2.8 コリオリ流量計(Coriolis Flowmeter)

2.8 コリオリ流量計(Coriolis Flowmeter)

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コリオリ流量計は、コリオリ力を利用して質量流量を測定する流量計です。JIS B 7555-2003に規格されています。

1. 原理

1.1 コリオリ力

コリオリ力は、回転座標系と静止座標系とのずれにより発生する力です。
図2.8.1に示すように、回転円盤上の中心と外径とに、それぞれ人が立っているとします。中心に立っている人Aさんから、外径にいる人Bさんに向かってボールを投げたとします。

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円板を回転していない場合は、Aさんが投げたボールは、まっすぐ外周側に運動して、Bさんがキャッチできます。
円板が、回転しているとどうなるでしょうか。Aさんの手からボールが離れた瞬間からは、ボールは離れた瞬間に立っているBさんの方向にまっすぐに進んでいきます。一方、Bさんは円板上に乗っているので、ボールが円板の外周に到達する時点では、その時間だけ回転した場所にいるので、Bさんはボールを受けることができません。Bさんからは見かけ上、ボールが曲がっているように見えます。
このコリオリ力は回転座標のあらゆる地点で等しく作用します。AさんがBさんに向かって投げたボールは、回転中心でも円板の外周でも同じ大きさです。コリオリ力は物体の運動方向を変えるだけの力です。

回転座標系では、コリオリ力の他に遠心力も作用します。
コリオリ力が回転中心からの距離によらず一定の値を取るのに対して、遠心力は回転中心からの距離によって大きさが変化します。回転中心から離れてるほど遠心力は大きくなります。
もう少し具体的に述べれば、遠心力は回転座標の中心から外の方向を向き、その大きさは中心からの距離に比例するのに対して、コリオリ力は速度ベクトルと垂直な方向(座標の回転方向と逆)を向き、その大きさは速度の大きさに比例します。

1.2 流量計への適用と測定原理

コリオリ力を利用して質量流量を測定する流量計は、当初、図2.8.1の考え方と同様に、流体を回転軸から回転円板に沿わせる構造が考えられました。この構造では、回転する力に対してそれをとどめようとするトルクを測定する方法でした。流体をぐるぐる回転させるのは大がかりであったため、管路の一部を U字状の測定チューブに導き、この部分を前後の管軸の周りに振動させる構造が、1970年代後半にアメリカのマイクロモーション社(Micro Motion)のWiler氏やSmith氏により考案されました。

開発当初は図2.8.2に示す、1 本の U 字管が使用されましたが、設置する場所の振動の影響を受けて出力が不安定となる欠点がありました。そこで、外部振動の影響を取り除くために、測定用のU字管を 2本として、逆位相で振動させる構造が同じくマイクロモーション社によって開発され、はじめて実用に耐えられる流量計となりました(1983年Model D)。

1.3 測定原理

図2.8.2に示す、1本のU 字管の場合について、測定原理を考えましょう。
U字管の上流側半分では、回転軸から離れる方向ですので、外から与える回転振動はコリオリ力を受けて位相が遅れます。下流側半分では流体は回転軸に向かうので位相が進みます。
このコリオリ力を受けると測定チューブにねじれが生じます。このねじれは、質量流量に比例します。
U字管曲がり部の平面内の遠くから、この U 字管の振動をみたとき、強制的な振動にねじれが合わさった振動状態となります。この位相ずれの大きさはコリオリ力に比例するので、管内を流れる流体の質量流量 を求めることができます。

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図2.8.3に、2本のU字管のコリオリ流量計の構造を示します。対向して振動している2本の測定管のねじれの差をとると、2 本を流れる流体の質量流量に比例しますし、信号の大きさは 1 本のほぼ 2 倍得られます。一方、外部からの振動は2 本の測定管に対して同相で入るため、差の信号を取ればキャンセルされます。
2 本を流れる流量は厳密に等しい必要はないが、剛性や固有振動などについて、できるだけ近い 2 本の測定管を選んで製作されます。

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1.4 コリオリ流量計の構造

測定管の材料はステンレス鋼管を用います。振動は測定管中央部に取り付けた電磁石を駆動して発生させます。U 字管の上下流2個所に取り付けた電磁ピックアップコイルからそれぞれの位相を検出します。位相差は非常に小さく、デジタル信号処理で質量流量に変換されます。
できるだけ小さなエネルギーで測定管を振動させる必要があるので、測定管の固有振動数で駆動することが重要です。固有振動数は管内の流体の密度によって変化する性質を利用して、固有振動数から流体の密度を求めることができます。
また振動特性の温度影響を除去するため、測定管の外側に温度センサ(白金抵抗体)が貼り付けられています。したがってコリオリ流量計からは質量流量、密度、体積流量(=質量流量/密度)、温度の4つの信号が得られます。

1.5 適用可能な流体

ほとんどの液体のほかに、最近の機種では高圧の気体も測定できるようになりました。流量計の内部に障害物がないため、スラリーや高粘度の流体に適しています。2 本U字管が開発されて以来、石油化学プラントの各種モノマーや食品プロセスの高粘度流体(マヨネーズなど)に多く採用されてきました。

2. 特徴

2.1 長所

(1)測定原理上、質量流量と密度が直接測定できます。
(2)質量流量、密度、体積流量、温度の4種のプロセス変数が一つの流量計で検出できます。
(3)測定精度が高い。液体の場合、 外乱振動がなく、急激な圧力や温度変化などがない条件下では 0.1%程度の測定精度ももちます。ただ、気体の場合は、密度が小さいため検出すべき位相差が小さくなるので、液体の場合と比較すると5倍以上悪くなります。
(4)高粘性流体、スラリーの流量測定に適しています。
(5)流速分布の影響を受けません。
(6)高圧の気体も測定可能です。高圧の気体であれば、密度が大きくなるので、ある程度の精度で測定可能です。
(7)直管部が不要です。

2.2 短所

(1)主として、口径は 100mm 以下の小口径に限られます。口径が大きくなると価格も非常に高価となるため、口径 10~25mm の範囲がもっとも多く使用されます。
(2)他のタイプの小口径流量計とくらべても高価です。
(3)外部振動の影響を非常に受けやすいので、配管サポートや設置場所に注意が必要です。 とくに1 本の測定管のみで製作されている微小口径の流量計は、設置場所の振動に注意する必要があります。
(4)圧力損失が大きいです。
(5)測定管形状によっては、セルフドレインではない構造もあります。管内から流体が抜けない構造は、食品プロセスに不向きである。食品プロセス用として1本直管の構造が開発されています。

コリオリ流量計の原理について解説した、You tube の動画を示します。

 


関連項目

2.1 差圧式流量計
2.2 電磁流量計
2.3 超音波流量計
2.4 容積流量計
2.5 面積流量計
2.6 タービン流量計
2.7 熱式質量流量計
2.8 コリオリ流量計
2.9 渦流量計
2.10 せきによる開水路流量計

 

 

参考文献
流量計ガイド    黒森健一    e-book
Flow Measurement Handbook Roger C. Baker Cambridge University Press 2000年
機械工学便覧 第6版    日本機械学会

引用図表
図2.8.1 コリオリの力
図2.8.2 1本U字管の測定原理    Flow Measurement Handbook
図2.8.3 2本U時間コリオリ流量計の構造 Micro Motion incorporated Patent

 

Correct:2023/5/12
ORG: 2016/12/4