6.2.2 アルミニウム合金鋳物

6.2.2 アルミニウム合金鋳物(aluminum alloy castings)

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アルミ鋳物は、アルミニウム合金鋳物(砂型鋳物、金型鋳物)とアルミニウム合金ダイカストに分けられます。JIS規格では合金系に分類されます。JIS規格で決められている材料記号は、アルミニウム合金鋳物がAC**(aluminum casting)、アルミニウム合金ダイカストがADC**(aluminium die casting)であらわされます。ADC**の”D”は、ダイカストのダイ(die)を表しています。

なお、アルミニウム合金鋳物は、JIS H5202の2010年の改訂で、ISO3522-2007の基づく国際規格に基づいた種類が追加されています。

アルミニウムは、元来鋳造しやすい素材で、熱処理により調質が可能ですので、製品の使用状況に応じた機械的性質のバリエーションが豊富な材料です。耐熱性は鉄系鋳物、銅系鋳物と比較すると劣りますが、軽量化できるので質量比での強度は遜色ないものとなります。また、特にダイカストの場合は大量生産が比較的容易な点もアルミ合金の長所になります。

 

 

1. アルミ合金の特徴

アルミニウム固有の性質から得られる、アルミニウム合金の特徴には、以下のようなものがあります。

・軽い(鉄の約1/3、Fe;7.87g/cm3、Al:2.71g/cm3
・比強度が大きい
・加工性が良好(切削、鋳造とも)
・表面処理が容易(アルマイト処理など)
・低温脆性が認められない
・電気伝導性、熱伝導性が良好
・非磁性体
・リサイクルが容易
・比較的入手が容易

などが、あげられます。

 

2. アルミ合金の鋳造材と展伸材との違い

機械部品や構造材としてアルミ合金が採用される場合、アルミ合金鋳物(砂型鋳物、金型鋳物、ロストワックスなど)、アルミダイカスト、アルミ合金の展伸材(圧延材)の何れかが選択されます。何れも製法が異なり、成分が似ていても機械的性質は大きく異なります。

アルミ合金の展伸材は大きく分けて、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系に分類されます。アルミ合金鋳物でも成分的には対応する合金系が存在しますが、機械的性質はかなり異なります。

 

 

3. 製法によるアルミ鋳物の違いと特徴

(1)砂型鋳造の特徴と長所・短所

金型鋳造やダイカストと比較すると、砂型鋳造は寸法精度に劣るという欠点があります(鋳物公差等級:砂型鋳物;、金型鋳物;、ダイカスト;)。一方、型費用は他の鋳造方式と比較して最も安価になる長所があり、さらに試作期間も短くて済みますので、短納期に対応しやすい鋳造方式です。
特に試作品を繰返して製作する必要がある場合、試作費用の低減に対して、最も効果のある鋳造方式です。多品種少量生産に強い製法です。
また、複雑形状の鋳物についても対応が可能で、複雑形状の中子が組み込まれているものでも対応が可能です。
ただし、アルミ合金の種類によりますが、通常部材厚みは最低3mm程度必要とされます。従って、あまり精密な用途には適合できません。
砂型では、製作品がかなり大きいものでも対応できるのが、金型やダイカストとは異なる特徴です。型代が安価なことより、少量大物の生産に向いているといえます。ただし、機械的強度を要求される用途では、金型鋳造やダイカストの方が有利です。

 

砂型鋳造法の項目で既述した砂型の種類と特徴と、一部重複することになりますが、表  に示します。

表6.2.2.1  アルミ合金鋳物に用いられる砂型  出典:https://www.toishi.info/sozai/al/casting.html

 

(2)金型鋳造の特徴と長所・短所

⾦型鋳造は、砂型鋳造と比較すると⽋陥・不良が少ないという長所や緻密で精細な鋳造組織を持ち、機械的強度に優れた鋳物になります。また、熱処理によりさらに⾼強度な鋳物を得ることもできます。
ダイカストも金型を用いるので似ていますが、ダイカストでは溶融アルミニウムを⾼圧・⾼速で注⼊して成形していくのに対し、金型鋳造は溶融アルミニウムの重さだけで鋳造するのが特徴です。このため、砂型鋳造には及ばないものの、ダイカストによりも鋳物設計に⾃由度があります(中⼦の使⽤も容易)。ただし、⾁厚はアルミ合⾦の材種にもよりますが、5mm以上は必要とされ、極薄の精密部品には対応が難しい製法です。

完成した鋳造品は、耐圧性能・機械的特性に優れたものが得られますので、砂型では強度不足となる場合にも対応可能です。鋳造後の、鋳肌面の仕上がりも⽐較的きれいで、⼨法精度についても⾦型を使うため、良好になります。。また⾦型の使用は、鋳物の冷却速度が砂型の場合と比較するとはやくなり、⽣産効率も改善されます。
ただし、⾦型材料には鋳鉄や耐熱合⾦が⽤いられますが、通常の⾦型と同様に、コスト・納期がかかるため、初期費用がかかる点、試作納期などがかかる点などが短所になります。⾦型そのものは、数千回から数万回使うことができるため、中量⽣産以上の規模になると、コストメリットが得られますので、少量多品種には不向きな鋳造法になります。⼤物鋳物については、装置によって対応可能になります。
金型が完成し、製造⼯程は砂型鋳造よりも短いという長所がありますが、⾦型製造までに時間がかかるため、試作に対してよく検討する必要があります。一方、⾦型が完成した後の製造⼯程(サイクル)については、ダイカストのほうが短いため、⼤量⽣産となった場合のコストは金型鋳造の方が割⾼になります。

 

(3)ダイカスト鋳造の特徴と長所・短所

ダイカストは、大量生産に最も適した鋳造法で、しかも砂型鋳物、金型鋳物製品よりも、寸法精度に優れています。
ダイカスト鋳造は、溶湯(溶融アルミニウム)を、高速かつ高圧で金型内に射出・充填して、急速に凝固を行う製法です。肉厚も1mm程度までの薄肉に対応できるため、精密部材へ適用されます。
ただし、大量生産に強い反面、専用の大型設備や金型の価格が非常に高価です。
基本的に高速で溶湯を金型内に射出するため、射出条件を吟味しないと空気を巻込んだり、鋳巣の発生が起きます。基本的に空孔が発生しやすい鋳造法のため、熱処理を行うと、空孔内の空気が膨張して材料の破損につながるため、通常は熱処理を行わずに使用されます。
特殊なダイカスト法により、熱処理を可能にすることが行われています。

 

4. アルミ合金の種別ごとの特徴

4.1 アルミニウム合金鋳物

アルミニウム合金鋳物は、JIS H5202の2010年の改訂で、ISO 3522-2007の基づく国際規格に基づいた種類が追加されています。
従来から日本規格であるAC**とISO 3522:2007による “Al_元素成分” とが併存しています。
以下に、規格に概要を示します。

表6.2.2.2  JIS規格による記号(旧来)  出典:JIS H5202:2010

表6.2.2.3  JIS規格合金の化学成分  出典:JIS H5202:2010

表6.2.2.4  JIS規格合金の機械的性質  出典:JIS H5202:2010

表6.2.2.5  ISO規格に基づく記号  出典:JIS H5202:2010

表6.2.2.6  ISO規格合金の化学成分  出典:JIS H5202:2010

表6.2.2.7  ISO規格合金の機械的性質  出典:JIS H5202:2010

表6.2.2.8  JIS規格とISO規格との比較  出典:JIS H5202:2010

 

アルミニウム以外に含有される成分により、いろいろな性質が付与されます。

 

・Al-Cu-Mg 系合金:AC1B
強度が大きく、じん性に富み、耐熱性、切削性に優れています。機械的性質が高く、高圧送電線用架線金具や、航空機部品、油圧部品などに適用されます。
ただし、鋳造時に割れや引けを発生しやすく鋳造性が良くないことや、耐食性が悪いため防食対策が必要などの短所があります。

・Al-Cu-Si系合金:AC2A,AC2B
銅系のアルミ合金にシリコンを添加することにより、強度や鋳造性を改良しています。油流れ性が良くなり、被削性、溶接性に優れています。ただ、伸びが低かったり耐食性があまり良くない短所があります。
シリンダヘッドやシリンダブロックなどのエンジン部品に多く用いられます。

 

・Al-Si系合金:AC3A
Al-Si二元系の非熱処理型合金で、ほとんど共晶組成のため、流動性がよいため鋳造しやすく、溶接性や耐食性にも優れていますが、加工性については悪く、被削性に劣る傾向があります。また、強度があまり強くないことに注意する必要があります。
ビルの外装パネルやエクステリアといった大型の建築関係の工作物、や薄物砂型鋳物としてよく用いられます。

 

・Al-Si-Mg 系合金:AC4A,AC4C,AC4CH
鋳造性、じん性、高圧性、および耐食性が優れた合金です。特にAC4CHは添加元素量を調整してあるため、より高いじん性を有しています。
そのため、自動車の足回り部品等の高い安全性を要求される機械構造部品に使用されることが多いです。スクイーズキャスティングなどの鋳造方法との組み合わせで鍛造品に迫るほどの高信頼性の鋳物にすることができます。

 

・Al-Si-Cu 系合金:AC4B
AC4BはAl-Si-Cu系の熱処理型合金で、AC2Bとほぼ同等の特性を持っています。鋳造性、耐鋳造割れ性、被削性や溶接性に優れたい合金です。エンジン部品に使われることが多いです。

 

・Al-Si-Cu-M g 系合金:AC4D
アルミシリコン系合金にMgとCuとを添加した熱処理型合金で靭性と熱処理硬化性が向上します。強度、耐食性や耐熱性に優れたアルミ鋳物です。エンジン部品に使われることが多いです。

 

・Al-Cu-Ni-Mg 系合金:AC5A
高温環境での強度に優れており、加工性にも優れています。
以前は、高温強度が高い性質から、ピストンやシリンダヘッドなどのエンジン部品に使われていましたが、熱膨張係数、耐摩耗性の優れるAl-Si系合金が普及した現在では、あまり使用される機会の無い合金になりました。

 

・Al-Mg 系合金:AC7A
AC7Aは非熱処理系合金で、強度とじん性が良好で、耐食性と陽極酸化処理性に優れていることからアルマイト処理にも使われます。船舶部品や食品機械部品に利用されます。
ただし、鋳造性が悪いことが短所です。

 

・Al-Si-Cu-Ni-Mg系合金:AC8A,AC8B,AC8C
熱膨張係数が小さく、耐熱性、耐摩耗性に比較的優れた鋳物で、鋳造性も良好です。AC8A、AC8Bは、ローエックス合金やピストン合金とも呼ばれます。自動車用のピストンやベアリングに用いられます。

 

・Al-Si-Cu-Mg-Ni系合金:AC9A,AC9B 
ケイ素の量を過共晶領域まで増加させた、熱膨張係数が最も小さいアルミ鋳物で、耐摩耗性、高温強さや、硬さに優れています。ただし、一方で鋳造性や靭性は低くなります。2サイクル機関用ピストンに用いられます。

 

4.2 アルミニウム合金ダイカスト

アルミニウム合金ダイカストは、JIS H5302の2006年の改訂で、ISO/FDIS 3522:2006の基づく国際規格に旧来からの日本規格によるものを追加して制定されました。

従来から日本規格であるADC**とISO/FDIS 3522:2006による “Al_元素成分” とが併存しています。

以下に、規格に概要を示します。

表6.2.2.9   アルミニウム合金ダイカストの種類と記号  出典:JIS H5302:2006

表6.2.2.10   アルミニウム合金ダイカストの化学成分  出典:JIS H5302:2006  

アルミニウム以外に含有される成分により、いろいろな性質が付与されます。

 

(1)アルミニウム合金ダイカストの特徴

ダイカスト鋳造では、通常の鋳物よりも高速での溶湯注入が必要なため、溶融アルミニウムに高い流動性が要求されます。このため、他のアルミ鋳物とは成分構成がやや異なっています。例えば、アルミニウムダイカスト合金の場合、鉄(Fe)の含有量が0.5 ~ 1.0% 程度であるのに対して、アルミニウム鋳造合金では0.1 ~ 0.6%程度に設定しています。

鉄(Fe)の含有量が多い理由は、以下に示す2つがあります。

1)金型の焼付き防止:

アルミニウムは金型に密着しやすい金属です。ダイカストでは、高温の溶湯を金型に高速で射出するため、金型と溶湯の間の摩擦熱により、金型と溶湯が焼付きを起こすことがあります。鉄はアルミニウムよりも密度が大きく、融点も高いため、溶湯中の鉄の含有量を高めることで、溶湯の粘度が高くなり、金型への焼付きを防止することができます。
一方鋳造の場合、溶湯を金型に注ぎ込むため、金型と溶湯の接触面積がダイカストと比べて小さくなり、焼付きが発生する可能性が低いため、鉄を添加する必要がありません。

 

2)機械的性質の向上:

鉄はアルミニウムよりも機械的強度が高いため、溶湯中の鉄の含有量を高めることで、合金の機械的性質を向上させることができます。ダイカスト製品は、鋳造製品と比較して薄肉で製作される傾向があるので、機械的性質の向上は重要な要因です。特に、鉄とアルミニウムの化合物であるアルミニウム鉄(AlFe)は、硬さと機械的性質が高いため、耐摩耗性や耐擦傷性の向上に効果的です。ただし、耐食性が低下するなどの短所があります。
なお、鋳造合金の場合、鉄の含有量を高めると引け巣が発生しやすくなるため、一般に0.6%程度以下に抑えられています。

 

また、アルミニウム合金ダイカストの大きな特徴として、鋳造と比較して高い寸法精度を出せると点があげられ、大量生産に特に向いた生産方法です。

 

(2)アルミニウム合金ダイカストの熱処理

アルミニウム合金ダイカストの場合、完成した鋳物は熱処理しない場合が多いです。これは、金型に溶湯を注入する際、高速で行うため、溶湯内部に空気を巻き込みやすく、しかも凝固速度も速いので、そのまま引け巣として鋳物内に残り、これが熱処理を行うと膨張し内部欠陥の原因になる可能性があるためです。
ただ、熱処理工程が無いことは、生産サイクルが短縮化につながり、これも、大量生産に向いている要因になります。
最近は、ダイカスト鋳造でも、特殊ダイカスト法と呼ばれる手法が普及しはじめています。詳細は、別項目に記述しますが、真空ダイカスト法や無孔性ダイカスト法などを適用すると、熱処理(T6熱処理)が可能となり、機械的性質や物性値の向上が図れます。

 

(3)アルミニウム合金ダイカストの金型

アルミニウム合金ダイカストは、大量生産が基本となるので、繰返し使用可能な金型を用いることと、高圧力・高速で溶湯を金型内に注入すること、急速凝固によって他の鋳造法よりもはやく溶融金属を固化されることなどが特徴になります。このため、ダイカスト用の金型は高価にはなります。耐熱鋼などで製作され、繰返し使用可能な高精度な金型が適用されます。

 

(4)アルミニウム地金に含まれる不純物

ダイカスト法では、金型内へ射出された溶融金属は通常冷却が早く、凝固速度が速くなります(急冷凝固)。急冷凝固による製造方法は、溶融金属の中に含まれてる不純物が、製品の機械的性質に及ぼす影響が小さくなる長所があります。
これにより、元となる金属である地金の純度を比較的厳密に要求しなくても良いので、再生地金を用いることができます。そのため非常にコスト的に優位になります。
また、急冷凝固は他の鋳造方法と比較して、凝固組織が緻密になるという特徴があり、機械的性質の改善も図れます。さらに高速で鋳造を行うにも関わらず、金型に高圧で押し付けるため金型からの転写性に優れ、表面外観が良好な長所があります。

 

(5)アルミニウム合金ダイカストの短所

アルミニウムダイカストを適用する際の問題として、大型品、肉厚品、高強度部材に適用する場合、製造時の難易度が高くなる傾向にあります。アルミニウム合金ダイカストは、強度を得やすい他の種類の金属材料と比較すると、継続的に強い負荷がかかるような用途には向かない場合が多いです。
また、製造上の問題として、溶湯を高速で注入するため、金型の隅々まで、これら溶融金属が充填しきれない場合があります。
さらに、溶融アルミニウム(溶湯)を、高圧・高速で金型へ注入していくため、空気を巻き込んで、製品内部に空洞(巣)を生じることがあります。これは鋳巣(いす)ともいい、発生原因によって主に2種類に分類されます。一つ目は、溶湯注入時に空気やガスを巻き込んで発生する「巻き込み巣」で、丸い形の空孔となります。二つ目は、凝固の際の金属収縮によって発生する「ひけ巣」で、裂かれたような形状をした空孔となります。

 

アルミダイカストの規格と要求事項

規格上は、従来から存在するJISに加え、ISOから移植された記号が2006年から追加されています。

選ぶ際は、機械的性質や物理的、化学的性質のほか、生産する上で大きく影響する「鋳造性」や「加工性」、地金のコスト(再生地金を使うか否か)、表面処理のしやすさ等も検討項目となります。

またアルミダイカストの材料に求められる要求事項も、他の金属系材料とは少し異なり、ダイカスト性とも呼ばれるこの性質は、主に鋳造性の良し悪しを見ます。凝固収縮が小さいことや、金型への焼き付きがないこと、耐圧性に優れていること、鋳造割れや引け巣などを起こしにくいこと、湯流れ性がよくキャビティ充填性に優れていること、等です。

アルミニウム合金ダイカストの材料でも、アルミニウム鋳造合金と同様、アルミニウム以外に含有される成分により、いろいろな性質が付与されます。

・Al-Si系合金:ADC 1
ADC1は、耐食性が良好で、金型内で溶湯の湯流れがよく鋳造性に優れていますが、耐力はやや低いです。
自動車のメインフレーム、フロントパネルや、屋根瓦に用いられます。
アルミニウム合金鋳物では、AC3Aに類似します。

 

・Al-Si-Mg 系合金:ADC 3
ADC 3は、耐衝撃性、引張強さや、耐食性が良好です。鋳造性はADC 1ほどではないですが良好です。自動車のホイールキャップ、二輪車のクランクケース、自転車のホイールや、船外機のケースなどに用いられます。

 

・Al-Mg 系合金:ADC 5
ADC 5は、耐食性に非常に優れ、適度の強度と高い伸びを示しますが、鋳造性に劣り、複雑形状の製品には不適当とされます。農機具の振動アームや爪抑え板、船外機のプロペラ、釣り具のペールアームレバー、クロップや、スプール(糸巻き)に用いられます。

 

・Al-Mg-Mn 系合金:ADC 6
ADC 6は、耐食性はADC 5に近く、鋳造性はADC 5より優れていますが、ADC 1と比較すると劣ります。アルミニウムダイカスト合金の中では悪い部類に入ります。二輪車のハンドレバー、ウインカーホルダー、ウォーターポンプや、船外機のプロペラケースに用いられます。

 

・Al-Si-Cu 系合金:ADC 10、ADC 10Z
ADC 10は、Siを多く含有させることにより、鋳造性を改善させたものです。被削性も良く、Cuを添加することで強度も向上させています。アルミニウムダイカスト合金の中では、強度に優れ、鋳造性も良くバランスがとれた種類です。機械的性質に優れた耐圧性の良好な製品が作れます。ADC 12と似たバランスをしていますが、使用量は到底及びません。
自動車用のシリンダーブロック、トランスミッションケース、シリンダーヘッドカバーなど、二輪車用ショックアブソーバー、農機具用ケース類、VTRフレーム、カメラ本体、ハードディスクケース、電動工具、ミシン部品、ガス器具、床板、エスカレータ一部品、その他アルミニウム製品のほとんどすべてに適用可能ですが、ADC 12と比較すると適用個所は大幅に限定されます。
ADC 10Zは、亜鉛(Zn)を不純物として3%まで含んでも良いことになっています。ISO規格との整合性を取るために作られました。

 

・Al-Si-Cu系合金:ADC 12、ADC 12Z
ADC 12は、アルミニウムダイカスト合金としては、機械的性質、被削性、鋳造性が、いずれも高レベルでバランスのとれた合金です。ただ、耐食性については、一般的なアルミニウムダイカスト合金の平均よりやや劣ります。
アルミダイカストの生産量のうち、95%程度はADC 12といわれており(2001年)、ほとんどが自動車用部品に使われています。このため、流通性もよく、価格や入手のしやすさの面でも有利な材料です。自動車用部品の他、バイクや雪上車などにも用いられます。
ADC 12Zは、ADC 12とほぼ同等の性質を持っていますが、鋳造割れ性、耐食性がやや劣ります。ISO規格との整合性を取るため、亜鉛(An)の含有量が3%まで許容されています。

 

・Al-Si-Cu-Mg 系合金:ADC 14
ADC 14は、熱膨張係数が小さく、耐力は良好ですが、伸びが低いため耐衝撃性に劣ります。鋳造性もやや劣りますが、湯流れ性については、最も良好なADC 1と同等です。
最初はエンジンブロックの軽量化のために開発されましたが、現在では、ハウジングクラッチ、自動変速機用オイルポンプボディなど、自動車用部材として多く用いられています。

 

なお、大部分のアルミニウム合金鋳物および、一部のアルミニウムダイカストは、T4,T5,T6,T7などの時効熱処理が施された後に使用されます。

 

 

 

参考文献
機械工学便覧 第6版 β03-02章
JIS H5202:2010 「アルミニウム鋳造合金」
JIS H5302:2010 「アルミニウム合金ダイカスト」
ダイカストの基礎知識2  西 直美 ものづくり大学   (株)イプロスTech Note編集部 2018年
「砥石」と「研削・研磨」の総合表示サイトHP   https://www.toishi.info/
DIE CASTING ENGINEERING   Bill Anderson  Marcel Decker   2005年
Complete Casting Handbook   John Campbell  ELSEVIER  2011年

 

引用図表
表6.2.2.1  アルミ合金鋳物に用いられる砂型  出典:https://www.toishi.info/sozai/al/casting.html
表6.2.2.2  JIS規格による記号(旧来)  出典:JIS H5202:2010
表6.2.2.3  JIS規格合金の化学成分  出典:JIS H5202:2010
表6.2.2.4  JIS規格合金の機械的性質  出典:JIS H5202:2010
表6.2.2.5  ISO規格に基づく記号  出典:JIS H5202:2010
表6.2.2.6  ISO規格合金の化学成分  出典:JIS H5202:2010
表6.2.2.7  ISO規格合金の機械的性質  出典:JIS H5202:2010
表6.2.2.8  JIS規格とISO規格との比較  出典:JIS H5202:2010
表6.2.2.9   アルミニウム合金ダイカストの種類と記号  出典:JIS H5302:2006
表6.2.2.10   アルミニウム合金ダイカストの化学成分  出典:JIS H5302:2006 

 

ORG:2023/10/17