4.5.2 油圧フィルタ

4.5.2 油圧フィルタ(hydraulic filter)

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油圧作動油の汚染管理(contamination control)は、油圧系の信頼性や寿命に大きく影響します。油圧系の高速化や小型軽量化が進んでいますが、長期間にわたって正常な運転状態を維持するために、油圧作動油の清浄度を確保する必要があります。そのために適切な仕様のフィルタを適正な位置に適用することが重要です。

 

1. フィルタの種類

作動油の清浄度を確保するための使用するフィルタは、以下の3種類に分類できます。

(1) ラインフィルタ

ポンプの吸込ラインに設けられてポンプへのコンタミナントの侵入を防ぐために設けられるサクションラインフィルタ(suction line filter)や、ポンプの吐出側から動作部の向かうラインに設置して、アクチュエータであるシリンダや制御弁などの動作部を保護するためのインラインフィルタ(inline filter)、動作部からタンクに戻るラインに設置して動作部で発生するコンタミナントやシリンダロッドなどのシール部から侵入する外部からの異物を除去して、タンク内にコンタミナントが侵入することを防ぐリターンラインフィルタ(return line filter)などがあります。

図4.5.2.1 にインラインフィルタの例を、図4.5.2.2にリターンラインフィルタの例を示します。

図4.5.2.1 インラインフィルタの例

図4.5.2.2 リターンラインフィルタの例

(2)タンクフィルタ

サクションフィルタはタンク内のポンプ吸込口に設置するフィルタです。タンク内のある比較的大きいコンタミナントがポンプに吸い込まれるのを防いで、ポンプを保護します。目詰まりなどしてキャビテーションを起こさないように、金網製など比較的目の粗いフィルタです。
また、タンクの空気口(エアブリーザ)や給油口(給油口ブリーザ)に設置するフィルタをブリーザといいます。吸排気時や給油時に、外部の塵埃や異物などがタンク内に侵入しないようにする役割があります。

(3)オフラインフィルタ

タンク内の油圧作動油を、専用のポンプとフィルタでろ過して清浄化する目的で設ける、作動油清浄化専用のフィルタ回路です。より高い清浄度が要求される場合やラインフィルタの寿命を延ばしたい場合、ラインフィルタを通過する作動油の油量が少ない場合に設けられます。

 

2. フィルタエレメント

フィルタエレメントはろ過形式として、次の3種類に大別されます。

(1)表面ろ過

ノッチワイヤや、巻き線、積層金属板、金網などを用いる。

(2)内部ろ過

フェルトや、樹脂、焼結金属を用いる。

(3)中間ろ過

セルロース繊維やガラス繊維、合成繊維で出来たろ紙に、フェノール樹脂やエポキシ樹脂を含浸処理してプリーツ成形したものを用いる。

 

一般に、表面ろ過は作動油は外周から内側に流れ、汚染粒子はエレメントの表面のみで捕捉されます。捕捉される量は少なく、30μm以下のろ過粒度のものを製作することは難しいですが、細く可能な粒子の最小径が決まり、洗浄により反復使用が可能で、ろ材の脱落が無く圧力損失も比較的小さくなります。
内部ろ過の場合、汚染粒子は厚みを持つエレメントの内部で捕捉されます。捕捉量は大きく寿命も長いですが、ろ過粒度の規定ができない、ろ材が脱落する懸念、圧力損失が比較的大きいなどの短所があります。
中間ろ過は、表面ろ過と内部ろ過との中間の性質を持ち、ろ過面積が大きく、捕捉できる粒子についてもある程度限定できるため、小型軽量なフィルタの製作が可能です。

 

3. アクセサリ

フィルタはろ過を行うエレメントと、エレメントの保護とエレメントに作動油を導通させるためのハウジング(またはケース)とが基本構成ですが、アクセサリが付属していることが多いです。

アクセサリには、差圧指示器、バイパス弁、チェック弁ストップ弁などがあります。必要に応じてフィルタハウジングに内蔵される場合が多いです。
差圧指示器は、エレメントの交換時期を知らせるものです。フロート式で色の変化で目詰まりを知らせるものや、電気スイッチにより機械を停止させたり、ランプの点灯で知らせるものもあります。
バイパス弁は、エレメントの目詰まりや低温始動時の異常昇圧により、エレメントが破損して、捕捉していた大量の異物が放出されるのを防ぎます。
チェック弁は、作動油がエレメントに逆方向から流入しないように、ストップ弁は、エレメント交換時に作動油の漏洩を最小限に抑えて、エレメントの交換を容易にするために設けられる場合があります。

 

4. 油圧フィルタのろ過性能

油圧フィルタのろ過性能は、JIS B8356-8 「油圧用フィルタ性能評価方法-第8部:フィルタエレメントのろ過性能試験(マルチパステスト法)」に規定するマルチパステストにより評価されます。

評価方法は、フィルタの規定差圧(最終アッセンブリ差圧)に達するまでの試験時間を10等分して、10点の試験時間を定めます。これらの10点の試験時間における、粒子径ごとのフィルタの入口及び出口の平均粒子数に基づいて各時間ごとのろ過比\( \beta_{ x,t } \) より、各粒子径ごとの平均ろ過比\( \beta_{ x(c) } \) を求めます。

\( \beta_{ x(c) } = \displaystyle\frac{ A_{ u、x }}{ A_{ d、x }} \)

\( A_{ u、x } \): フィルタ入口側で計測された粒子径\( x \mu m(c) \) 以上の平均粒子数(個/ml)
\( A_{ d、x } \): フィルタ出口側で計測された粒子径\( x \mu m(c) \) 以上の平均粒子数(個/ml)

 

平均ろ過比は、フィルタがコンタミナント粒子を除去する能力を示します。この値が大きいほど粒子除去能力に優れます。
例えば、\( \beta_{ 10(c) } = 200 \) のフィルタは、\( 10 \mu m(c) \) 以上の粒子を99.5%除去できることを示し、\( \beta_{ 3(c) } = 2 \)のフィルタは\( 3 \mu m(c) \) 以上の粒子を50%除去できることを意味します。

マルチパステストについては、以前管理者が記述したコンテンツがありますので、リンク先を下記に示します。ご参照頂ければ幸いです。

マルチパステスト

 

 

参考文献
油圧教本 増補改訂版 日刊工業新聞社
実用油圧ポケットブック2012   (一社)日本フルードパワー工業会
機械工学便覧 第6版 ɤ02-5-02章    日本機械学会
Fluid Power Engineering  M. Galal Rabie, Ph.D.      McGraw-Hill

 

引用図表
図4.5.2.1 インラインフィルタの例    Fluid Power engineering
図4.5.2.2 リターンラインフィルタの例    Fluid Power engineering

 

ORG: 2020/12/30