7. 破面解析用語集
7. 破面解析用語集(Fracture surface analysis glossary)
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ア行
延性破壊
応力拡大係数(stress intensity factor)
応力拡大係数は、破壊力学の基本物理量の1つで、き裂や欠陥が存在する実際の材料の強度評価に用いられます。線形弾性力学から導かれるき裂先端付近の応力の強さを表します。 き裂に応力が負荷される場合の変位様式(モード)は次の3つに分類されます。
モードⅠ:面内開口形
モードⅡ:面内せん断形
モードⅢ:面外せん断形
図 き裂の変形様式
ここで、面内、面外の意味は、き裂進展方向をx軸、き裂面に垂直にy軸を設定した時のx-y平面を基準とする呼び方になります。 き裂による変形は、これら3つのモードが単独または重ね合わされたものになります。応力拡大係数は、それぞれのモードに対して個別に定義され、表記はKⅠ,KⅡ,KⅢと表記されます。 無限板にある貫通き裂では、それぞれのモードの応力拡大係数は以下のように定義されます。
応力腐食割れ(stress corrosion cracking)
応力腐食割れとは、部材に引張応力が加わった状態で、特定の腐食環境にさらされると割れが発生、進行する現象です。引張応力は、機械加工や溶接、熱処理などで発生する残留応力や使用時に加わる応力が対象となります。応力腐食割れは、小さな引張応力でも発生します。例えば、引張強さの10%程度の小さい引張応力でも応力腐食割れが発生します。
■ 応力腐食割れの発生機構
応力腐食割れは,腐食環境、材料劣化、応力の3つの因子が相乗的に働くことにより生じます。まず腐食環境に金属材料が置かれて、その表面で腐食反応が起こります。この状態が、腐食の形態でとどまるか、応力腐食割れになるのかは、残りの因子の相乗作用によります。
環境環境が過酷でも、腐食作用がある部分的に集中的に作用するのでなければ、均質か不均質かは別にして全面腐食の状態になり、材料は減肉を生じるに留まります。
表面に酸化皮膜が形成される不動態金属の場合は、有害イオンにより孔食が生じます。しかし応力の作用が小さければ、そのままの状態でとどまってき裂には至りません。しかし応力集中やひずみの集中が生じると、この部分に作用する集中的な高応力により、微小領域の腐食が促進されます。微小領域への腐食の集中は不動態被膜の強さにより腐食反応の進展が左右されます。
すなわち、不動態被膜が十分に安定な場合は、不動態が局所的に破壊されても、すぐに修復されて、再度不動態化して腐食反応が停止します。一方、不動態被膜が不安定な場合は、全面腐食となり、腐食の集中は生じません。
一番問題があるのは、中間的な性質を持つ場合で、破壊された不動態被膜が、不完全に補修され、金属表面を不動態皮膜で完全には覆いきれない場合、著しく腐食反応が小領域に起こり腐食孔となり、さらに反応が進むと腐食孔が鋭い先端を持つようぬなり、応力集中を生じて腐食が局部的に進行します。この場合、き裂が形成されて応力腐食割れになります。
また、水素脆化による応力腐食の場合も、腐食反応により金属表面に鋭い応力集中個所が生じると、その個所の原子格子が拡張して、腐食反応で生じた水素が格子間に集まりやすくなります。原子が体心立方金属や稠密六方金属の場合、水素脆化を生じます。水素脆化の割れは非常に鋭く、応力集中が著しくなり、さらに、さらに水素がその部分に捕集されやすくなります。このような場合にも、き裂は安定的に成長して、水素脆化型の応力腐食割れを生じます。
■ 応力腐食割れの事例
応力腐食割れを生じやすい材料として、オーステナイトステンレス鋼(SUS304、SUS316など)や黄銅が挙げられます。オーステナイト系ステンレス鋼は塩素雰囲気で、黄銅はアンモニア雰囲気で、応力腐食割れを生じ安くなります。
オーステナイト系ステンレス鋼の場合、溶接など材料に入熱があると、結晶粒界にクロム炭化物が析出して鋭敏化したり、深絞りや曲げ加工など強度の高い加工を行うとマルテンサイト化して、通常の状態より応力腐食割れを起こしやすくなります。
また、黄銅がアンモニア雰囲気中で割れを発生する現象は、古くから遅れ破壊として知られています。 割れに至るメカニズムについては、調べた限りではいろいろな説があり、これはといったものを見つけることができませんでした。
応力腐食割れの事例として、オーステナイト系ステンレス鋼のSUS304の試料を塩化マグネシウム(MgCl2)で煮沸したものに発生した応力腐食割れを発生した事例を示します。脆性破壊の特徴である粒界破面が認められます。
図 応力腐食割れ(SUS304)
参考文献
接合・溶接技術Q&A1000 (社)日本溶接協会/溶接情報センターHP
引用図表
図 応力腐食割れ(SUS304) Fractography ASM Handbook Vol.12
ORG: 2018/2/10
遅れ破壊(delayed fracture)
遅れ破壊は、高力ボルトなどの高強度鋼部品が、静的な負荷応力を受けた状態で、ある時間経過後、突然脆性的に破壊する現象。外見上はほとんど塑性変形をともなわないで破壊します。
遅れ破壊は、材料,環境,応力とがお互いに影響して発生する環境破壊の一形態です。鉄原子格子への水素の侵入による材質劣化によるものと考えられています。
製造時に起因するものとして、電気めっき後の不適切なベーキング処理による不完全な脱水素が事例としてよく挙げられています。また、部品の使用されている間に部材に水素が侵入して遅れ破壊を起こす場合があります。1980年代に頻発した高力ボルトの遅れ破壊などが挙げられます。
遅れ破壊は、ねじ部品、ばね、歯車などの機械構造用部品を高強度化する際に常に留意しなければならない現象です。
遅れ破壊の一般的特徴として、
(1)引張強度の大きいものほど、遅れ破壊に対して著しく感受性が増加します。ボルトの引張強さが、125kgf/mm2(1226N/mm2)を超えるものは、自然大気中においても潜在的な遅れ破壊への危険性があります。
(2)常温付近で発生します。しかも100℃(373K)近傍までは、温度が高くなるほど感受性は増加します。
(3)クリープ破壊と異なり、マクロ的には大きな塑性変形を伴わないで破壊します。
(4)疲労破壊と異なり、静荷重のもとで発生します。
(5)降伏強さよりも、かなり低い負荷応力でも発生します。
参考文献
ボルトの遅れ破壊 中里 福和 鉄と鋼 vol.88 No.10 (2002)
カ行
貝殻模様(clam-shell mark)
繰返し応力による疲労破壊の破面に現れるマクロ的に観察される模様。ビーチマークともいわれます。実際の疲労破面においては、繰返し負荷の大きさが一定では無いので、その時点のき裂前縁の位置が破面上に縞模様として残されたものです。部材の破壊が疲労により生じたことを示すとともに、き裂伝ぱ方向はこの模様に垂直ですから、破壊の伝ぱ経路がわかります。
環境破壊
擬へき開破壊
クリープ破壊
研削割れ
サ行
水素脆性割れ
ストライエーション(striation) :← リンク先に移動します。
脆性破壊
双晶変形(twin deformation)
双晶変形は、金属が変形する機構の一つで、格子面上における原子のずれによる双晶発生します。一般的な変形機構であるすべりと比較して、格子面上における金属が変形する機構の一つです。
双晶による変形機構は、特定の結晶構造(体心立方結晶、稠密六方結晶)に起こりやすいとか、ごく低温状態(マイナス百数十度)、あるいは衝撃的な変形速度が作用するなど、限られた場合の起こります。
双晶変形の例として、面心立方格子に衝撃的な変形速度が与えられた場合を示します。図に示すようにある原子面を境にして、各々の原子が矢印に示す一様なずれを起こすことにより移動して結晶格子の向きを変えてしまいます。ただ原子のずれはせいぜい一原子距離までの距離に収まっています。
図 双晶変形の説明図
ずれた部分は、残りの移動していない結晶部分との境界面に対しては、鏡に写した像のような対照的な位置にまで配列します。この鏡の面に相当する格子面を双晶面と呼びます。双晶面および双方の方向は、結晶構造が同じであれば同一面および同一方向をとり、金属の種類によりません(下表参照)。
表 いろいろな金属の双晶面と双晶
双晶にはいくつかの種類があります。上に示した塑性変形により形成される変形双晶(あるいは機械的双晶(mechanical twin)ともいいます)の他に、高温に加熱した際に起こる再結晶(結晶粒界の移動)に伴い形成される焼きなまし双晶(annealing twin)、焼入れ時のように変態する際に形成される変態双晶(transformation twin)、気相や液相から結晶成長の過程で形成される成長双晶(growth twin)があります。
引用文献
若い技術者のための機械・金属材料 丸善
引用図表
図 双晶変形の説明図 若い技術者のための機械・金属材料
表 いろいろな金属の双晶面と双晶 若い技術者のための機械・金属材料
タ行
タイヤトラック(tire tracks)
タング(tongue)
脆性破壊の典型的な場合は、へき開破壊で、塑性変形をほとんど伴わないでへき開面で破壊します。破面はへき開ファセット(cleavage facet:図)と呼ばれる結晶粒程度の大きさの最小破面単位よりなります。破壊は一つのへき開面だけでは収まらずに、平行ないくつかのへき開面にまたがります。そのためファセット面にはへき開段(cleavage step)が生じます。
へき開段は、き裂が伝ぱするにつ入れて合流してリバーパターン(river pattern:図) と呼ばれる、川状の模様が発生し、き裂の進展につれて合流するので、き裂の伝ぱ方向がわかります。
隣接する結晶粒には方位差があるため、リバーパターンは粒界に発生することが多いです。
このき裂伝ぱの際、機械的双晶が形成されますが、それによりタング(tongue:図)と呼ばれる、舌状模様が観察されます。
ディンプル(dimple) New:2023/09/14
ナ行
ハ行
パリス則(Paris’ law) :← リンク先に移動します。
パリス則は、金属材料の疲労き裂進展速度と応力拡大係数の関係を定式化した経験式です。広範囲の材料や負荷様式において成立することが実験的に確認されています。
ビーチマーク(beach mark) :←リンク先に移動します。
疲労破壊
プラトー(plateau)
へき開破壊
へき開ファセット
ボイド(void)
マ行
ミラー指数(Miller index)
ヤ行
焼き戻し脆化
焼割れ
溶接割れ
溶融金属脆化
ラ行
粒界破壊(Intergranular fracture)
粒界破壊は、金属材料の結晶粒界に沿って起こる破壊現象です。 金属材料は、多数の結晶粒が集まってできており、粒界はその境界線になります。 一般的に、粒界は不純物や介在物が偏析しやすく、結晶粒内部(粒内)に比べて強度や延性が低く、応力集中しやすくなっています。そのため、負荷応力が粒界の結合力よりも大きくなると、粒界に沿って破壊が生じます。腐食や高温環境などの外部環境も粒界破壊を促進します。
粒界破壊の破面は、亀裂の分岐や微視的な凹凸が観察され、脆性破壊の特徴を持ちます。 脆性破壊は、破壊に至るまでの変形量が小さく、急激に破壊が進行するため、大きな事故につながる危険性がある。この破壊を防止するためには、材料の純度向上や適切な熱処理、環境管理が重要です。
粒内破壊(Intragranular fracture)
粒内破壊とは、材料の結晶粒の内部で起こる破壊のことです。粒内破壊に対応する破壊は、結晶粒界に沿って起こる粒界破壊です。
粒内破壊には、擬へき開破面と、ディンプルパターンを呈する延性破面があります。
擬へき開破面は、応力腐食割れの破面として観察されることが多く、密接な関連性があります。
延性破面は、材料が引張応力を受けている場合に発生する可能性があります。 延性破面には、等軸ディンプルと伸長ディンプルとがあります。等軸ディンプルは、材料に均一な引張力がかかっていることを示唆しており、伸長ディンプルは、せん断方向または引き裂き方向の力がかかっていることを示します。
ワ行
アルファベット
arrest line
artifact of reprica
beach mark
chevron pattern
chizel point
clam-shell mark
coalesence
creep cavities
cleavage facet
cleavage step
dimple
fan-like cleavage
fan-shaped pattern
fibrous fracture
fish eye
geometric pattern
glide
hair line
herringbone pattern
mud crack pattern
plateau
quasi-cleavage
radial mark
ripple
river pattern
river-like pattern
rock-candy appearance
rock-candy pattern
rub mark
serpentine
shear lip
streched zone
stretching
striation
striation-like pattern
structural pattern
tear ridge
tire tracks
tongue
wallners line
参考文献(特に注記が無い限り、上記の記述は下記の文献によります。)
100事例でわかる 機械部品の疲労破壊・破断面の見方 藤木榮 日刊工業新聞社
フラクトグラフィとその応用 小寺沢良一 日刊工業新聞社
機械部品の破損解析 長岡金吾 工学図書
Fractography ASM Handbook Vol.12 ASM International
Add:2018/2/10
Add:2018/2/8
Add:2018/2/6
ORG:2018/2/4