時効

時効(aging):(熱処理用語)JIK
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0. はじめに
時効(エイジング、aging)とは、金属材料において、一定の温度環境下(特定温度での保持や、室温放置など)で、時間の経過とともに組織や性質が変化する現象、またはその変化を意図的に利用した熱処理工程を指します。この現象は、主に過飽和固溶体からの析出物形成によって引き起こされます。
特にアルミニウム合金や銅合金、チタン合金、さらには一部の鋼材などで広く用いられる処理です。
1. 時効のメカニズム
金属材料、特にアルミニウム合金や銅合金、一部のステンレス鋼などで、材料固有の高温まで加熱後、急冷することで、その元素が本来溶解しきれない量まで固溶した状態(過飽和固溶体)を作り出すことができます。この状態の材料を、室温または比較的低い温度で保持すると、過飽和な状態を解消しようとして、固溶していた原子が徐々に集まり、微細な粒子(析出物)として晶出し始めます。
この析出物が材料中に均一に分散することで、転位(結晶中の原子配列のズレ)の動きを阻害し、材料の塑性変形に対する抵抗が増加します。その結果、材料の硬さや引張強さが増加します。
2. 時効の種類
時効には、大きく分けて「自然時効」と「人工時効」の2種類があります。
・ 自然時効(Natural Aging):
急冷後、室温で長時間(数時間~数日)放置することによって材料の特性が変化する現象です。代表的な例として、Al-Cu系のアルミニウム合金(2000系;ジュラルミン、超ジュラルミン)は、溶体化処理(高温で元素を固溶させる処理)後、室温に置いておくだけで徐々に硬化していきます(自然時効)。これは、原子の拡散が室温でもゆっくりと進行し、微細な析出物が形成されるためです。
・ 人工時効(Artificial Aging):
急冷後、室温よりも高い温度(100~200℃程度)で、短時間(数十分~数時間)加熱保持することによって、特性変化を促進させる現象です。自然時効よりもはるかに速く、そしてより高い硬さや強度を得ることができます。加熱することで原子の拡散が活発になり、析出物の成長が促進されるため、効率的に時効硬化を進めることができます。加熱温度と保持時間は、材料の種類や目指す特性によって厳密に管理されます。
工業的には、品質の安定性や処理時間の短縮を目的として、人工時効が多く用いられます。
3. 時効による変化
時効により材料内部に析出物(precipitate)が生成され、これが転位の移動を妨げることで、強度や硬さが向上します。一方で、時効処理が進みすぎると「過時効(over aging)」となり、析出物が粗大化してかえって硬さや機械的強度が低下する場合があります。そのため、目的に応じた温度と時間の厳密な管理が重要です。

図 Al-Cu合金の時効効果曲線 出典:(公社)日本鋳造工学会HP
4. 時効処理の工程
時効処理は通常、以下のような工程で進められます。
(1)溶体化処理: 合金を高温で加熱し、成分を均一に固溶させる。
(2)急冷: 急速に冷却することで、溶質原子を過飽和状態で保持する。
(3)時効処理: 適切な温度で一定時間保持し、析出物を成長させて強度を高める。
図 アルミ固溶化・時効処理炉 出典:株式会社トウネツ様HP
5. 工業的な応用
時効処理は、自動車部品、航空機材料、建築材料、電子機器などの製造において、軽量化と高強度化の両立が求められる、幅広い分野で活用されています。
特にアルミニウム合金では、2000系(Al-Cu系)、6000系(Al-Mg-Si系)、7000系(Al-Zn-Mg系)などで時効硬化性が利用されています。
また、ステンレス鋼の一部や、チタン合金、銅合金においても時効現象を利用した強化が行われています。
参考文献
エンジニアのためのアルミニウム合金の基礎 長岡技術科学大学 本間研究室HP
Accelerated aging of aluminum alloys Christoffer Fransson Faculty of Technology and Science Materials Engineering
誰でも分かる鋳物基礎講座 里 達雄 東京工業大学 公益社団法⼈ ⽇本鋳造⼯学会関東⽀部
引用図表
図 Al-Cu合金の時効効果曲線 出典:(公社)日本鋳造工学会HP
図 アルミ固溶化・時効処理炉 出典:株式会社トウネツ様HP
ORG:2025/06/03
