも2つの 部分よりなりたっています。一方は固定型、もう一方は可動型といい、それぞれダイカストマシンの固定盤、及び 可動盤に取り付けられています。

ダイカスト鋳造の1サイクルは、まず、ダイカストマシンにより可動型が動きいて、固定型に組み合わさ れて締めつけられ、キャビティを生成します。次に、溶湯(溶融金属)が金型に圧入され、凝固が完了すると可動型が動いて型が開き、ダイカストが取り出されます。その後、金型に離型剤が塗布され、次のサイクルに入ります。ダイカストの金型は、簡単なものから、引抜き中子のある複雑なものまであります。

ダイカスト法は、精密な非鉄金属鋳物の生産方法の中で、最も生産性が高く、ひとつの金型で数万回程度繰り返し使用することが可能です。このことは、1回鋳造するごとに新しい砂型を必要とする砂型鋳物とは大きく異なる点です。また、砂型の代わりに金型を用いる場合は、ダイカスト鋳造と比較して、生産速度がかなり遅く、しかも精密さは砂型鋳物に近く、精度についてもダイカスト鋳造方式より劣ります。

代表的なダイカストの製造工程の概要を示します。

図4.5.3 代表的なダイカスト製造工程の例  出典:ダイカストって何?-DIE CASTING-

 

 

2. 普通ダイカスト法

ダイカストは、高圧で溶湯を鋳型愛に注入する機構や、その高圧力に耐える型締め力を確保するために、比較的大型の装置になり、これをダイカストマシンといいます。

ダイカストマシンは、大きく分けて2方式があります。コールドチャンバダイカストマシン(cold chamber die casting machine)と、ホットチャンバダイカストマシン(hot chamber die casting machine)といわれるものです。

 

2.1 コールドチャンバダイカストマシン

コールドチャンバダイカストマシンは、スリーブ内に注湯された溶湯を、プランジャで加圧射出して金型内へ鋳造します。アルミニウム合金のダイカストは、すべてこの方式で製作されています。マグネシウム合金や黄銅にも用いられています。

射出部(スリーブ及びプランジャ)が溶湯中に無く、加熱されていないことから、コールドチャンバと呼ばれます。

図4.5.4に、コールドチャンバダイカストマシンの構造例と、作動状況を示します。

図4.5.4コールドチャンバダイカストマシンの構造例と、作動状況  出典:ダイカスト協会って何?、機械工学便覧 第6版

・型締力:0.5~40MN
・射出力:型締力の1/20~1/40
・ダイカストのサイクル:
金型の過熱防止の為、内部を水冷する → 焼付き防止のため離型剤を塗布する → 可動型を固定型まで移動させ金型を閉じる → 溶湯をラドルでスリーブ内に注湯する → 注湯後ただちにプランンジャが作動して、溶湯を金型の湯道、ゲートを通じて金型に送られ鋳造する(ゲートは湯道より狭いので、溶湯は金型内に高速で射出される) → 溶湯の凝固後、金型を開き、プランジャと可動中子を元の位置に戻す → 押出しピンを作動させて、製品を金型から押出す。

・アルミニウム合金ダイカストの場合、
 /鋳造圧力(射出力):10~200MPa
 /溶湯のゲート通過速度:約20~100m/sec
 /溶湯充填時間:約0.01~0.7sec
 /金型内の溶湯の冷却速度:約30~300℃/sec
 /スリーブの移動速度:スリーブ内が溶湯で充填されるまでは低速で射出 ・・・ 0.2~0.5m/sec
           溶湯がキャビティ内に入りだした時点で高速移動 ・・・ 1.5~2.5m/sec
  の、2段階方式を取るものが多いです。
 /ダイカストの1サイクル:小さい鋳造品で数秒、大きいもので数分。高速で生産できます。

・周辺装置は、給湯装置、プランジャ潤滑装置、離型剤スプレー装置、製品取出し装置などがあり、自動化が進んでいます。
・中小型の設備では、完全無人化も実施されています。
・特徴としては、
 /複雑形状の鋳造品を一工程で量産が可能
 /湯回りがよく薄肉部品の鋳造が可能
 /寸法精度が高い
 /鋳肌がきれい
 /急冷により鋳造組織が微細
などがあります。

・一方、注意すべき点は、
 /高速射出のため、スリーブおよび金型内の空気やガスを溶湯中に巻き込んだまま凝固しやすく、鋳巣対策が必要になります。
 /巻き込まれた空気、ガスのため溶体化加熱や溶接が不可能であり、金型に急速拘束されるので鋳造割れの対策が必要になります。

 

2.2 ホットチャンバダイカストマシン

ホットチャンバ式は、スリーブとプランジャが溶湯中に浸漬されていて、溶湯はグースネックを通して加圧されて金型内へ注入されます。亜鉛合金ダイカストのほとんどがこの方式で製作されています。また、マグネシウム合金にも用いられています。アルミニウム合金では、スリーブおよびプランジャが溶湯によって侵食されるため、適用が難しいですが、現在小型機については開発されています。

図4.5.5に、ホットチャンバダイカストマシンの構造例と、作動状況を示します。

図4.5.5ホットチャンバダイカストマシンの構造例と、作動状況  出典:ダイカスト協会って何?、機械工学便覧 第6版

・型締力:0.05~10kN
・射出力:7~25MPa
・特徴としては、
 /射出部が溶湯内にあり、1サイクルごとに注湯する必要がなく、完全自動化が行われている。
 /射出力が低圧力なので、鋳造サイクルが速い。
などがあります。

・ただし、射出部のプランジャおよびスリーブを含むグースネックが、溶湯中に絶えず浸漬されているので、グースネック材質が溶湯に侵食されない、亜鉛合金や、スズ合金、マグネシウム合金などの鋳造に適用されます。

 

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3. 特殊ダイカスト法

2項に示す一般的なダイカスト法は、普通ダイカスト法と呼ばれます。普通ダイカスト法では、高速射出充てん・短時間凝固により、空気・ガスの巻込みや、厚肉部の鋳巣(巻込み巣、ひけ巣)は避けるのが難しいです。充てん性や、気密性、機械的性質の向上、熱処理(T6処理性)や溶接を可能にするために、新しいダイカスト鋳造技術が、特殊ダイカスト法としていくつか考案されています。

代表的な特殊ダイカスト法と、それが期待できる効果について、表4.5.6 に示します。

表4.5.6特殊ダイカスト法と期待できる効果  出典:ダイカストって何?-DIE CASTING-

 

3.1 真空ダイカスト法(減圧ダイカスト法,vacuum die casting process)

金型キャビティ内の空気やガスを、溶湯射出直前に真空ポンプで吸引して、減圧状態でダイカストする方法です。真空度の保持と溶湯射出のタイミングの制御に工夫を必要とします。

方式により、GF(gas free)法、マスベント法、カットオフピン法、ACURAL法などがあります。

日本ではGF法(図4.5.7)が広く用いられています、金型キャビティ内の空気を短時間に大量に排気して、しかも溶湯が外部に飛び出ないエアベントバルブが用いられます。

最近では、高品質ダイカスト鋳造法として、VACURAL法が日本でも実用化されています。この方法は、スリーブ内も減圧して、注湯も吸引することで減圧時間を長くしています。T6熱処理や、溶接が可能です。

図4.5.7真空ダイカスト法(GF法)  出典: 機械工学便覧 第6版

 

3.2 無孔性ダイカスト法(PFダイカスト法,pore free die casting process)

溶湯を射出する前に、金型キャビティ、ランナー、および射出スリーブ内の空気を活性ガス(主として酸素)に置換して、おおよそ80m/sec以上の高速射出により、溶湯を金型内へ噴霧状に鋳造して、酸素をすべてAl2O2として鋳造品内に微細分散させて、空気やガスの巻込みによる鋳巣をなくす方法で、無孔性を英語にして示した(PF : pore free)ダイカスト法ともいいます(図4.5.8)。

ガス含有量が普通/重力金型鋳造法と同程度になり、T6熱処理や、溶接が可能です。

図4.5.8無孔性ダイカスト法  出典:ダイカストって何?

 

3.3 スクイーズキャスティング法

射出スリーブ、金型キャビティ内の空気やガスの巻込みを防ぐため、溶湯のゲート通過速度を1m/sec前後の低速で充てんして、高圧力を負荷させて凝固させる方法です(図4.5.9)。加圧方法によって、プランジャー加圧法、直接圧込み法、間接押込み法などがあります。

低速で充填するため、空気の巻込みが少なく、また、高圧力による負荷により、ミクロ組織を微細化し、引け巣の発生を抑制できます。そのため、T6熱処理や溶接が可能で、高品質なダイカストを得ることができます。

充てん時間が長いため、ゲート断面積を大きくして、溶湯の冷却管理が重要になります。

また、本コンテンツの初稿は、機械工学便覧 第6版に基づいて、記述を進めましたので、スクイーズキャスティング法は、高圧鋳造法に含まれていました。今回の更新では、日本ダイカスト協会など、アルミニウム鋳造系の団体の考え方に基づいて、特殊ダイカスト法の分類の立場から記述します。

図4.5.9スクイーズキャスティング法  出典:ダイカストって何?

 

3.4局部加圧ダイカスト法

ゲートから遠い部位の厚肉部に生じる鋳巣の形成を抑えるために、溶湯充てん後にタイムラグを設けて半凝固状態の厚肉部に局部加圧ピンを作用させて押し込み、加圧して、空げき発生部分を押しつぶす方法で、非常に効果的です(図4.5.10)。直接加圧して凝固収縮相当量の溶湯を部分的に補給することになるので、引け巣の少ない高品質なダイカストが得られます。高圧鋳造法にも適用されます。

筆者は、比較的厚肉形状のアルミニウムダイカストの製品(分配弁)を開発した際、厚肉部に鋳巣が残る不具合を解消するために、本方法をダイカストメーカから提案されました。結果は非常に効果がありました。約30年前の製品ですが、現在でも生産されているようです(図4.5.11)。

図4.5.10局部加圧ダイカスト法  出典:ダイカストって何?

図4.5.11局部加圧ダイカスト法適用例  出典:ルビエースカタログ  ダイキン運活機設(株)

 

3.5 半溶融・半凝固ダイカスト法

固体と液体とが、共存したシャーベット状態(固液共存状態)の合金をダイカストする方法です(図4.5.12)。 液体から固液共存状態にして金型に圧入する方法を半凝固ダイカスト法(レオキャスト法)、固体から固液共存状態にして金型に圧入する方法を半溶融ダイカスト(チクソキャスト法)と呼びます。

ひけ巣の発生が少ない、金型寿命が長い、結晶粒が均一であるなどの特徴があり、品質の安定したダイカ ストを得ることができます。

図4.5.12 半凝固ダイカスト法、半溶融ダイカスト法  出典:ダイカストって何?

 

3.6アンダーカット成形法

鋳造後に取り出すことのできる置中子を用いて、アンダーカットのあるダイカストを製造する方法をいいます(図4.5.13)。 置中子には砂に特殊なコーティングを施した崩壊性砂中子や、塩類を用いて鋳造後に水に溶解さ せる可溶性中子などがあります。アンダーカット成形が可能な砂型、金型、低圧鋳造などの他の工法に比較して、寸法精度、鋳肌の平滑さ、鋳抜き穴の容易さ、生産性などの点で優位になります。

図4.5.13アンダーカット成形法  出典:ダイカストって何?

 

 

 

 

参考文献
機械工学便覧 第6版 β03-02章
JIS B0403-1995 「鋳造品―寸法公差方式及び削り代方式」
ダイカストの基礎知識1  西 直美 ものづくり大学   (株)イプロスTech Note編集部 2018年
ダイカストって何?-DIE CASTING- (一社)日本ダイカスト協会  2003年
DIE CASTING ENGINEERING   Bill Anderson  Marcel Decker   2005年
Complete Casting Handbook   John Campbell  ELSEVIER  2011年
ルビエースカタログ    ダイキン潤滑機設(株)

 

引用図表
図4.5.1 鋳造品の公差等級   出典:JIS B0403-1995
図4.5.2 鋳造方式による鋳造組織の違い  出典: ダイカストの基礎知識1
図4.5.3 代表的なダイカスト製造工程の例  出典:ダイカストって何?-DIE CASTING-
図4.5.4コールドチャンバダイカストマシンの構造例と、作動状況
            出典:ダイカスト協会って何?、機械工学便覧 第6版
図4.5.5ホットチャンバダイカストマシンの構造例と、作動状況
            出典:ダイカスト協会って何?、機械工学便覧 第6版
表4.5.6特殊ダイカスト法と期待できる効果  出典:ダイカストって何?-DIE CASTING-
図4.5.7真空ダイカスト法(GF法)  出典: 機械工学便覧 第6版
図4.5.8無孔性ダイカスト法  出典:ダイカストって何?
図4.5.9スクイーズキャスティング法  出典:ダイカストって何?
図4.5.10局部加圧ダイカスト法  出典:ダイカストって何?
図4.5.11局部加圧ダイカスト法適用例  出典:ルビエースカタログ  ダイキン運活機設(株)
図4.5.12 半凝固ダイジャスト法、半溶融ダイカスト法  出典:ダイカストって何?
図4.5.13アンダーカット成形法  出典:ダイカストって何?

 

MOD:2023/10/11
Correct:2020/12/15
ORG:2016/11/5