4.4 繰返し荷重による破面

4.4 繰返し荷重による破面

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繰返し荷重による破壊は、巨視的には脆性破壊(図4.2.1(a))のような外観ですが、破壊機構の特徴から疲労破壊として分類されます。

1. 疲労き裂の発生とその進展

疲労破壊における亀裂は、原子オーダの転位のレベルで発生します。部材に繰返し応力が作用すると、最大せん断応力を受ける最表面がダメージを受けます(浸炭のような表面硬化処理材は、硬化層の厚み、負荷応力の大きさ、残留応力分布の状態によっては、内部から亀裂が発生する場合があります)。静的な荷重より小さな力で亀裂が発生します。これが疲労破壊現象と呼ばれるものです。

図4.4.1に、ミクロ的な亀裂発生状態を模式的に示します。繰返し応力が作用すると、表面に小さなクラックが発生すると同時に、内部に欠陥部(A)が生じます。

図4.4.1 繰返し応力による表面き裂の形成

図4.4.2は、マクロ的な疲労き裂進展の進展過程を示しています。最大荷重が作用する表面には、入り込み、突出しにより、1結晶レベルですべり帯が発生し、繰返し応力により、そのき裂が時間の経過とともに、いろいろな形態をとりながら内部に進展して、最終的には破断に至ります。

図4.4.2 疲労亀裂の発生と進展の挙動

疲労破壊の破面は、引張による破面や衝撃破断面とは異なります。上に述べたように、必ずき裂発生起点があり、その後に疲労き裂進展領域と最終破断部とが存在します。疲労き裂進展領域と最終破断部との面積の割合が、材料の強度や、負荷応力の大きさ、き裂進展速度などに影響します。これがいろいろな破面の模様として観察されます。

2. 疲労破面の特徴

1項に述べたように、大なり小なり何らかの力が部材に作用すると、最大せん断応力を受ける表面(表面硬化処理材では内部からも)が、ダメージを受けて亀裂が発生します。そして、この亀裂は繰返し応力が更に作用することにより、進展して破壊に至ります。

従って、疲労破面は、
(1)繰返し荷重により、き裂が進展した領域
(2)負荷応力に耐えられずに破断した最終破断部
の2つの領域に分類されます。最終破断部は静的に近い応力による破断になります。

この2つの領域の面積の割合や、凹凸の程度、き裂の進展方向、 き裂発生起点近傍の段差(ラチェットマーク)の数と長さなどから、使用材料の降伏強度,負荷応力の大小,使用環境などがおおよそ推定できます。

図4.4.3は、疲労破壊した破断面を模式的に示したものです。O部はき裂発生起点(応力集中部が多い場合は複数個所)、F部は疲労き裂進展領域(ビーチマークあるいは貝殻模様と呼ばれ、起点を中心とする半月状の模様が認められます。1回毎の繰返しの応力振幅とは1対1には対応しませんが、き裂が進展するのにつれて、き裂の間隔が広がる傾向があります。)、さらにE部は最終破断部になります。最終破断面は、荷重方向からおおよそ45°傾いて現れます。
さらに、D部は起点近傍に発生する模様で、ラチェットマークあるいは段差模様と呼ばれるものです。瞬間的に過大な応力によって、亀裂が発生した部分です。
従って、O部のき裂発生起点近傍では、D部のラチェットマークの有無や、き裂の数、長さなどの情報により、応力集中の有無や、負荷応力の大小がおおよそ推定できます。

図4.4.3 疲労破壊破面の模式図

 

3. 材料の切欠き感度による破面形態の違い

材料の切欠き感度は、き裂発生起点近傍とき裂進展領域の破面形態に大きく影響します。図4.4.4は切欠き感度が疲労き裂破面に及ぼす影響を模式的に示します。

図4.4.4 疲労き裂破面に及ぼす切欠き感度の影響

(1)引張強さの大きい高張力鋼は、切欠き感度が高い材料です。最表面に生じたき裂が、急速に内部に広がります(図4.4.4(a))。
(2)引張強さが小さい軟鋼や焼なまし材は、切欠き感度が低い材料です。この場合、最表面で塑性変形が生じてしまい、それが内部に拡大する傾向があります(図4.4.4(b))。
破面の疲労破壊進展領域のビーチマークの領域が小さく、最終破断部の近傍では逆向きの進展模様になる場合(図4.4.4(a))がありますので、き裂の進展方向を間違えないようにしなければなりません。

4. 応力集中と負荷応力の大小による破面形態の相違

シャフトのような段付き回転軸が破損した場合、段付き部の形状によっても、破面の模様は変化します。図4.4.5は、段付き部である応力集中部に鋭い切欠きがあるか否かによって、破面形態が異なることを示したものです。

図4.4.5 応力集中と負荷応力の大小による破面形態の相違

(1)鋭い切欠きがあり、応力集中部が存在する場合、負荷応力の大小にも影響されますが、一般的には外周部の複数個所から同時に亀裂が発生して、内部に向かって進展します。き裂発生起点部は、軸方向に対して直角ではなく40~45°のせん断に近い角度で生じます。

(2)切欠きが小さく応力集中部が小さい場合、き裂発生起点の数も少なく、負荷応力が小さい場合は最終破断部の位置が外周近くになります。

すなわち、き裂発生起点の数、および最終破断部の位置などによって、切欠き感受性や、負荷応力の大きさなどを推定できます。
目安としては、最終破断部が中央部付近のある場合は、破壊までの繰返し数は3×105回程度であり、
外周部に存在する場合は、1×106回以上と考えても良いといわれています。

図4.4.6に、いろいろな破面形態を、負荷応力の方向、大きさ、切欠きの有無により、分類されたものを示します。

図4.4.6 負荷応力と形状の種類と破面形態との関係

5. 表面硬化材の破面形態

表面硬化処理材(高周波焼入れ、浸炭処理、窒化処理など)の場合は、硬化層深さや、負荷応力の大きさ、材料表面の残留応力などの違いにより、疲労き裂発生起点が、表面ではなく内部に認められることがあります。このように内部にあるき裂発生起点をフィシュアイ(魚の目)破面といいます。このき裂の起点には、非金属介在物が関与している場合が多いです(図4.4.7)。

図4.4.7 フィッシュアイ破面

図4.4.8に、表面硬化材における平滑材の場合のき裂発生機構を示します。硬化層厚さの大小、負荷応力の大きさなどによって、き裂発生起点が表面か、内部かが決まることが理解できます。
切欠きがある場合は、負荷応力分布を考える際、応力集中の影響を考慮する必要がありますが、ほぼ平滑材の場合と同様と考えられます。

図4.4.8 表面硬化材における平滑材の場合のき裂発生機構

 

6.き裂発生寿命とき裂進展速度

部材に繰返し応力が作用すると、通常の場合は最大せん断応力を受ける表面に亀裂が発生します。図4.4.9に、き裂発生までの寿命とき裂発展速度との関係を模式的に示したものです。大きく4種類に分類されます。
A:き裂発生が速く、進展速度も速い場合。
B:き裂発生が速く、進展速度が遅い場合。
C:き裂発生が比較的遅く、進展速度が速い場合。
D:き裂発生が遅く、進展速度も遅い場合。

であり、それぞれ破面上には異なった模様が現れます。

 

図4.4.9 き裂発生と伝播速度との関係

マクロ的な観察では、
Aの場合、疲労き裂進展領域が少なく、静的破壊による最終破断部の面積が多く、比較的凹凸が激しく粗い様相があります。
Bの場合、疲労き裂進展領域が広く平坦で細かく、最終破断部の面積が少ないです。
Cの場合、Aに類似した破面模様になります。
Dの場合、Bに類似した破面模様になります。

(1)き裂発生に関与する因子は、表面粗さや材料の降伏強度、表面残留応力です。もちろん負荷応力の大小も寄与します。
(2)き裂進展速度に関与する因子は、主として金属組織のマトリックス(部材内部の強度)です。き裂進展速度が遅くなる要因は、表面に応力集中源になる打痕や傷が無く、降伏強度が高く、圧縮残留応力が大きいほど、また結晶粒度が小さく、非金属介在物も少なく、金属組織が均一な組織であることです。

7. 疲労強度に及ぼす諸因子

部材の破損は、ほとんどの場合繰返し荷重による疲労破壊です。破壊に及ぼす要因としては、材料、設計、加工、使用環境など様々なものが考えられます。通常は、単一の要因で破壊に至ることはまれで、通常は複数の要因が関与します。
疲労破壊に及ぼす要因について概要を説明します。

(1)応力負荷条件

一定応力と比較して、変動応力が作用する方が破壊に至る時間が短くなります。

(2)切欠き

実際、筆者が観察した少数例でも、き裂発生起点は切欠き要素になっている場合がほとんどです。応力が作用する部分が、応力集中部かどうかでき裂発生寿命が左右されます。
き裂発生は、原子レベルではじまるので、どんな小さい切欠き(傷)でも、応力が集中する部位になり、き裂発生源になります。
疲労破壊に対する抵抗を高めるには、最大せん断応力が作用する表面は、できる限り滑らかに製作して切欠きの原因となる凹凸をできるだけ避けるとともに、バイト目等の加工痕についても十分に注意することが必要です。

(3)平均応力と残留応力

平均応力と残留応力とはともに、き裂発生までの寿命に大きく影響を与えます。
部材に作用する応力には、外部からの曲げや引張による外部応力と、例えば、熱膨張で部材が伸縮する際に発生する内部応力があります。外部応力、内部応力とも、いずれの場合も応力には引張応力と圧縮応力とがあります。このうちき裂発生をもたらすのは、引張応力の方です。圧縮応力で部材が破壊することはありません。

ここで平均応力とは、部材に元から付加されている応力で、例えば2つの部材がボルトとナットとで締結されている場合、その部材にはボルトの締付け力により既に応力が負荷されている状態です。この負荷されている応力を平均応力といいます。従って、締付ける応力が大きいほど平均応力は大きくなります。
この締付け応力が負荷された状態に、外部応力が作用すると、場合によっては、降伏点以上の応力が作用した状態になり、亀裂が発生します。

残留応力についても、平均応力と同じ考え方ができます。残留応力は無負荷の状態で既に部材に存在する応力です。平均応力にしても残留応力にしても、表面に作用する応力は圧縮方向に大きい方が、き裂の発生が遅延されます。

(4)繰返し速度

繰返し速度の大小は、破損に至る寿命に影響します。
低サイクルの場合、塑性疲労と呼ばれます。繰返し負荷速度の影響、すなわち運転休止時間が大きく影響します。応力が負荷されることによる加工硬化現象が、寿命に対してプラス側、マイナス側のどちらに作用するか、また休止時間が長くなると、腐食環境の場合ピッチングなどが生じます。これが応力集中源になる、ならないによって、大きく左右されます。
高サイクルの場合は、100~5×10min-1回の程度では、破損に至る寿命に顕著な差異は生じないと考えられます。

(5)組織、結晶粒度

金属組織の種類や結晶粒度の大きさは、き裂の進展速度に大きく影響します。

1)金属組織による影響

引張強さσBが11MPaのレベルまでは、疲労限度をσWとすると、金属組織の種類にかかわらずσWBはほぼ0.5の関係が成立します。引張強さが更に大きくなると、組織の不均一性や不純物元素に極めて敏感に影響し、σWBの値は大きく低下したり、変動するようになります。

2)脱炭層の影響
鉄鋼材料が、熱間圧延や熱間鍛造などの加熱状態での処理を受けると、鋼中の炭素(C)と雰囲気中の酸素(O)とが化合して、表面部の炭素量が減少して脱炭現象が生じます。鋼が脱炭すると、疲労強さに影響を与え、疲労限度が著しく低下します。

図4.4.10は、機械構造用炭素鋼 S55Cについて、脱炭層深さが回転曲げ疲労限度低下に及ぼす影響を示します。焼ならし材、調質材とも脱炭層がわずかに生じるだけで、著しく疲労限度が低下します。

図4.4.10 脱炭層の深さが疲労限度に及ぼす影響

疲労強さを要求される鋼の部材については、脱炭層が発生することを防止したり、脱炭層を除去することが必要です。

(6)方向性

負荷される主応力の方向と、部材材料の圧延方向の差異により、疲労限の値は異なります。
図4.4.11は、材料の圧延方向(フローライン)に対して採取方向と疲労限度との関係について示します。
主応力が負荷される方向が、部材材料の圧延方向に等しい方が、平滑材、切欠き材とも高い疲労限度を示します。

図4.4.11 疲労強度と圧延材料の採取方向との関係

(7)内部欠陥

通常、鉄鋼材料は、非金属介在物が含まれていたり、偏析が存在します。また、鋼の生産方法によってはリムド鋼のようにインゴットの製造時に生じた空洞(キャビティ)が圧延、鍛造などの熱間加工でも、圧着されずに残ったり、鋼材の製造中に熱処理等で割れ状の欠陥が生じたりします。非金属介在物が疲労に及ぼす影響は一種の切欠き効果になります。特に高張力鋼などの炭素当量の大きい鋼種は影響が大きいです。
通常のインゴットの偏析部は炭素(C)や、リン(P)、シリコン(Si)、マンガン(Mn)などの元素の濃度が高くなっています。これらの元素は、何れも硬さが他の個所と比較して硬くなっており、場合によっては組織も変化します。また、偏析部は非金属介在物の量も多く、大きさも大きいです。この他、偏析部については材料の質量効果も考慮する必要があります。

また、鋳物やダイカスト製品などについても、鋳造法案や鋳造技術が不適切な場合は、破壊に至らなくても、疲労強度にはバラツキが多くなります。

(8)腐食

腐食の影響について、腐食された後に繰返し応力を受ける場合と、腐食雰囲気中で腐食を受けながら繰返し応力を受ける場合とが考えられます。

1)腐食された後に繰返し応力を受ける場合
腐食によって部材表面が粗くなったり、孔食や粒界腐食などの生成により応力集中部が生じ、疲労強度が著しく低下します。

2)腐食雰囲気中で腐食を受けながら繰返し応力を受ける場合
この状態は、腐食疲労と呼ばれます。一般に金属が繰返し応力を受けると、表面にすべり帯が発生、発達します。腐食はこのすべり帯に優先的に作用します。すべりにより金属の新生面が現れた部分と、すべりが起こっていない部分との間に、局部電池が形成され腐食ピットを生じます。
一般に、金属の表面が、腐食性の雰囲気中に置かれた場合、表面に皮膜が形成されて、腐食速度は次第に低下します。しかし、繰返し応力により生じるひずみにより、皮膜は破壊と修復とを繰り返すので腐食速度は低下することなく、大きな腐食速度のままで推移します。例えば、鉄鋼の腐食環境下での疲労では、S-N曲線に水平部が現れることなく、疲労限度が存在しない場合が多いです。

(9)表面処理

めっきの種類やめっき後のベーキング処理の有無などによっても、材料の機械的性質や、熱的性質、化学的性質が異なるので、疲労強度についても影響します。

 

 

[リンク先]
金属破断面の見方INDEX

4. マクロフラクトグラフィ(巨視的な破面観察)
 4.1 マクロ的な破面観察の重要性
 4.2 静的荷重による破面
 4.3 衝撃荷重による破面
 4.4 繰返し荷重による破面

 

参考文献
100事例でわかる 機械部品の疲労破壊・破断面の見方  藤木榮 日刊工業新聞社

フラクトグラフィとその応用   小寺沢良一   日刊工業新聞社
機械部品の破損解析   長岡金吾   工学図書
Failure Analysis and Prevention  ASM Handbook Vol.11   ASM International

Fractography   ASM Handbook Vol.12   ASM International
金属疲労の基礎知識  中村孝  鋳造工学Vol79No2

 

引用図表
[図4.4.1] 繰返し応力による表面き裂の形成   機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図4.4.2] 疲労き裂の発生と進展の挙動    金属疲労の基礎知識
[図4.4.3] 疲労破壊破面の模式図         機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図4.4.4] 疲労き裂は面に及ぼす切欠き感度の影響  機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図4.4.5] 応力集中と負荷応力の大小による破面形態の相違  機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図4.4.6] 負荷応力および形状の種類と破面形態との関係   Failure Analysis and Prevention  ASM Handbook Vol.11
[図4.4.7] フィシュアイ破面              機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図4.4.8] 表面硬化材における平滑材の場合のき裂発生機構  機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図4.4.9] き裂発生と伝播速度との関係     機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図4.4.10] 脱炭層の深さが疲労限度に及ぼす影響     不明
[図4.4.11] 疲労強度と圧延材料の採取方向との関係    機械部品の疲労破壊・破断面の見方

 

ORG: 2016/12/24
correct: 2017/5/18
REV: 2019/3/14