天然水素

天然水素(Geometric / Natural / Native hydrogen)

 

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1. 天然水素とは

天然⽔素は、石油や天然ガスのように⾃然プロセスによって⽣成され、人の手を加えずに自然に⽔素単体で存在する水素をいいます。水素は原材料や製造工程により色名を用いて故障することにより区別されることがよくおこなわれています(別のコンテンツで、詳しく記述しています。)。天然水素は、ホワイト水素またはゴールド水素と呼ばれることもあります。
そもそも⽔素とは、無⾊透明の気体で、燃やしてもCO2を発⽣しないという特徴を持っています。そのため、クリーンなエネルギーとも言われます。元素の中では最も軽いため⾶散しやすく、他の元素と反応しやすいという特徴もあります。反応しやすいため、地球上では⽔(H2O)やメタン(CH4)をはじめとする化合物の構成元素として存在しており、単体の水素としてまとまった量が存在するとは考えられていませんでした。
そのため、脱炭素への次世代エネルギーとして⽔素が注⽬されていますが、⽔を電気分解したり、天然ガスを改質して⽔素を取り出すなど、⼈⼯的に製造するために、効率的な製造技術の開発が活発に取り組まれています。

従来、天然⽔素はほとんど産出しないものと思われていました。その理由として考えられるのは、天然⽔素の発⽣に適した地質(先カンブリア紀の楯状地や中央海嶺・オフィオライトなどの超苦鉄質岩体(FeやMgを多く含んだ鉱物))は、⽯油天然ガス産業の興味の対象である、堆積盆地を中⼼とした掘削では、⽔素に富む天然ガスが発⾒されることはまれであり、関心がもたれませんでした。さらに、⾦属資源産業では、採掘対象になる地質ではありますが、鉱業活動において掘削中にガス組成を定常的にモニタリングすることはまれです。
今までは、発見される機会が少なかった天然⽔素だが、近年では脱炭素化の流れの中で、低コストのゼロエミッション燃料として注⽬を集め、スタートアップ、⼤学、研究機関等が探査を開始しています。研究論⽂数は、2019年頃から増加しており、最近では業界紙、専⾨誌のみでなく経済誌でも取り上げられるようになりました。
2021年からはH-NAT summitという天然⽔素探査のカンファレンスの開催が始まったことからも、天然⽔素への関⼼の⾼まりがうかがえる。
日本でも、JOGMEC((独)エネルギー・金属鉱物資源機構)が積極的に取り組んでいます。

 

2. 天然水素の生成プロセス

天然⽔素の⽣成プロセスとしては、⽔の放射性分解、蛇紋岩化反応、地球深部(コア、下部マントル)からの排出、⽕⼭活動、岩⽯のフラクチャリング(fracturing)などから得られる⾮⽣物起源のプロセスと、⽣成量は少ないが⽣物起源のプロセス(熱変成や微⽣物由来など)とがあります。
またその一方、微生物による消費や非生物的反応による消費などにより損失を発生します。

生物起源生成プロセスを除く、天然水素の生成、消費、貯留の各要因について示したものを、図1に示します。


図1 天然水素の生成、消費、貯留のプロセス(生物起源生成プロセスを除く) 出典:(独)エネルギー・金属鉱物資源機構

 

2.1 生成プロセス

(1)水の放射性分解

岩⽯中に含まれる微量のウラン、トリウム、カリウム等の放射性元素の壊変により発⽣する放射線によって⽔が分解され⽔素が発⽣します。この反応は速度が遅いため、先カンブリア紀などの古い岩体において、現在に⾄るまで⻑い時間をかけての⽔素⽣成が期待されます。また、ウランなどの放射性元素を多く含む性質のある花崗岩類は⽣成ポテンシャルが⾼くなります。

(2)蛇紋岩化反応

かんらん岩等の超苦鉄質岩が変質して蛇紋岩となる際に、⽔素が発⽣します。反応速度は⽐較的速く、天然⽔素の⽣成プロセスの中で、もっともよく研究されているプロセスです。⽩⾺⼋⽅温泉は、蛇紋岩体を掘削した温泉であり、観測されている⽔素は蛇紋岩化反応により⽣成したものです。トルコ(Chimaera)や、⾼純度の⽔素が観測されているオマーン(Samail)も同様のプロセスで⽔素を⽣成しています。

(3)地球深部(コア、下部マントル)からの排出

⽔素を⼤量に含む地球深部のコアや下部マントルから排出された⽔素が、プレート境界や断層に沿って浅部まで上昇するものです。

(4)⽕⼭活動

⽕⼭噴⽕時や噴気中に⽔素が観測されています(⽶国:ハワイ、ニュージーランド:White island等)。これはマグマから脱ガスしたものと考えられています。⽐較的低圧において脱ガスする際に、硫化⽔素(H2S)と⽔との反応により、⼆酸化硫⻩(SO2)と⽔素とが発⽣します。
  2H2O + H2S → SO2 + 3H2

(5)岩⽯のフラクチャリング(fracturing)

岩⽯のフラクチャリング(断裂・破砕)により⽔素が発生します。断層活動などにより岩⽯が破砕される際に、鉱物の主要構成物質である珪酸(SiO2)のSiとOとの結合が切れ、Siのフリーラジカルが発⽣して、⽔と反応して⽔素が発⽣します。

その他にも、多様な⾮⽣物起源の⽣成プロセスがあります。
また、⽣成量は多くないが⽣物起源の⽔素⽣成プロセスがあります。

(6)熱変成

堆積物が続成作用により堆積岩になる過程で生物市街からケロジェン(kerogen)が生成する際や、その後の熱分解による石油ガスの生成時にわずかに水素が発生します。

(7)微⽣物由来

⽔素⽣成菌(白色腐朽菌など)により⽣成されます。

[補足]

(1)項の蛇紋岩化反応について、もう少し詳しく記述します。
かんらん岩がその主要構成鉱物である、かんらん⽯や輝⽯の蛇紋⽯化変質により、蛇紋岩となる反応のことを蛇紋岩化反応といいます。かんらん⽯や輝⽯は鉄に富む鉱物であり、この「鉄」と「⽔」に、「熱」が作用して、⼆価鉄がら三価鉄に酸化するのに伴い、⽔が還元されて⽔素が発⽣します(図2)。

図2 蛇紋岩化反応  出典:(独)エネルギー・金属鉱物資源機構

この反応による⽔素発⽣は、鉄の酸化作用に起因するので、かんらん⽯、輝⽯に限らず、鉄を含む鉱物と⽔の反応によって⽔素は発⽣します。例えば、かんらん⽯を含まない過アルカリ岩分布域でも⽔素およびメタンが流体含有ガスや遊離ガスとして観測されており、岩石中に含まれる鉄に富む鉱物(角閃石)と水との反応により水素が発生すると推定されます(カナダ:Strange Lake、ロシア:LovozeroとKhibiny、グリーンランド:Ilımaussaq)。
フランスのSoultz-sous-Forêts地熱地帯では、基盤花崗岩に到達する5 000メートルもの⼤深度の井⼾を利⽤した地熱増産システムにより発電を実施しており、流体のガス相として0.25〜46.3%の⽔素が含まれていることが報告されています。花崗岩中含まれる雲母の鉄分が⽔と反応して発生する水素がその起源と考えられます。このように、多様な岩⽯(鉱物)と⽔との反応により、⽔素は⽣成されると考えられます。

全地球規模で年間の水素生成量は複数の研究がありますが、対象とする⽣成場、生成プロセスや、計算⽅法が異なっておりその結果は数万〜数千万ton/yearと幅があります。最も楽観的に⾒積もられているZgonnik (2020)によれば、22 680千ton/yearと⾒積もられています。これを体積換算すると2.54 ± 0.91 × 1011 m3/yearであり、天然ガスの世界⽣産量(2019年)の4.1 × 1012 m3/yearと⽐較すると一桁⼩さい数字にとどまっていますが、いずれの試算も⽣成プロセスの⼀部のみを対象としており、何れの研究も過⼩評価していると推定されます。
化石燃料が、数億年前に⽐較的短い期間に堆積した有機物を原材料として、続成作⽤によって⽣成するまでに⾮常に⻑い時間がのかかるのに対して、天然⽔素は⽐較的早い反応速度で、⻑期間・連続的に⽣成し続けていることを考慮すると、⼤量に存在している可能性もあると考えられます。

 

2.2 損失プロセス

⽣成された⽔素の⼀部は、地中の断層や裂罅(れっか:岩石中の割れ目)を伝って、または岩⽯中を浸透して上昇し、地中にとどまらず地表から漏出することもあれば、地中浅部における微⽣物によるエネルギー源としての利⽤や、地中深部で岩⽯やガスとの反応により失われます。

 

2.3 貯留プロセス

様々なプロセスで⽣成した天然⽔素のうち、損失プロセスで消費された分を除いた部分が、地中にとどまっていれば、⼀次エネルギーとして利⽤可能になる可能性があります。

(1)水素トラップ

原油や天然ガスの探査は、根源岩(商業的採掘の対象となるような量の石油炭化水素を発生する能力をもつ有機物に富む堆積岩で、暗灰色泥岩および頁岩や、炭酸塩岩が該当します。)からの⽣成したものが移動して、貯留岩に集積、トラップされて貯蔵された、油・ガス田を発見することにあります。これらを水素生成・貯留システムに適用すると、地下深部の根源岩(水素の場合は、かんらん岩や花崗岩など)で⽣成した⽔素が、断層、裂罅(れっか)や浸透しやすい岩⽯中を移動・上昇したのち、貯留層となる孔隙に富む岩相と、岩塩層や⽯灰岩層など⽐較的緻密な岩相(帽岩:キャップロック)とトラップに適した褶曲構造などがあれば、集積して天然ガスと同様に掘削による⽣産が可能になるかもしれません。また、断層活動や褶曲運動などのより生じた岩石の割れ目が卓越するフラクチャー構造も、一定量の水素を保持する貯留層となる場合があります。

(2)水素の直接生産

鉄分に富む蛇紋岩化反応による⽔素⽣成のタイムスケールはとても短いので、⽐較的浅部に位置する超苦鉄質岩から直接⽣産される可能性もあります。

(3)水素発生の促進

鉄分に富む超苦鉄質岩へ熱⽔を注⼊することによる⽔素発⽣の促進がはかれる可能性があります。これは、地熱増産システムと類似の考えです。さらに、注入する熱⽔に⼆酸化炭素を添加すれば、合わせて二酸化炭素を地下に固定して貯留が可能になり、CCS(CO2の固定)手法として用いられる可能性があります。

 

3. 天然水素の存在場所

天然⽔素は、トルコ(Chimaera)、オマーン(Samail)、スペイン(Ronda)、カナダ(Tableland)、ニューカレドニア(Prony Bay)、イタリア(Voltry Massif)や、⽇本(長野県)等の世界各地で、また陸上のみでなく海底(中央海嶺付近の熱⽔鉱床)においても観測されています。⼀⽅で、メタンやヘリウムと混合していることが多く、⾼純度の⽔素ガスが得られることは、一部(マリ:97.4vol%やオマーン:93.8vol%)を除いては珍しいです。
天然⽔素は、⽔と様々な岩⽯の反応プロセスにより⽣成されるため、⽣物の死骸が堆積して地中で化学変化を起こして⽣成される⽯油やガスのように、中東などの⼀部地域に偏在することは無く、世界のいろいろな場所で発⾒される可能性があります。
⽇本では、⻑野県の⽩⾺村に位置する、強アルカリ泉(pH11.4)の⽩⾺⼋⽅温泉で天然⽔素(溶存水素と遊離水素ガス)が観測されています。国内では唯一高濃度の天然水素が観測される地域です。この地域は、かんらん岩や蛇紋岩が地表に表れているエリアであり、その地下では蛇紋岩化作⽤によって天然⽔素が⽣成されていると考えられており、生成された⽔素が温泉⽔とともにくみ上げられています。

 

4. 天然水素の可能性

天然水素の存在は、エネルギー資源として水素が抱える問題点をクリアに出来る可能性があります。

4.1 水素を安価にかつ潤沢に供給できる可能性

水素はクリーンなエネルギー資源なので、発電(⽕⼒発電所での混焼や専焼)、輸送(燃料電池⾞、水素エンジンなど)や、製鉄(還元剤)での利⽤が注⽬されています。しかし、現在は製造コストが高いことが、大きなネックとなっており普及が進んでいません。
もし、純度の⾼い天然⽔素が大量に、⾃然に地下に溜まっていて、それを容易に取出すことが可能ならば、⽔素を安価かつ⼤量に供給できる可能性があります。そうなれば、⽔素の普及につながり、カーボンニュートラルの実現に⼤きく貢献するでしょう。

4.2 非資源国が資源国になる可能性

天然⽔素は、世界各地で観測されています。そのため、これまでのエネルギー地政学を大きく変化させる可能性を秘めています。⽇本でも多くの天然水素が確認できれば、⽯油や天然ガスの我が国でも、⾃国で新たな天然資源を確保できる可能性があります。

 

5. 資源としての天然水素の課題

天然水素は、エネルギー資源として⼤きな可能性を秘めています。ただし、資源として活⽤する上では、検討しなければならない課題が、いろいろあります。

 

5.1 経済性を計算できない。

天然⽔素は、世界各地で確認されていますが、その⽣成プロセスについては、それぞれのサイトで研究を進めている段階です。また、どこに、どのようなプロセスで集積しているのかが、ほとんど解明されておらず、どのくらいの量が存在するのかを、算出する⽅法も確⽴していません。
このように、存在量が不明確な状況では、天然⽔素の開発がはたしてビジネスとして成⽴するかの判断ができません。天然⽔素はグリーン水素などの⼈⼯的に生産される水素と比較して、低コストで供給できるのではと期待されていますが、実際に経済性が確保できるかどうかを正確に計算できないのが現状です。

5.2 サプライチェーンが未確立

天然⽔素に限らず、⼈⼯の⽔素も含めた⽔素全般が抱える課題として、⽔素をエネルギー資源として利⽤するための⼤規模なサプライチェーン(⽣産→流通→利⽤といった⼀連の流れ)がまだ確⽴しておらず、日本を含めた世界で、その構築に向けた動きが始まったところです。
そのため、現状ではたとえ条件の良い天然⽔素貯留層が発⾒されたとしても、需要が少ない=買い⼿が少ないということで、直ちに⼤規模開発を進めることは難しいと言わざるを得ません。

⽇本はエネルギー政策として、2030年までに発電量の1%を⽔素にするという⽬標を掲げていますが、供給だけでなく需要も同時に創出することが必要になります。

 

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参考文献
天然水素の動向  小杉安由美  2023/08/31  JOGMEC⽯油・天然ガス資源情報ウェブサイト
     https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1009585/1009871.html
Natural hydrogen  Wikipedia  2024/02/18DL
HIDDEN HYDROGEN : Does Earth hold vast stores of a renewable, carbon-free fuel?  Eric Hand Science  Vol.379 16 FEB 2023

 

引用図表
図1 天然水素の生成、消費、貯留のプロセス(生物起源生成プロセスを除く) 出典:(独)エネルギー・金属鉱物資源機構
図2 蛇紋岩化反応  出典:(独)エネルギー・金属鉱物資源機構

 

MOD:2024/02/23
ORG:2024/02/21

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